SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 10, No. 1, Feb. 2001.

4.金を含む新しい銅酸化物超伝導体発見される
_無機材質研究所_


 最近、C60FET、アントラセンFET、MgB2など、超伝導をめぐる物質開発のホットな話題が続いているが、銅酸化物系においても新たな超伝導体の探索研究は活発に続けられている。つくばにある、無機材質研究所の室町英治総合研究官らのグループは、超高圧反応を銅酸化物系に適用することで、多数の超伝導体の合成に成功しているが、今回、金を含む新たな銅酸化物超伝導体系列を発見した。5d8の電子構造を持つ3価の金は強いヤーン・テラー効果によって、2価の銅と同様に平面4配位を取ることが知られている。このことから、超伝導体中の銅を置換する元素の有力な候補と目されてきた。実際、フランスのグループによって、123型超伝導体のCu1サイト(チェーンサイト)が全て金で置換できることが報告されている。しかし、高温で不安定な金酸化物は通常の常圧合成の対象とはならず(フランスのグループも約1.8万気圧の高圧条件を用いている)、目立った展開は得られていなかった。

 室町氏らのグループは約6万気圧、1300℃の高温・高圧条件を使うことで、AuBa2Ca2Cu3O9 (Au-1223) 及びAuBa2Ca3Cu4O11 (Au-1234)の2種類の超伝導体の合成に成功している。これらは、AuBa2Can- 1CunO2n+3 [Au-12(n-1)n]で示されるホモロガス系列のそれぞれn=3、4のメンバーに相当する。Au-1234相のTcは99Kであり磁化率、電気伝導度測定によってバルクの超伝導が確認されている。Au-1223のTcは20K程度であるが転移はブロードであり、超伝導の体積分率もあまり大きくはない。現在この原因が検討されているが、低温アニールによって過剰酸素を一部除くと体積分率が上がることから、オーバードープ領域にあるものと考えられている。同グループはAu-1223相の単結晶取得に成功しており、X線構造解析が進んでいる。予備的解析によると、金は当初の予想通り平面4配位を取っており、Au-Oのチェーンが構造中を走っている。これによって、チェーン方向に長い斜方晶の格子が形成されており、123系とよく似た構造的特徴が明らかにされつつある。

 室町氏の予想によれば、高圧条件下では今回の例に限らず、まだまだ多数の未知超伝導体が存在しているということであり、今後の同グループの奮闘に期待したい。

(HP)