その後、年末には高木英典教授(東大新領域)による直接のメール交換により、バトロッグ博士自身は「そのような話を知らない」と言っていることが分かったが、「彼は慎重な人なので、よりきちんとした結果がでるまで待っているのではないか」という観測も巷に流れていた。
1月に入り、長谷川泰正助教授(姫路工業大学理学部物質科学科)より以下のような非常に説得力のある、「噂の真相」が明らかにされたので、紹介する。
「C60で90K以上の超伝導というのは、-366F=(0K)+94F=52Kのこと(Nature 408, 549(2000))だったのですね。アメリカンスタンダードは人騒がせですね。でも、High Tcのときにイッテルビウム(Yb)でも超伝導になったように、誰かがやってみて本当になるといいと思います。」
ちなみに、このこと(華氏温度)が原因らしいということが明らかになったのは、日本物理学会の分子性固体・有機導体 分科を中心メンバーとするメーリングリストに、谷垣勝己教授(大阪市立大学理学部物質科学科)により以下のニューヨークタイムズの12月5日付け記事が紹介されたことによる。温度単位が原因ではないかという指摘は、鯉沼秀臣教授(東京工業大学応用セラミックス研究所)によってもなされていたという。NYタイムズにKenneth Chang記者が書いた記事の原文は以下のようである。
Writing in the current issue of the journal Nature, researchers from Lucent Technologies Inc.'s Bell Labs in Murray Hill, N.J., report that the Bucky ball-aluminum oxide combination remains superconducting at temperatures up to minus 366 degrees, or about 94 degrees above absolute zero.
この記事をよく読むとNatureの記事を一般向けに紹介したもので、温度が華氏であることが分かるが、「絶対温度ゼロ度から94度高い温度」というくだりを鵜呑みにした人達が噂を広げたものと思われる。アメリカの度量衡は「非関税障壁」という声もあるが、人騒がせな面もあるようだ。
(Super Ears)