SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.1, Feb. 2001

17.HTSに関する日独ワークショップ開かれる


 超電導に関する日独ワークショップが平成12年10月18、19日の二日間東雲の超電導工学研究所で開催された。

 ドイツ連邦首相と日本国総理大臣の合意に基づいて設置された「ハイテクおよび環境技術に関する日独協力評議会」が主催するもので、評議会は、産業、科学、政府各界の代表者によって構成されており、森 亘元東京大学総長とハインツ・リーゼンフーバ連邦議会議員が共同で議長を務めている。

 過去に・地球環境技術展「ニューアース」(96、大阪)

・「環境LCA(エコバランス)に関する日独の専門家ワークショップ(96、東京)
・「マルチメディアが社会に及ぼす影響」に関する専門家ワークショップ、世界賢人会議のコンセプト作成(97、東京)
・「建設副産物リサイクルに関する日独シンポジウム」(97、ベルリン)
・「クリーンコール・テクノロジー」に関する専門家ワークショップ(97、エッセン)
が開かれた。当初94年から3年間の予定であったが、98年に更に3年間延長することが決まった。
今回、評議会委員の一人である植乃原道行氏(元NECリサーチインスティチュート会長)から、超電導工学研究所の田中所長に「日本及びドイツにおける高温超電導の研究・開発・実用化の現状と展望」に関するワークショップを開きたい旨ドイツ側からあったので協力して欲しいとの要望が出されたのが開催経緯である。

 開催趣意書は、超電導実用化に専心する読者を勇気づけるのではないかと思われるので全文を記載する。

 「1986年に発見された高温超電導体(HTS)は、既に存在した金属系超電導材料と相補って超電導技術の実用化に大きな希望を与えた。各国政府は、HTSの研究開発を国の重要先端技術の一つとの認識の基に強力に推進してきた。

 今日、超電導技術の進歩と相俟って、その製品化または実用化に向けた努力が、日・米・欧を中心に世界的規模で推進されており、超電導技術の電力、医療、エレクトロニクス、通信といった分野への導入を21世紀の最重要課題の一つとの認識に立っている。

 このような世界環境の中において、超電導の研究開発、実用化の面で、世界をリードしている日本及びドイツ両国のこの分野における第一人者が一同に会し、両国における高温超電導技術の現状と将来展望を、国家プロジェクトや電力、エレクトロニクス、研究等の分野について検討と討論を行うことで、両国はむろんのこと、世界的規模での超電導産業の健全な育成、発展に寄与することを目的とするものである。

 ワークショップは超電導工学研究所田中所長、植乃原委員およびマックスプランク研究所Hans-joachim Quisser博士のOpening Remarksに引き続き、両国官僚による夫々の超電導に関する国家プロジェクトの紹介があった。ドイツ連邦教育研究省のW.Schott博士からは、「材料の理解」と「応用およびデモ」に重点化し、とりわけ'95以降は後者に注力していること。基礎研究は応用開発の中で進める方針に転換したことが強調された。市場を見極めるためにユーザ参加型を採用。現時点で最も大きなポテンシャルを有する市場としてはセンサーを考えている。

 2000年度のHTSに関する政府予算は3000万DM。主要プロジェクトはセンサー(非破壊検査用)、通信技術(衛星通信用コンポーネンツ、マルチプレクサー、フィルター)、電力(SMES、FCL(低圧用))。

 一方、我が国からは工業技術院の梶村院長が、産業技術環境の変化と日本の産業力の弱体化の現状を打破すべく、2001年から10年間で16分野について国家産業技術戦略を立案したとの報告がなされた。この中で超電導が関与する分野は、IT戦略の重要技術(ネットワーク技術、高性能計算機、ヒューマン・インターフェイス)の中の高性能計算機(高速、低消費電力)とエネルギー戦略での重要技術(環境、省エネ、高効率電力供給)の中の高効率電力供給であるとの紹介があった。政府予算は5省庁合計が126億円(2000年度)である。

 この後、分野毎の現状紹介が両国からなされた。以下にはセッション名と講演者の名前及び内容タイトルのみ記す。

Electric Power;P.Komarek(Karlsruhe、HTS電力技術と高磁場マグネット)
正田(理科大、SMES))、植田(電中研、交流基盤PL、電力送電システム)
W.K.Knorr(Siemens、鉄道用トランス)、原沢(東電、HTS電力ケーブル)
Electronics; T.Kasser(Bosch、HTS衛星通信)、曽根(NEC、HTS通信)
P.Seidel(Friedrich-Schiller大、JJとSQUIDの応用)、糸崎(住電、HTS-SQUID)
J.Niemeyer(Physikalisch-Technisch Bundesanstalt、SCエレクトロニクス)
田辺(SRL,SFQデバイス)
Research and Others;C.Freyhardt(Gottingen大、欧州におけるHTSテープ)
塩原(SRL,HTS Coated Conductors)、中島(JR東海、浮上式鉄道)
佐保(日立、磁気分離)、P.Horsch(Max Planck研究所、強相関)
田島(SRL、HTS 銅酸化物の電子状態)
Wrap-up Meeting;H.W.Neumuller(Siemens、HTS電力応用の市場予測)
中原(住電、HTS線材の現状と見通し)、H.Chaloupka(Wuppertal大、応用見通しについてのある結論)、諸住(三菱総研、超電導による省エネ効果)

 以上が2日間に亘って発表及び討論されたテーマである。内容は基礎物理・化学から電力、エレクトロニクス応用まで多岐に亘ったが、両国の研究内容を理解するという目的は達成されたように思える。米国ほどの派手さはないが、カールスルーエ研究所のKomarek博士が言っていたように、ドイツでの開発は着実に進められているという印象を強く持った次第である。今後とも何らかの方法で集中的に情報交換できる場が望まれる。

(OHS)