SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.1, Feb. 2001

16.Y系積層型接合開発の進展 _三菱電機_


 三菱電機は、昨年9月18日〜22日に米国バージニアビーチで開催された応用超電導国際会議(ASC2000)で、積層接合の開発状況について報告した。単一磁束量子(SFQ)デバイスによる高温超電導デジタル回路応用に向けて、各種のジョセフソン接合の開発が現在活発に進められている。この中では、ランプエッジ型接合において、高性能で特性ばらつきが少ない結果が得られており、現在最も有望視されている。これに対して積層型接合は現在、名古屋大学、電総研、三菱電機などが開発に取り組んでいるものの劣勢である。ランプエッジ型と比べて、現在開発中のNb系回路設計技術の応用が容易であること、高速化に不可欠な浮遊容量の低減がはかれるなどの利点をもつものの、特性上の問題点が多い。とりわけ特性ばらつきが大きいことが最も深刻な問題である。今回の三菱電機の発表は、積層型接合においても特性ばらつきが比較的小さい結果が得られたというもので、積層型接合にも回路応用の可能性が残されていることを示すものである。

 発表によれば、基板にLaAlO3-SrAl0.5Ta0.5O3(LSAT)の7°傾斜のものを用い、PrBaCuOをバリア層としたc軸配向のYBaCuO/PrBaCuO/YBaCuO三層構造をRFマグネトロンスパッタで形成し、接合を作製している。

 接合特性は以下のようなものである。臨界電流の磁場依存性は理想的なフラウンフォーファ・パターンを示している。また磁界による臨界電流の変調率は90%以上ある。つまりジョセフソン電流以外の過剰な超電導電流が少ないということで、これらの結果は一接合内でのバリアが均一にできていることを示唆する。他方、一チップ内で測定した14個の接合の臨界電流値のばらつきを示す標準偏差σは11%であり、ランプエッジ型には及ばないものの、これまでの積層型接合に比べれば飛躍的に向上しており、今後に期待がもてる結果である。

 研究担当者の黒田研一氏によれば、「傾斜基板を使用することで、c軸配向のYBaCuO膜の成長に特有なスパイラル成長モードが抑制されて、ステップフローモードに変化した。その結果、バリア界面の表面形状が滑らかになったことが、特性ばらつきの低減につながっているのではないか」と言う。また成膜を担当している西和久氏も「バリア膜厚が15nmと比較的薄いにもかかわらず、過剰電流が少ないことも界面の形状が改善されたことを示唆している」と述べる。

 ただし臨界電流値は0.3mA(臨界電流密度に換算すると70mA/cm2)で、回路応用にはまだまだ低い。この点について、チームリーダーの高見哲也氏は「ランプエッジ型接合で適用されている界面改質バリアを用いれば、臨界電流値は向上するのではないか」「当面、1000mA/cm2の臨界電流密度と100接合でσ=8%の特性ばらつきを目標にしたい」と言う。今後の特性向上を期待したい。

(室温超電導)


図1 電流電圧特性(X:0.1mV/div., Y:0.2mA/div.)  


図2 臨界電流の磁界依存性(x:0.25mT/div., Y:0.1mA/div.)


図3 臨界電流ばらつき