発表によれば、基板にLaAlO3-SrAl0.5Ta0.5O3(LSAT)の7°傾斜のものを用い、PrBaCuOをバリア層としたc軸配向のYBaCuO/PrBaCuO/YBaCuO三層構造をRFマグネトロンスパッタで形成し、接合を作製している。
接合特性は以下のようなものである。臨界電流の磁場依存性は理想的なフラウンフォーファ・パターンを示している。また磁界による臨界電流の変調率は90%以上ある。つまりジョセフソン電流以外の過剰な超電導電流が少ないということで、これらの結果は一接合内でのバリアが均一にできていることを示唆する。他方、一チップ内で測定した14個の接合の臨界電流値のばらつきを示す標準偏差σは11%であり、ランプエッジ型には及ばないものの、これまでの積層型接合に比べれば飛躍的に向上しており、今後に期待がもてる結果である。
研究担当者の黒田研一氏によれば、「傾斜基板を使用することで、c軸配向のYBaCuO膜の成長に特有なスパイラル成長モードが抑制されて、ステップフローモードに変化した。その結果、バリア界面の表面形状が滑らかになったことが、特性ばらつきの低減につながっているのではないか」と言う。また成膜を担当している西和久氏も「バリア膜厚が15nmと比較的薄いにもかかわらず、過剰電流が少ないことも界面の形状が改善されたことを示唆している」と述べる。
ただし臨界電流値は0.3mA(臨界電流密度に換算すると70mA/cm2)で、回路応用にはまだまだ低い。この点について、チームリーダーの高見哲也氏は「ランプエッジ型接合で適用されている界面改質バリアを用いれば、臨界電流値は向上するのではないか」「当面、1000mA/cm2の臨界電流密度と100接合でσ=8%の特性ばらつきを目標にしたい」と言う。今後の特性向上を期待したい。
(室温超電導)
図2 臨界電流の磁界依存性(x:0.25mT/div., Y:0.1mA/div.)
図3 臨界電流ばらつき