SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.1, Feb. 2001

15.ウイスカー十字型接合による
固有ジョセフソン特性の発現
_金材研_


 科学技術庁金属材料技術研究所(平成13年度より物質・材料研究機構と改称)第一グループ第三サブグループの高野義彦氏、羽多野毅氏、戸叶一正氏らのグループは、ビスマス系高温超伝導ウイスカー(ヒゲ状結晶)を二本用いて、電気炉で加熱接合するだけで、固有ジョセフソン特性を再現性良く発現させることに成功した。固有ジョセフソン接合は、高温超伝導体が自然に備えている、超伝導体層と絶縁体層の積層構造を、ジョセフソン接合アレイとして利用したものである。近年、立木らにより、テラヘルツ帯の電磁波が発生させられると理論的に予想されたことで、未踏周波数への可能性が示され、この分野は大変注目を浴びている。

 高温超伝導ウイスカー結晶は、ビスマス系超伝導体にのみ成長する。ウイスカーの作成方法は、基本的に大阪工業技術研究所の松原らの手法に従っている。まず最初に、Bi2O3, SrCO3, CaCO3, CuOをBi:Sr:Ca:Cu=3:2:2:4の比となるよう秤量した出発原料を、1200度で溶融させた後クエンチし、アモルファス状の前駆体を得る。次に、その前駆体を850度で数日間、電気炉で加熱すると、ウイスカーは前駆体表面に、ウニのトゲのような形状で成長する。この際、酸素分圧を70%程度に選ぶことで、ウイスカーの成長速度は著しく促進される。エックス線解析によると、ウイスカー結晶は、細長い良質な単結晶で、その大きさは、長辺(a軸)は大きなもので10 mm以上、幅(b軸)10-40 μm、厚み(c軸)1-4 μm程度である。得られたウイスカーの中から適当な二本を選び出し、MgO基板上に十字型となるよう交差させ重ねて置く。この際、ウイスカーのc面が、基板の表面と平行になるよう向きを揃える。酸素70%アルゴン30 %混合ガス気流中、約850度30分間加熱し、二本のウイスカーを接合する。

 図1は、ウイスカー十字型ジャンクション接合部のSEM写真である。ここでウイスカーは、ジャンクションを形成するとともに、そこへ電流を導くリードとしての役割も同時に担っている。このことにより、発熱の防止、及び熱の流入を抑制することができると考えられる。各ウイスカーの両端に、銀ペーストで電流及び電圧端子をとり、ジャンクションの電流−電圧特性を測定した。図2に、5Kゼロ磁場中、電流バイアスで測定した電流−電圧特性を示す。固有ジョセフソン効果に特徴的な規則正しい電圧の飛びブランチ構造が現れている。電圧の飛びは15mV程度で、一枚の固有ジョセフソン接合の値に相当する。臨界電流値(約11 mA)とジャンクションの面積から、臨界電流密度は、約1170 A/cm2と見積もられ、一般的な固有ジョセフソン接合の臨界電流密度と良く一致している。臨界電流密度は、測定温度の上昇と共に減少し、超伝導転移温度に向かって、なめらかな曲線を描いて減少した。

 本研究では、ウイスカー十字型ジャンクションを考案し、電気炉一つで、固有ジョセフソン接合を作成することに成功した。ウイスカー結晶は細長い形状であるから、何ら微細加工を施すことなく、小さな接合を作ることが可能なのである。高野義彦氏らは、「ウイスカー十字型ジャンクションにより、高価な微細加工装置を使わずに、きわめて簡単に固有ジョセフソン接合を作成することができるようになった。テラヘルツ発信の可能性を含め、基礎研究から応用に至るまで、たくさんの可能性を秘めた固有ジョセフソン接合であるが、今回の発見を機に、この分野の研究開発がさらに盛んになることを期待してやまない」と述べている。

(酔龍)


図1 ウイスカー十字型ジャンクション接合部


図2 ウイスカー十字型ジャンクションの電流
−電圧特性のSEM写真