SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.1, Feb. 2001

12.最近のヘリウム供給事情


 昨年の中頃から、「ヘリウムの価格が値上げされる」との情報が米国からもたらされ、8月21日付けのSuperconductor week誌ではBOCの8〜12%の値上げが報道される等、ヘリウムのユーザー、特に大量にヘリウムを消費されている方々から、その実状を知りたいのとの声が聞かれるため、ここにヘリウムの現状について説明する。

 供給と消費

 少し古いが1995年の資料によると、世界のヘリウムは、米国、アルジェリア、ロシア、ポーランドで生産され、合計143百万m3/年の供給能力を持っていて、そのうち米国が19の基地から世界の80%近くの114百万m3/年の設備で、約100百万m3/年を供給していた。当時の日本のヘリウム輸入実績は、10.02百万m3/年を全量米国から輸入していたから、米国製造量の10%が輸入され、米国の総輸出量は27.7百万m3/年で、輸出の36%を日本が占めていたことになる。しかし、その年にアルジェリアが稼動を開始して、EUの輸入先は大きくこちらに移って、現在では日本向け輸出量は、米国の輸出の55%を占めるようになってきている。1997年に日本の輸入量は12.52百万m3まで増加したが、日本のヘリウム消費は、その後2年間は横這い状態を続け、昨年は前年比で5%を超える増加をした。

 米国のヘリウム供給に関する事情は、備蓄の問題や鉱山局との関係など複雑だが、日本のヘリウム輸入を担当しているメーカーは、米国の供給会社(世界の四大ガスメジャー)の何れかと契約を結んで、低温コンテナで液体の形で日本に輸送している。この供給会社と輸入業界の関係は、下記のようになっている。

・AIR LIQUIDE=日本エア・リキード
・APCI =日本ヘリウム
・BOC =ジャパン・ヘリウム・センター
    =大阪酸素工業
・PRAXAIR=岩谷産業
    =ユニオン・ヘリウム・センター

 このように米国に偏った供給状況にあるヘリウムであるが、6月にPRAXAIRのカンサスにあるUlysses工場が不調となり、7月に一工場で世界の20%近くを供給すると言われるExxonの工場で操業率が低下、時を同じくしてアルジェリアのプラントが定期修理に入って立ち上がらなくなった。Exxonは四大メジャーにヘリウムを供給しているから、これで日本のヘリウム輸入メーカーは少なからず影響を受けることとなった。

 アルジェリアのヘリウム供給能力は、約17百万m3/年で主としてEUに供給していたため、これを米国から供給しなければならなくなり、世界的にヘリウムが不足してしまった。

 値上げの可能性

 このようなヘリウムの世界的な不足は、価格上昇の可能性を秘めているが、BOCが価格改定を発表したのは、この供給能力低下が発生する前で、不足とは直接的な関係は無いと言える。今年に入って米国の景気に陰りが見え始めてきたと言われるが、米国では光ファイバー産業などは好調を持続していて、ヘリウムの需要も依然と旺盛と報告されている。

 供給不足とは別に、むしろ昨年後半からの原油価格の高騰によるエネルギーコストの増加、これに伴う輸送費の増加、好況による人件費の高騰、等々が価格改定を必要としている要因とみるのが正しいと思う。

 供給会社と日本の輸入メーカーは、夫々が価格、コンテナの使用料、等に関して契約を締結して運営しているが、価格に関しては1年毎に改定されるようになっているものと想像される。このような状況の下では、いずれ契約改定時には値上げの要求が出てくると考えるのが順当だろう。

(アマリロの星)