SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.1, Feb. 2001

1.リニアモーターカー向け高温超伝導コイル磁石開発へ
_軌道工費大幅低減が狙い_
国土交通省・経済産業省


 これまで、国土交通省(旧運輸省)は高度な信頼性を必要とするリニアモーターカー用車載磁石としての高温超伝導コイルの開発には静観の態度をとっていた。最近の高温超伝導線材と小型冷凍機の著しい性能向上に伴って、遂に国土交通省は産業経済省(旧通産省)と共同体制をとり、その開発へ向けてスタートが切られた。

 現在、山梨で試験が進められている超伝導リニア磁気浮上列車では、浮上のために使われる多数の常伝導地上コイルが軌道敷設コストを高いものにしているとされる。現在の方式では50cmに1個づつのコイルが敷設されるが、例えば、これを150cmごとに1個となるように間引くことにすれば、コストは3分の1に下がる。しかしながら、この場合には、列車を浮上させる車載磁石には、地上コイルからより大きな衝撃力が間歇的に加わることになる。したがって、磁石に対する衝撃と熱発生が大きくなるために、低温超伝導磁石では制約が大きい。もしも、高温超伝導磁石が適用できれば、使用温度が高いために熱のくみ出しは容易である。また、磁石がクエンチしにくいことも有利なファクターとなる。このため、磁気浮上列車の車載磁石には高温超伝導磁石が有利と見られていた。しかしながら、車載磁石のもう1つの必須性能は「軽い」ということであり、これまでは高温超伝導線材の臨界電流が低いために、それは、候補として浮かび上がることがなかった。最近の高温超伝導材料の性能向上につれて、この問題がいよいよクローズ・アップされてきた。

 1986年、酸化物系超伝導体が初めて発見されて以来、次々に高いTcを有する材料が発見されて、超伝導応用の可能性が大きく拡がった。最近、とくにBi系超伝導体の線材化技術が進歩し、長尺化、高強度化及び高Jc化の技術開発が積極的に進められ、実用超伝導機器全般に適用できるレベルに達している。Bi系線材の応用についていえば、大口径Si単結晶引き上げ炉用マグネット(本誌Vol.9, No.1)、100m長3相電力ケーブルの試作・試験計画(本誌Vol.8, No.6)、1000kVA超伝導トランス試作・試験結果(本誌Vol.9, No.5)等が進行中である。輸送に関しては、従来超伝導線材に比べ安定性が高く、冷却コスト等経済性も向上すると考えられており、超伝導コイルの高温超伝導化が期待されていた。

 ある情報通によると、1月末開催されたNEDO理事長説明会で"高機能性Bi系線材・コイルの開発プロジェクト(2カ年)が、2001年4月スタートする"ことに決定したそうである。これに先立つ、昨年11月、通産省と運輸省が連携・共同して、高温超伝導磁石技術検討会を設置した。今まで数回の検討会で、超伝導磁気浮上式鉄道の現状及び高温超伝導線材の開発状況を把握し、リニア向け高温超伝導線材及び高温超伝導磁石に対する仕様検討を行ってきている。3月末日までに、比較的高温の20K及び5Tの高磁界で稼動する高機能性Bi系線材・コイルの基本仕様を含めた答申が提出される予定という。尚、初年度の予算として5億円が内定しているようである。

 この予備プロジェクトが成功裡に進展するならば、列車用の高温超伝導磁石車載型台車試作・試験という本プロジェクトに繋がることになり、低コスト超伝導リニアの実現性が一層高まることが期待されよう。いずれにせよ、Bi系線材が検討対象に採用されたことは、高温超伝導界にとっての意義は大きい。今後の進展を注視していきたい。

(PKK)