SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 6, Dec. 2000.

8.Bi2223世界初の単結晶化成功
_東京理科大・NTT物性基礎研_


 東京理科大学とNTT物性基礎研の共同研究グループは、2000年物理学会春の分科会において、TSFZ法を用いたBi2223単結晶の成長に成功したと報告した。

 TSFZ法は、従来高温超伝導体の成長に多く用いられるflux法と異なり、組成-温度相図の上の一点で成長が続けられるという利点がある。そのためBi2223のような液相線が非常に狭いと思われる物質でも原理的には単結晶成長が可能である。NTT物性基礎研主任研究員の渡辺孝夫氏は、Bi2223単結晶成長には以下の3つの点が重要であるとコメントしている。「1.結晶成長速度は、過飽和度によって決まり、液相線が非常に狭い物質の場合、過飽和度が大きくとれないため成長速度を遅くしなければならない。2.溶融部分は表面張力によって支えられているために、そのサイズは小さい方が安定して成長できる。ここでは300-Wの小さいハロゲンランプを用いて温度勾配をつけることによってより集光率を上げ、融液部分を小さくしている。3.溶融部分と結晶の組成の違いにより溶融部分の固液界面付近には組成の不均一が生じ、組成的過冷却をおこす。低速成長と、大きな温度勾配によって、この組成的過冷却を避けることが出来る。」

 実際の結晶成長のプロセスは、原料となるBi2O3, SrCO3, CaCO3, CuOをBi:Sr:Ca:Cu=2.1:1.8:2:3の比率になるように混ぜ、780度で12時間仮焼きを2回行う。それを棒状に固めたものを860度で50時間焼いたものを原料棒として用いた。この状態で帯磁率を測るとTcが、約85KのBi2212が成長しており、焼結体でさえもBi2223の合成が困難であることが分かる。この原料棒を300-Wのハロゲンランプを2個装備した双楕円の赤外線集中加熱炉で、25mm/hの速度でプリメルトしたあと、成長速度0.05mm/hで結晶成長させた。

 結晶成長の最後の1cmの部分から非常に大きな結晶(4*2*0.1mm図1)が得られた。X線回折では、鋭いBi2223のみのピークが見られ(図2)、帯磁率の測定ではas-grownのサンプルでTc=105 Kにおいて非常にシャープな転移を示す。このサンプルを酸素雰囲気、600度でアニールすると、Tcは最大の110 Kに達する。また断面TEM写真にはBi-2212相が混入しているのが確認されたが、その総量は全体の約2%以下であった。結晶成長の初めから中頃あたりの部分は、結晶も小さく、Bi2212相も比較的多く混入していた。このことについて、実際に結晶成長を行った東京理科大学の藤井武則氏は、「結晶成長の初めにソルベントを用いなかったために、結晶成長の最後の部分になってやっとソルベントがBi2223の結晶成長に最適化したためであろう。」とコメントしている。実際に溶融部分の組成を調べ、その組成のソルベントを用いて結晶成長を行うと、結晶棒全体にわたってBi2212のインターグロウスの少ない結晶が得られた。しかし、結晶の大型化には別の要因があると思われ、Bi2212の様に大型で良質のサンプルを結晶棒全体において成長させるにはまだ最適化すべき条件が多く残されている。

 BSCCO系超伝導体は、現在最も多く研究がなされている物質の一つであり、劈開性が良く清浄表面が得られることからARPESやSTMの測定に適している。このBi2223単結晶成長の成功によって、BSCCO 系の系統的な物性測定を可能にするだけでなく、多層系の高温超伝導体についての理解を深めることが出来る。実際に抵抗率のドーピング依存性を測定より、オーバードープ領域ではTcがドープ依存しないことが確認され、このことより藤井氏はISS2000において、「オーバードープ領域では、内側と外側のCuO2面でキャリア濃度が異なり、キャリアは主に外側の面にドープされ内側の面はオプティマムを保つためにTcが下がらない。」とコメントしている。

(God Hand)


図1 得られた単結晶


図2 As-grownサンプルのXRDパターン