SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 6, Dec. 2000.

6.超伝導体の表面抵抗試験方法標準化に向けて進展
_電総研ほか_


 超伝導薄膜のマイクロ波帯表面抵抗測定法の国際標準化に向けた活動が進展している。移動体通信や衛星通信の分野で混雑の回避や通信エリアの拡大のためにシャープな周波数特性を有し、かつ低損失な高性能フィルターへの要求が高まっており、超伝導薄膜を利用したフィルターへの期待が大きい。マイクロ波帯におけるフィルター特性を決定づける最も重要なパラメーターは表面抵抗である。超伝導体はマイクロ波帯において銅や金のような常伝導金属に比較して2桁から3桁小さい表面抵抗値(70 K、10 GHzにおいて0.2 mオーム程度)を有する。小さな表面抵抗特性を利用することにより次世代移動体通信やソフトウエア無線に要求される厳しいフィルター特性の実現が可能となるので、開発が加速されている。

 しかしながら超伝導体の極めて小さな表面抵抗を精度良く測定する方法は確立されていない。測定方法、ハンドリングによる測定値の食い違いが大きい。超伝導体の製作方法や供給者の違いによる超伝導薄膜の性能比較を可能とし、材料メーカー、部品メーカー、機器メーカー間の商取引を活性化するためにも表面抵抗測定法標準化へのニーズが大きい。このため、日本が幹事国となっている国際電気標準会議第90技術委員会(IEC/TC90)において超伝導薄膜マイクロ波表面抵抗特性測定法の国際標準確立に関する活動が97年より開始された。エレクトロニクス特性測定法ワーキンググループ(WG8、コンビーナー:早川尚夫名古屋大教授)が組織され、中国、ドイツ、日本、韓国、米国の各国のナショナルコミティーが参画している。

 表面抵抗測定法原案作成は先進材料特性評価法の標準化を目指す国際活動であるVAMAS活動の一環として、薄膜材料ワーキンググループ(委員長:小林禧夫埼玉大教授)が中心となって進められている。ベースとなる測定法として誘電体円柱共振器法(2共振器法)が採用された。誘電体損失の小さなサファイア円柱を2枚の超伝導薄膜でサンドイッチすることによりマイクロ波帯の共振器を構成する(図参照)。この共振器のQ値を測定することにより共振器の損失を求めることができる。共振器の損失の原因となるのは超伝導薄膜の表面抵抗による損失とサファイア円柱の誘電体損失である。誘電体損失が既知であればQ値の測定から直接表面抵抗を求めることができるが、一般には両者を分離して測定することはできない。2共振器法では直径が等しく高さの比が3倍の2本の誘電体円柱を用いる。2本の誘電体円柱の損失特性(tanaが等しければ、同じ超伝導薄膜を用いた2つの共振器のQ値の測定から表面抵抗と誘電体損失を独立に決定することが可能となる。

 実際の測定では測定精度を上げるために多くの課題をクリアしなければならない。どこまで損失特性のそろった2本の誘電体円柱が手に入れられるか、また、どうやってそれを選び出すかも課題である。サファイアは誘電体損失の極めて小さな高品位のCZ法単結晶を用いる必要がある。また、表面抵抗も誘電体損失も極めて小さいため共振器のQ値は数百万という高い値になり、このような高いQ値の測定を如何に安定に再現性よく行うかということも大きな課題である。

 薄膜の表面抵抗の測定に影響を与えるこれらの様々な因子を評価し、誘電体円柱共振器法の標準的測定法としての妥当性を検証するため、国内機関によるラウンドロビン測定が進められている。ラウンドロビン測定は電総研が幹事機関となり、埼玉大、山形大、金材技研、超電導工学研究所、クライオデバイス(株)等が参画している。

 共振器の温度均一性、サファイア円柱やアンテナの設置位置、外部からの電磁反射の影響等を定量的に評価し、参加測定機関でこれらのデータを共有することにより、機関間での表面抵抗測定値の良好な一致が得られるようになった。誤差範囲は数%に納まっており、標準測定法としての有効性を示す結果が得られている(H. Obara et al., FD-7, ISS 2000, Tokyo)。ラウンドロビン測定は今後NIST, DuPont, KRISS等の参画を得て、国際ラウンドロビンとして実施する計画も浮かんでいるという。

 ラウンドロビン測定で得られた再現性向上のための測定指針は、表面抵抗測定法原案に逐次反映されている。測定法原案とラウンドロビン結果はボルダー(2000年3月)及びバージニアビーチ(2000年9月)で開催されたIEC/TC90国際委員会の場で議論された。現在測定法原案は国際委員会から各国ナショナルコミティーに付託され、各コミティーとしての意見を集約している段階にある。今後1年程度の国際ラウンドロビン、IEC/TC90国際委員会の活動を通じて、表面抵抗測定法国際標準の発効に到達できるものと期待されている。

(柏の葉)


図 誘電体円柱共振器の構成