基板サイズは3インチφであり、共振器を極限まで詰め込むために同心円状に配置している。不要な飛び越し結合を防ぐために基板の中央と入出力の共振器の境界部分にはシールド用の金属部材を配置している。図2にその周波数特性を示す。中心周波数は1930MHzであり、通過帯域幅は20MHzである。無負荷Qは100,000以上であることを確認しており、このために32段という究極の段数であっても通過帯域における挿入損失はトップで0.35dB、バンドエッジで1.2dBと低損失性を維持できている。また通過帯域内におけるリップルは0.1dB以下である。反射損失も20dB以上が確保されている。第1開発室室長の榊原伸義氏は「この32段フィルタで究極のシャープスカート特性を実現できたものと自負している。」とコメントしている。
近年、携帯電話は予想をはるかに上まわる勢いで急速に普及している。移動体通信は加入者の増加により限られた周波数帯に異種システムが混在することになり、将来は周波数資源が逼迫することが予想される。2001年5月からサービスインが予定されているIMT-2000は隣接する周波数帯にPHSが割り当てられている。当面は5MHzのガードバンドを設けて1事業者あたり20MHzでなく15MHzでの運用が予定されている。しかしながら帯域幅が減ることは通信サービスが制約されることになる。
潟Nライオデバイスでは、PHS基地局からの信号電波がIMT-2000基地局アンテナに入力した際に、IMT-2000の受信帯域に発生する3次相互変調歪みについて検討した。この電力は相対的な基地局配置PHS波の周波数及び受信部のLNA特性などにより変化するが、ある想定される厳しい条件下において受信フィルタに16段のHTSフィルタを用いれば、歪み電力の合計は-90dBm以下となった。これは、従来のフィルタを使用した場合に比べて30dB以上の低減である。第3開発室室長の岡崎三也氏は、同様な手法により「32段のHTSフィルタを用いれば歪み電力の合計は-170dBmまで低減できる。」と述べている。
HTSフィルタを実際の基地局に適用するためには冷却器を含めたHTSフィルタサブシステムの小型・軽量化ならびに高信頼性が求められる。株式会社クライオデバイス代表取締役社長の青木賢之氏は「我々は、2000年度中に実際の基地局に搭載可能な小型で軽量且つ長寿命のHTSフィルタサブシステムを製作する予定である。」とコメントしている。
(エベレスト)
図2 周波数特性