SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 6, Dec. 2000.

4.ITER CSインサート・コイル1万回繰り返し定格通電達成
_原研等日本主導の国際協力で_


 2000年4月から日本原子力研究所において実施されていた、国際熱核融合実験炉ITER R&DであるCSモデル・コイル通電実験においてCSインサート・コイルが1万回の繰り返し定格通電など、将来のトカマク型核融合装置で要求される運転条件を達成した。

 それらは、(1)磁場13T,電流40kAの定格達成、(2)磁場変化速度1.2T/sでのパルス定格励磁達成(図1)、(3)1万回の繰返し定格通電(疲労)試験達成、(4)圧縮方向電磁力条件における定格通電達成であり、これらはすべてITERの設計仕様を満足している。特に、(2)〜(4)はCSインサート・コイルによって、世界で初めて達成された成果である。今回の成功は、超電導磁石工学に大きな技術的革新をもたらす成果であり、トカマク型核融合装置実現のための工学的な可能性が、飛躍的に高まったことを意味する。

 CSインサート・コイルは、CSモデル・コイルのボアに挿入される単層ソレノイド・コイルでありながら、同時に、長さ140mの導体で形成された巨大なサンプルでもある。電圧タップや圧力センサ、温度計、歪み・変位センサ、流量センサおよびAE(Acoustic Emission)センサが備えられ、巻線中央には安定性実験で使用する誘導加熱ヒータも備えられている。

 そのコイル製作は三菱電機が担当した。実験では、200を越える試験項目が実施され、超電導基礎特性(臨界電流や分流開始温度)、機械特性、熱流体基礎特性(導体の圧力損失など)、交流損失、ジョイント抵抗、ランプ・レート・リミテーション、安定性マージン等の評価が行われた。CSインサート・コイルは、これらすべての試験において、良好な性能を示した。分流開始温度については、設計通りの値が得られており、定格で温度マージン2Kが確保されていることが確認された。ジョイント抵抗は数nΩで、接続部におけるジュール発熱は十分に小さいことが確認された。ランプ・レート・リミテーション試験においては、パルス励磁による交流損失で冷媒温度がほぼ分流開始温度と等しくなったときにコイルがクエンチしていることから、高い安定性が示された。

 また、1万回励磁や圧縮電磁力通電を含む数ヶ月にも及ぶ実験において、臨界電流、分流開始温度、機械特性、交流損失、ジョイント抵抗はほとんど変化しなかった。特に、交流損失については、結合損失時定数(実験開始当初、100ms以下と観測された。)の顕著な増加を示さなかった。また、偏流が原因で生じる長時定数損失による損失増大現象も観測されなかった。前述の磁場変化速度1.2T/sでのパルス励磁成功の理由の一つとして、交流損失がほぼ設計値通りに実現できたとこが挙げられている。

 今回の成功について、日本原子力研究所の本コイル開発主任の杉本誠氏は「国際熱核融合実験炉(ITER)建設上、最も困難な部分の技術が確立した意義は大変大きい。」と語っている。現在、CSモデル・コイル、CSインサート・コイルは無事昇温され、全ての実験項目が完了している。

(BIG EATER)


図1 1.2T/sの励磁パターン(日本原子力研究所提供)


図2 交流損失の経時変化(日本原子力研究所提供)