SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 6, Dec. 2000.

3.世界初 室温付近で動作する磁気冷凍システム開発
_中部電力・東芝_


 中部電力は、東芝と共同で、「磁気を利用した冷凍システムの開発に世界で初めて成功した」と報告している。10月4、5日、名古屋市緑区大高町にある中部電力の研究所の一般公開(テクノフェアー2000)において、このシステムが実演公開され、環境問題に関心の高い大学や企業の研究者が多数見学に訪れた。

 最近、地球温暖化を引き起こし、オゾン層を破壊するフロン等を用いない冷凍技術の開発が行われている。その中で、従来の気体の圧縮・膨張による冷凍技術とは全く異なる、磁性体に磁界の変化を与えると温度が変わる現象(磁気熱量効果)を利用した磁気冷凍技術に着目し、中部電力と東芝は共同で研究開発を進めている。この磁気冷凍技術は、気体冷凍では実現できない非常に低い温度を作り出す特殊な技術として知られていたが、1回の磁界変化による磁性体の温度変化幅が小さいため、エアコンや冷蔵庫などに応用するのは困難と考えられていた。

 中部電力と東芝が開発に成功した磁気冷凍システムは、磁性体に磁界をかけていくと磁性体が発熱し、磁界を取り去ると温度が下がる現象(磁気熱量効果)を利用している。磁性体が冷えるのは、外部の磁界により磁性体中の磁化の向きを揃えられている状態から磁界を弱くする(ゼロにする)と、磁化の向きがバラバラとなり磁気エントロピーが増加するためである。この時、磁性体の周りから熱を奪うため、冷凍を行なうことが可能となる。  外部磁界の変化に対し、磁気冷凍で利用できる磁性体の磁化の向きと温度の関係の概念を図1に示す。気体冷凍と磁気冷凍の冷凍動作を図2に比較して示す。フロン等の冷媒が気化することで周りから熱を奪う気体冷凍に対し、磁気冷凍では磁界を弱めることが対応する。また、気化したガスに圧力をかけて液体にすることが磁気冷凍の磁界を加えることに対応する。圧力と磁界が対応関係にある。
磁気冷凍技術を従来の気体冷凍技術と比較すると、以下の特徴がある。

 ・環境にやさしい。
フロンや代替フロンの替わりに磁性体の磁界変化による温度変化を利用する、従来とは全く異なる次世代の冷凍技術である。

 ・エネルギー変換効率が高い。
気体冷凍技術では、気体を圧縮・膨張する際、損失が発生する。一方、磁気冷凍技術は、固体である磁性体に磁界変化を与えることで一様かつ瞬時に温度変化が得られるため、理想的な冷凍サイクルに近づけることが可能となる。

・省エネが可能である。
コンプレッサは不要であり、動力は熱交換媒体の循環と磁性体の移動に必要なだけであり、省エネを図ることができる。磁気冷凍により熱を取り出すためには、磁界変化によって生じる磁性体の温度変化を媒体(水など)により熱交換しなければならない。また、1回の磁界変化で生じる磁性体の温度変化は小さいため、繰り返し磁界変化を与える必要がある。

 今回開発した装置(図3)では、磁性体が磁石の中を上下に往復運動することで、磁性体に磁界変化を繰り返し与えた。この磁界の変化に合わせて、磁性体と熱交換する媒体(水など)の流れの方向をタイミング良く切り替えたことがポイントとのこと。この装置には、磁性体として直径0.3mmのガドリニウム(Gd)の粒子を2 kg使用している。これにより、28℃から-1℃まで冷凍することに世界で初めて成功した。

 気になる装置の性能だが、使用したガドリニウムの量と冷却できた仕事量から換算して、COP(coefficient of performance:消費電力当たりの加熱、冷却能力をあらわしたもので、この値が大きいほど効率が良くなる。)は4.3程度と言う。今後の研究について、研究担当者の中部電力(株)電力技術研究所超電導・新素材チーム平野研究副主査は、「熱交換部分の改良によりさらに高効率な冷凍システムの実現を目指す予定」と述べている。将来、当たり前のように磁気冷凍による冷蔵庫やエアコンが使用される時代が来る日も近いことを予感させる研究開発である。

(ゆりな)


図1 磁気冷凍の概念


図2 磁気冷凍と気体冷凍の比較


図3 今回開発した磁気冷凍機の外観