(株)フジクラにおいては、超電導応用基盤技術研究開発のプロジェクトとして、誘導放電式の66 cm長の大型矩形イオンソースを用いて、長時間連続運転を行う試みを開始した。これまでのところ、ずれ角Δφ=12〜13°にYSZ層が配向した5.6m長のテープが形成されており、作製速度については0.3 m/hで同等の配向性を保つことを確認している。設備の性能上は、YSZで0.5 m/hまで対応可能と見られている。イオンビームの収束性改善により、従来のテープ材よりも配向性が向上しており、上記中間層上で、1m長にてIc=84 A、Jc=0.76 MA/cm2のYBCO膜が形成された (図) 。また、YSZと同様のZrを含む螢石構造系の酸化物材料で、他元素をドープした材料において、配向速度が約2倍となることが見出されており、本設備を用いて1.0m/h程度の合成速度が期待される。この材料においても微細構造観察でYSZと同等の結晶粒径、表面平滑性が確認されており、Ic=98 A、Jc=0.65 MA/cm2の短尺YBCOが形成された。
IBAD法中間層を実用線に適用するにあたっては、高速合成の検討が必要であるが、新しい試みが多く発表されてきている。上記のように螢石系の材料でYSZよりも優れたものがフジクラにおいて見出されたほか、米国ロスアラモス国立研においては、96年にスタンフォード大が開発した高速配向MgO中間層を改良し、再現性向上を試みている。現時点では短尺で2 MA/cm2程度の高Jcが報告されており、YSZと同様1 m長のYBCOテープの試作が開始されている。MgOはYSZに比べ100倍の速度で形成でき、低コスト化が期待される。ただし、基材が極平滑表面であることが要求されるほか、4層の中間層を形成する必要がある等、プロセス全体が煩雑になる欠点がある。一方スウェーデンの Chalmers大においては、材料の蒸発方法をスパッタではなくレーザ蒸着とする方法でCeO2の面内配向膜をYSZ比数十倍の高速で形成した。表面性、結晶粒径等、配向以外のIBAD中間層の長所がどの程度維持されているかが注目される。またベルギーのGhent大においては、単純にRFスパッタ法のカソードを傾けることでYSZの面内配向膜が得られ、高速合成の可能性を示した。IBAD法は高特性を安定に維持し得るプロセスとして評価されてきたが、合成速度が遅いため高コストであることが難点とされてきた。IBAD法の欠点である成膜速度の問題は、こうした新しい試みによって改善の方向へ向かっていると言える。
IBAD法線材の超電導層の形成方法としては、安定高特性合成の見地から、これまではレーザー蒸着法、CVD法等の気相合成法にほぼ限られてきたが、最近進展の著しい溶液塗布法であるTFA等の非真空プロセスの基材としてもIBAD中間層が有効であることがISTECのグループによって確認された。TFA法は原料収率が極めて高く、最も低コストなプロセスとして注目されており、TFAに適合するように、IBAD中間層との界面に挿入するCeO2膜等の最適化が進められている。一方、初期設備投資のかかる気相合成法についても、問題とされる生産速度、原料コストについてこれまでにない進展が見られている。レーザー蒸着法は、蒸着面積が小さく作製速度遅いため一般に高コストと認識されているが、最近市販された200W級の大型レーザーを用いた結果、1ミクロン厚の高特性のY-123膜を10m/h前後の高速で形成可能なことがドイツのゲッチンゲン大と米ロスアラモス研から報告されている。またゲッチンゲンの報告ではターゲット材料の収率として40%程度が達成可能なことが示された。レーザー蒸着は気相法としては蒸発粒子の指向性が非常に高く、原料コストを相当程度下げられる可能性がある。今後、中間層、超電導層双方の新しい開発努力により、どこまで低コスト化が図れるか注目される。
(株)フジクラの飯島康裕主任研究員は、「IBAD中間層は、安定した特性を持つ配向多結晶Y-123膜を得やすく、現在の方法の延長で少なくともY系線材としての機能をアピールできるようにしたい。実用線としての長尺化及び高Ic化、プロセス速度向上によるコスト低減、膜厚向上等多くの課題があるが、材料コストが本質的に高くないので、新しい試みによって突破口が開ければ有望な線材プロセスになり得る。」とコメントしている。
(YI)