SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 6, Dec. 2000.

11.新合金が冷凍機用鉛(Pb)蓄冷材の代替に
ICC-11より


 6月に行われた第11回国際クライオクーラー会議(International Cryocooler Conference)にて、Ames研究所は、冷凍機の冷却能力を向上させる一連の新蓄冷材合金を発表した。Karl Gschneidner Jr.、Alexandra (Sasha)、O. PecharskyおよびVitalij K. Pecharskyの研究によると、この合金は取扱いが容易であることに加え、60Kから10Kの温度域でPbより10―40%高性能であるという。この研究は、DOE Office of Basic Energy SciencesおよびNASAとともにSBIRを通じてAtlas Scientific (Sunnyvale、CA)より資金援助を受けたものである。

 エルビウム−ニッケル合金のEr3Niは、2段式ギフォード−マクマホン冷凍機の低温側蓄冷材として一般的に使用されている。この合金では、10K以下で磁気転移が比熱に大きな影響を及ぼしている。Ames 研究所の研究者は、Prを主としたランタノイド元素とErとの合金を36種類開発した。これらの新合金は、磁気転移温度が分布しており、そのため10Kと60Kの間においてより高い比熱を示す組み合わせが可能である。特に、Pbとの比熱の比較から、3つの温度領域に対し、それぞれ合金が提案されている。すなわち、40-85KではEr96.8O2.7N0.3C0.2、24‐40KではEr73Pr27、および24K以下ではErPrである。また、10K以下では依然としてEr3Niが最良の蓄冷材とのこと。なお、最近では、10K以下の温度領域でEr3Niを上回る比熱特性をもつHoCu2が実用化され、4K領域での冷凍能力の向上に寄与している。

 Gschneidnerによると、これらのEr新合金は、このような温度範囲において、Pbに比べて25〜175%も多く熱交換することができるという。「このEr合金を使用した冷凍機では、負荷をより低温まで冷やすことができる、あるいは使用電力を増やすことなく、より大きな負荷を冷やすことができるから、より効率が高くなる。」と言う。比熱が大きい他に、Er新合金は、Pbに比べて次のような特徴が ある。Pbは柔らかいので小さな球状でしか使用できないが、Er合金は鉛に比べてはるかに引っ張り強度が高く、延性がある金属であるので、大きな表面積を実現する形状に加工できる。たとえば、ガスの流路抵抗を損なわず熱交換できることを目的とした、スクリーン、箔、ワイヤメッシュ、小球、充填粉末、あるいはジュリーロール法のように巻いて表面にくぼみを施した成形体などである。「この蓄冷材は、ガス流路が確保されている様々な形状に成形することができます。」とGschneidnerは言っている。さらに、Er新合金は、毒性がある鉛と異なり、健康上あるいは環境上の危険性がないことも利点である。

 Gschneidnerは、Er新合金製蓄冷材の価格が高い点については、この合金の採用によって得られるコストダウンと比較すれば、取るに足りないであろうとの見通しを持っている。「20,000ドルから100,000ドル程度の冷凍機に対し、Er新合金の採用は、冷凍機の価格を100ドル高くする程度」と言う。さらに、Er新合金は効率が高いため、研究機関や医療機関では、Er新合金を使った冷凍機が液体ヘリウム冷媒に取って代わるであろう。Gschneidnerは液体ヘリウムの価格について、アメリカでは1リットル当たり3.5ドル、ヨーロッパと日本では1リットル当たり15ドルであることに注目し、「液体ヘリウムに年間50,000ドルから80,000ドルほど支払っているのであれば、冷凍機のコストをかなり短期間で償却できるだろう」と述べている。

 これについて東芝で磁性蓄冷材の開発に携わっている材料部品事業部の岡村正巳氏は、「Pb代替の蓄冷材は我々も興味を持っている。 ただし、クライオポンプのような産業機器に用いられる冷凍機については、コストに対する要求が非常に厳しく、1〜2割の性能向上ではコストアップが認められない業界のようである。また、液体ヘリウム代替を狙う冷凍機の場合には、4Kを実現するためEr3Niなどの蓄冷材もあわせて使用しなければならず二重のコスト高となる。冷凍機メーカの反応に注目したい。」と語っている。

 Er新合金の特許はアイオワ州立大学研究財団(Iowa State University Research Foundation)によって出願されている。 Atlas ScientificのAli Kashani博士によれば、Er新合金をパルス管冷凍機で試験しているが、低温用パルス管の高周波(50−60 Hz)運転のデータについてはまだ得られていない。「20Kで高周波運転をするかなり難しい実験だ。しかし、まもなく報告できるデータが得られる見込」とのことである。 British Columbia州のVictoria大学では、低周波のギフォード−マクマホン冷凍機でEr新合金を試験しており、その初期の試験では冷却効率が10%向上したと報告した。また、この材料は、評価のためAmerican Superconductor社およびCEA(Grenoble, France) に販売されている。

(蓄冷屋)