SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.9, No.6, Dec. 2000

1.高温超電導バルク磁石を用いた
新型水浄化磁気分離装置の開発
_超電導工研・日立製作所_


 財団法人国際超電導産業技術研究センター・超電導工学研究所と株式会社日立製作所は、先に超電導工学研究所で開発した樹脂含浸型バルク高温超電導体を応用する水浄化装置の実用化技術開発を、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の、平成11年度産業技術研究開発実用化技術開発助成事業により共同で開発中であると報告している。

 電磁石を使う磁気分離浄化法は、磁石の吸着力を利用して流体中の磁性粒子を分離・除去する方法で、従来行われている物理化学処理による凝集沈澱法等に比べ、遥かに高速で固液分離が可能であり、磁気力が大きいほど高速処理が可能である。バルク高温超電導磁石は、通常の電磁石に比べ小型・省エネルギー化が可能で、RE-Ba-Cu-Oバルク高温超電導体(REは希土類元素)を極低温に冷却後着磁すると1テスラ(1万ガウス)以上の強力な超電導磁石となり、この強磁界を利用した磁気分離方式と膜ろ過方式を組合せ、大量の汚濁水を浄化する新しい膜磁気分離装置の技術開発が進められている。今回、33mm角のY-Ba-Cu-Oのバルク高温超電導磁石(図1)を2個用いて試作した原理モデルにより、発生磁界0.8テスラで従来擬集沈殿法の約20倍の高速浄化機能を世界に先駆けて検証したもの。

 膜磁気分離装置の概要:磁気分離法を水浄化に応用する場合は、水中の汚濁粒子が非磁性であるため、前処理としてシーディング剤の磁性粉と凝集剤等を加えて混合・攪拌し、磁性粉と汚濁粒子を凝集した磁性フロックを生成する。この前処理水を磁気分離部に通水し、磁気力で磁性フロックを捕捉分離して水を浄化する。

 原理モデルでは一連の浄化機能が3つに分けられている(図2)。まず、原水中の汚濁物を磁性フロック化する前処理部と、生成した磁性フロックを膜でろ過し浄化水を得る膜分離部と、膜面に蓄積した磁性フロックを磁気力で剥離、捕集し膜面を再生するとともに磁性フロックを高濃度汚泥として回収する磁気分離部で構成される。

 連続的に浄化できるように膜を回転ドラム状に構成し、前処理水を膜の外側から内側に通す。磁性フロックは回転膜面上に捕捉され、原水は浄化されてドラムの内側から浄化水として放出される。水中の膜面上に蓄積した磁性フロックは、回転により前処理水の水面近傍に配置したバルク高温超電導体が発生する高磁界の領域に移動し、水面近傍で膜内部から供給されるシャワー状の洗浄水の水流とバルク高温超電導体の磁気力により、磁性フロックは膜から剥離されるとともに、膜面を洗浄し再生し、剥離した磁性フロックは、磁気吸引力により水中を磁石側に高速移動する。冷凍機で冷却し真空断熱容器に内臓した着磁済みのバルク高温超電導体は、非磁性の回転円筒体の内部に静止固定されており、移動した磁性フロックは円筒表面に磁気吸引されて付着し、円筒の回転にともなって水面上の大気空間に移送される。ここで、磁性フロック中の余分な水分が流下し高濃度の汚泥となり、この汚泥は掻き取り板で円筒体表面から剥ぎ取られ、汚泥貯槽に落下する。この時、円筒体表面が再生される。この一連の作動によって、原水は連続的に浄化され高濃度の汚泥が連続的に排出される。

 回転膜に目開き数十マイクロメートルの非磁性の金網を使用した原理モデル機を試作し、汚濁モデル粒子としてカオリン微粒子を添加した原水(20m3/日)の連続浄化実験により、1)原水中の汚濁粒子の除去率は90%以上である(図3)。これは、従来の凝集沈殿法による処理(沈殿時間2〜3時間)の浄化性能80%〜90%と同等以上である。2)回収汚泥濃度は30,000ppm以上である。これは、従来の浄化装置の排出汚泥濃度約2,000ppmに比べ約15倍以上の高濃度であり、排出汚泥量を約1/15以下にできる。3)原水から上記1)、2)の一連の処理を行う時間は僅か4〜5分間で、数時間かかる従来の凝集沈殿法と比較して約20倍以上の高速浄化が可能となり、装置を飛躍的に小型化できる等の結果が得られている。

 磁気分離技術開発担当者である日立製作所の主管研究員佐保典英氏は「従来の浄化装置の技術課題であった分離フロックの高濃度回収を、バルクマグネットの高い磁気力を応用した磁気分離で初めて実証できた。今後、全システムを助成事業で製作し下水浄化実験を行う計画である。本技術が実現すれば、下水、工場排水等の汚濁水浄化装置が小型化、高速化されるなどのメリットが期待できる。」と語った。また、超電導工学研究所の第三研究部部長村上雅人氏は「バルク超電導体の強い捕捉磁場を利用する応用については長年開発を進めてきたが、今回の磁気分離への応用は、まさにその特徴をうまく活かしたものであり、材料研究者にとっても朗報である。バルク材料を磁化して使えるということを実証できたことも大きな成果である。今回の成果によって、材料および応用開発の両者に拍車がかかるものと期待している。」とコメントしている。

(エバーフラワ)


図1 樹脂含浸YBaCuO超電導体


図2 バルクマグネットを用いた膜磁気分離装置


図3 原水と浄化水