異方性をその最大の特徴の一つとするHTS材料の特性評価を行う上で、熱伝導率の異方性の測定は避けては通れない項目の一つである。しかしながら、熱伝導率の異方性に関するデータは電気伝導率に較べると極僅かなのが現状であり、簡便で実用的な熱輸送特性の評価手法が望まれていた。これに対する一つの試みが計量研で開発した低温用実用熱拡散率測定装置であり、緻密な固体材料においては、単位体積あたりの比熱容量と熱拡散率の積が熱伝導率に等しいことを利用して、熱拡散率側から熱熱輸送特性を評価する。通常、比熱容量に関しては文献値が存在するか既存の方法で簡便に測定が可能なため、熱拡散率の測定から熱伝導率にアプローチする。この方法を取ることで熱伝導率の実測が困難な微小試料に対しても評価が可能になる、また異方性の評価が極めて容易になるなどのメリットが生まれるという。
図1が開発された「レーザスポット加熱式ac法熱拡散率測定装置」の模式図で、これはいわゆる光ac法(通常は比熱容量測定に用いる)を熱拡散率測定に特化させた装置である。加熱用レーザビームは光学顕微鏡を用いて、ヘリウム連続流型の薄型光学クライオスタット内に置かれた試料表面上に直径約10μmのスポット状に集光される。ビーム強度は音響光学素子を用いて任意の周波数で変調され、これに対応する裏面の周期温度変化が極細熱電対で検出される。また試料はクライオスタットごと直交する2軸の微動ステージ上に置かれており、加熱スポットを試料表面上の任意の位置に移動可能となっている。
これらの特長を利用することで、薄板状試料の厚み方向の熱拡散率D⊥と面内方向の熱拡散率D//を同一試料片に対してそれぞれ求めることが可能になるとのこと。すなわち、熱電対ジャンクションの対向位置に加熱ビームスポット位置を固定し周波数依存性からD⊥を、周波数を固定しビームスポットと熱電対ジャンクションとの間の距離依存性からD//を求める。
Bi-2212とY-123の単結晶試料(ab面で劈開した薄片試料、いずれも2 mm角前後のサイズで0.1 mmの厚み、超電導工学研究所作製)での熱拡散率の異方性を室温から30Kの低温まで測定した結果が図2である。計量研で測定した熱拡散率の異方性の結果と、文献等で報告されている熱伝導率、電気伝導率の異方性についても比較のために示されている。Y-123で報告されている熱伝導率の異方性と今回の熱拡散率の異方性は良い一致を示したが、Bi-2212では熱伝導率で報告されている4−5倍大きな異方性が観測されている。ちなみに電気伝導率ではBi-2212がY-123に比べてはるかに大きな異方性を示すのはもはや常識であり、熱輸送特性においてもBi-2212がY-123より大きな異方性を示すことは十分に予想される。
現在さらに評価を進め、Y-123単結晶においてはab面内においても弱いが明確な熱的異方性の存在を確認しているとのこと。また今後は高配向性バルク材料や複合材料の異方性評価への展開が期待される。
(SuperBall)
図2 高温超電導体単結晶(Bi-2212とY-123)
の熱的・電気的異方性、Xab/Xc