SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 5, Oct. 2000.

8.パルス管冷凍機の実用化加速
_クライオクーラー国際会議より_


 第11回クライオクーラー国際会議(11th International Cryocooler Conference)が米国コロラド州キーストンで2000年6月に開催され、パルス管冷凍機に関する報告が活発になされた。実用化を目指したアプリケーション例の報告をはじめ、長期信頼性に関する報告も目立った。パルス管冷凍機は、圧縮部の構造により大きく2つに分類される。1つは従来のGM冷凍機用圧縮機を用いたもので、もう1つがスターリング冷凍機の圧縮機をそのまま用いるものであり、それぞれGM型パルス管冷凍機、スターリング型パルス管冷凍機と言うこともできる。スターリング型パルス管冷凍機に関しては、従来、宇宙用をターゲットとした報告が中心であったが、近年、移動体通信基地局の超伝導フィルタサブシステム冷却用に搭載される冷凍機や在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy)用液化器に搭載される冷凍機など、民生用冷凍機の開発が盛んになってきた。長期信頼性と高効率化を達成するために、板ばね支持(フレクシャベアリング)でマグネット可動型の圧縮機が主流になりつつある。信頼性向上のためには、冷凍機内部のガス不純物(コンタミネーション)対策も重要であり、特に米国内では官民が連携して積極的に対策を進めている。

 韓国LG電子社は、移動体通信基地局用として効率86%の圧縮機とイナータンスタイプの膨張機を組み合わせて電気入力280Wで80Kにおける冷凍能力11.5Wを達成している。アフタークーラー部に放熱フィンを取付けて空冷タイプに改良し、実用化に近づけている。低コスト化も進めており、年間10,000台の生産規模で1台当たり1,000ドルをターゲットに掲げている。

 ダイキン工業も移動体通信基地局用に長寿命、超小型を特長とするスターリング型パルス管冷凍機の開発を報告した。1999年に開催された国際会議(CEC/ICMC)で報告された冷凍機(冷凍能力が5W@80Kクラス)を小型化し、フレクシャベアリングを用いた対向ピストン型の長寿命圧縮機を開発した(写真1)。圧縮機の大きさは、外径76mm、長さ169mmである。膨張機は実用性を考慮してU字型に構成している。圧縮機と膨張機の総重量は4.5kgである。60Wの電気入力で80Kにおける冷凍能力1W以上を達成している。同社では、このパルス管冷凍機と独自に開発したYBCO薄膜製高温超伝導フィルタを組み込み、超小型のフィルタサブシステムを開発した(写真2)。サブシステムの大きさは、高さ194mm、幅180mm、奥行き250mmで、総容積が8.7リットルである。10年以上の真空保持が可能としている。

 GM型パルス管冷凍機の開発では、4K以下の冷却を可能にする冷凍機の開発が加速されている。研究用超伝導マグネット冷却、物性研究などの研究用途、超伝導MRI冷却などがターゲットである。クライオメック社(米)は、1999年に世界で始めて4K以下を実現するパルス管冷凍機(Model PT4-05)を商品化した。冷凍機の高効率化を進め、電気入力 4.9kW で第1、第2ステージの冷凍能力としてそれぞれ0.6W@4.2K 、20W@55Kを達成した。メンテナンス間隔は20,000 時間以上と予測している。アプリケーション例として、光学計測用低振動クライオスタット(Model ST405)、ヘリウム4液化機(4.8 liter / day)、再凝縮機、液体ヘリウムフリー超伝導マグネット冷却(クライオマグネティクス社製、発生磁場9T、室温ボア径 32mm、本誌Vol.9、No.1、Feb. 2000に既報)、磁気冷凍機予冷システム(100mK冷却)を紹介した。同様の磁気冷凍機予冷システムはギーセン大学(独)からも報告された。

 国内では、アイシン精機が2段構成の4K冷凍機を報告した。マグネット冷却をターゲットにしたものと考えられ、冷凍機本体部の振動と電磁気ノイズを低減するために、ガス切換えバルブと冷凍機本体を1.5mのチューブで接続して分離している。電気入力5.5kWで冷凍能力0.58W@4.2K、到達温度2.6Kを達成している。ダイキン工業も物性研究などの研究用途をターゲットにした4K冷凍機の開発について報告した。電気入力を3.3kWに抑え、冷凍能力0.28W@4.2K、到達温度2.4Kを達成している。パルス管冷凍機全般の開発でやや遅れていた感のあった欧州でも開発が加速化されている。カールスルーエ工科大学(独)では高効率な20K冷凍機の開発結果を報告した。電気入力6.5kWで、第1ステージ、第2ステージの冷凍能力40W@46K、10.5W@20Kを達成している。これはカルノー効率に換算すると約5.7%に相当し、従来の2段GM冷凍機に一段と近づいたものと言える。

(ダイキン・藤本修二)


写真1  パルス管冷凍機


写真2 フィルタサブシステム