製法プロセスの概要は、50mlビーカ中に表のような組成の電解液を入れ35℃に保ち、銅板を陽極とし、陰極として白金板(鉛等の他の金属でも可能)を用いた。電析条件は、電流密度が2.5〜3.0(mA/cm2)の定電流で、時間は15分〜20分で電析した。焼結は、約 920℃の電気炉で4時間程度焼結すると約0.01mmの薄膜が得られ臨界温度は96 Kだった。X線回折、SEM写真および温度特性の結果は図のようであった。
この製法の特徴は、@ 銅酸化物を用いず、銅板を陽極にして電析し、焼結時に銅の拡散を利用している。A 原料の混合は粉末の混合と比較し容易であり、粉末飛散の危険性も少ない。 B 電解液は連続使用が可能で不足した試薬を追加すればよく、スプレー法、蒸着法等に比較し原料の無駄がなく、操業性にも優れている。C 電析のエネルギーは、2.5〜3.0 C/cm2焼結は1回でよく、エネルギー消費も少ない。D 線材を考えるとき、芯に銅線が残っており、機械的強度にも優れている。E 形状の複雑なものにも可能である。
指導してきた中村豊久前副校長は、「タリウム・鉛複合酸化物を銅線上に電析した皮膜は、何回曲げても剥離しないことに着目した。安価・簡便な高温超電導体の製造方法を意図し、銅板上での再現性のあるデータが得られるまでに3年かかったが理想的な超電導特性を得るには、電析条件、焼結条件等未解決の問題をが残されている。さらに線材として実用化するには、長尺加工対策も必要であろう。」との話で、カルシウムの一部にイットリウムを入れることも可能であろうとのこと。また、この陽極酸化法は、Tl-Pb-Bi系以外は不可能であろうとのこと。
今回開発されたプロセスは、電析を利用したところがポイントで、電析、焼結等の条件は検討の余地があるものの比較的均一に超電導相が再現性良く生成しているところが画期的で魅力を感じる。そして将来的に安価で簡便な高温超電導材料線材の製造方法として発展していくことを期待したい。
連絡先:中村豊久 電話Fax:045-802-2467 e-mail:n-toyo@oak.dti.ne.jp
(コロンブスの卵)
図2 温度特性
表 電解液組成