SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 5, Oct. 2000.

5.Bi系線材が膨れ現象
_デトロイト高温超電導ケーブル計画に遅れ
_Pirelli社、ASC社_


 2000年7月31日付のSuperconductor Week誌によると、米国の超電導ケーブルプロジェクトであるデトロイト・エジソン・ケーブル・プロジェクトは、HTS線材の「バルーニング」現象により1年間遅れる。同プロジェクトに参画しているピレリー社、 ASC社、及び、 LANLは、 7月17、18日のDOE Peer Review 、 において、同プロジェクトの最新情報として、この夏に設置される予定であった、24kV HTSケーブルの製造が、初期のプロトタイプケーブルシステムにおいて発見された ASC社の超電導テープに関する問題により約 1 年遅れると公表した。

 当初、テストケーブルは初期段階で良好な機能を有していたが、運転温度と室温の間で、何回かのヒートサイクルを繰り返したところ、ケーブルに本質的な劣化が生じた。 問題は、液体窒素が加圧状態でフィラメントの内部に侵入し、そして、温度が増加したとき気化して引き起こされるBSCOO テープにおける「バルーニング」によるものであった。ASC社は、その後製造工程を修正して、バルーニングのない(「バルーニングフリー」)超電導テープを作製しており、ピレリー社はその最初の新しいテープを受け取り、厳しいヒートサイクルの後も劣化が生じないことを証明している。この新しい「バルーニングフリー」プロセスは特許が取られているが、ASC社もピレリー社も製造方法の修正に関して明らかにしていない。

 バルーニング現象は、 Powder in Tube法で製作されている他の HTSプロジェクトについても、懸念される現象である。サウスワイヤ・ケーブルプロジェクトの発表者からは、彼らのケーブルで、ヒートサイクルで劣化が生じたということは表明されていない。しかしながら、何人かの科学者は、バルーニングは発生しているが、単に劣化が生じていないだけかもしれないと主張している。また他の科学者らは、バルーニングによる劣化は、Jcが高く、銀比の小さな線材で顕著化するのではと指摘している。

 ピレリー社のNathan Kelly氏は、「今年末までには、1本目の24kVケーブルを準備し、デトロイト・エディソンのフリスビー変電所には2001年の第1四半期に設置し、2001年6月に送電ができるであろう」と述べている。同プロジェクトでは、冷却システムは、既に発注されており、2001年の第 1 四半期に同じく届けられる予定である。HTSケーブルは、小さなマンホールを通して、1910年に作られた地下系統に引き込まれ、電力会社のスタッフにより運転とメンテナンスが行われる。

 デトロイト・エディソン・プロジェクトは、本誌98年12月号で紹介したとおり、3相120 mケーブルを製作し、デトロイト・エディソンフリスビー変電所の既存系統に設置するプロジェクトで、運転温度77 Kで、24kV-2400Aの電力を送電する。同ケーブルの絶縁は、熱絶縁の外側に施工された押し出し絶縁体(プラスチック絶縁)で、東京電力などで進めているコンパクト超電導ケーブルの低温絶縁と異なる構造である。ピレリー社によれば、ハンドリングの容易さから、デトロイトエディソン社は押し出し絶縁体を選んだ、という。

 古河電工で、酸化物超電導線材の開発を担当している高木亮主任研究員に、バルーニング現象についてコメントを求めたところ、「液体窒素が線材内部に入り込み、常温に戻す過程でそれが気化して発泡するバルーニング現象は、フィラメントと銀シースの密着が悪い場合、ヒートサイクルによりシースによる拘束力のバランスが崩れ顕在化してくると考えられる。この現象が発生し、線材特性に悪影響を及ぼすか否かは、原料粉末や熱処理条件、常温に戻すまでのスピード等、プロセスによるところが大きい。実際、当社でも条件によってはバルーン現象を経験したことがあるが、最近の線材では見られなくなっている。サウスワイヤー社のコメントにもある通り、今回のASC製線材で発生した現象が全てのBi-2223テープで発生するとは限らないと考える。」と述べた。

(ネアンデルタールな人)