最初は、アルミナ微粒子および、チタニア、SiCウィスカー粒子の分散した水系サスペンションを10 T中でスリップキャストすることにより、アルミナを母相とした成型体中のチタニアあるいはSiCの配向制御を試みたそうだ。これは、チタニア、SiCウィスカーの形状磁気異方性を利用した配向の試みであったが、チタニア、SiCウィスカーの配向は観察されはしたが、その度合いは小さく、磁場配向の試みは失敗と思ったという。鈴木達主任研究官によれば「力学的特性評価用試料を作るため、アルミナ―SiC複合体を1700 ℃に加熱し、X線回折をとったところ、アルミナが異常に配向していることに気づいた。それで、アルミナ微粒子の結晶磁気異方性による配向の可能性を探って行ったのです」ということである。スリップキャスト後のα-Al2O3微粒子の結晶磁気異方性による配向はわずかであったが、興味深いことに、この成型体を加熱すると、粒成長に伴って配向度が顕著に増加することが分かってきた。以下その結果を紹介する。
10 Tの磁場中スリップキャストにより作製したアルミナ成型体を1873 K、2時間で焼結した試料のX線回折結果を図1に、組織を図2に示す。 磁場印加方向と垂直であるT面において、六方晶系のc面である(006)(0012)面や、c面との面角度が17.5°である(1010)面の回折強度が非常に強くなる。磁場印加方向と平行になるS面では逆にc面と垂直である(110)、(300)といった面の回折強度が非常に強い。a‐アルミナはそのc面が磁場印加方向と垂直になるよう結晶配向することがわかる。組織では板状に発達した結晶粒が非常にきれいに配向しており、その配向方向は板状面が磁場印加方向と垂直になっている。 図3には配向度の熱処理温度による変化を収縮量の変化と共に示す。配向度として、磁場印加方向と垂直な面のX線回折測定から、(006)と(110)面の回折強度を用いて、 より求めた値を用いた。この配向度の値が1に近づくほど、その測定面内に六方晶系結晶でのc面が平行に配向していることを表す。磁場を印加せずにスリップキャストした試料では熱処理温度によらず配向度は約0.025で一定である。 この値はJCPDSカードの強度比より求めた値と一致することから磁場を印加しない場合にはスリップキャストと熱処理という作製工程をとってもα-アルミナは全く配向しないことが確認された。スリップキャスト中に磁場を印加した成形体の場合でも、熱処理温度が1273Kまでは配向度は小さい。しかし、その値は無配向のアルミナと比較すれば大きくなっている。このように若干配向している試料では熱処理温度をさらに高くしていくと、 1473 K付近で徐々に配向度が大きくなり始め、その後は急激に配向度が増加し、1873 Kでの配向度は0.95に達する。
「結晶磁気異方性を持つ微粒子を強磁場下のコロイドプロセスにより配向させることにより、粒成長過程で配向度を上昇させ,高配向構造の組織を得られることが示された。この手法は、多くの結晶磁気異方性の物質に適用されるものと期待される。」ということであった。高純度アルミナ焼結体で、このように大きな配向体が得られたことはなく、優れた特性も期待され、今後の進展が楽しみである。
(Wakaran)
図2 1873 Kで焼結後の微構造
図3 10 T強磁場下(■)および通常スリップキャスト
アルミナ成形体の加熱温度と焼結収縮、配向度の関係。