SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 5, Oct. 2000.

13.会議報告:
2nd International Symposium Intrinsic Josephson Effects
and Plasma Oscillations in High-Tc Superconductors


 上記国際シンポジウムは2000年8月22日より24日まで仙台市の東北大学金属材料研究所で科学技術振興事業団と東北大学電気通信研究所の共催で開催された。

 参加総計は91名でその内外国人27名は中国、ドイツ、ロシア、韓国、アメリカ等12ケ国に及んだ。

 まず物理分野の要約は下記の通りであるが、この部分は東京大学物性研究所の松田祐司助教授にお願いした。

1.固有ジョセフソン接合(IJJ)の電磁波カップリング

 高温超伝導体のIJJと従来のJosephson多層膜との大きな違いはCharge couplingとPhononとの相互作用であることが認識された。高温超伝導体のIJJにおいては従来考えられてきたInductive coupling (Sakai, Peterson)以外に超伝導相の厚みがデバイ遮蔽長よりも短いことによるCharge coupling (Koyama, Helm)が重要であることが議論された。またこれに伴うShapiro stepのずれの可能性も議論された(Helm)。これはSidewall shunt junction で極めて明瞭なShapiro stepが観測されており(Wang)検出できる可能性がある。またphononとの結合によるsubgap structureも明瞭に観測された(Keller)。

2.ジョセフソンプラズマ共鳴

 JPRは面間方向の準粒子輸送現象や渦糸状態を探る強力な実験手段であり多くの人により議論された。まずDouble JPRが光反射の実験で観測され高温超伝導体の光反射の解析におけるJPRの重要性が認識された(Uchida, Tajima, Shibata)。さらにVortex State もJPRにより研究された。特に渦糸固体相と渦糸液体相におけるJPRの実験が行われこれらの相境界における相転移が一次相転移であることが示された。さらにコラムナー欠陥を入れた系のJPRも議論され位相コヒーレンス長がこれまで信じられてきた値よりも2桁長いことが示された。これらの研究によりJPRが高温超伝導体の渦糸状態を探る強力な実験手段であることが示された。(Matsuda, Kakeya,Tamegai, Kameda, Kadowaki)

3.微少メサ接合

 IJJのサイズを小さくしていくとCharging energyがCoupling energyよりも大きくなり1mmよりも小さくなるといわゆるCoulomb Blockadeの効果が大きくなり臨界電流の現象が観測される (Koyama, Kim, Irie) 。しかし現在のところ理論と実験の大きさの違いが2桁近くありまだはっきりしていない。いずれにせよmesa junctionは量子コンピュータへの実現に向けて重要であり(Mueller)これから大きく発展する分野であると思われる。

4.準粒子電子と超伝導電子レスポンス

 IJJにおける準粒子輸送現象が多くの人により議論された。従来の超伝導体多層膜との大きな違いは対称性がd波であることと面間のトンネリングがコヒーレントであることである。つまりクーパー対の面内の運動量保存され従来のAmbegaoka-Baratoffとはかなり異なることが示された (Gaifullin, Koyama, Artemenko, Latyshev,Kitano, Maeda, Shafranjuk, Yurgens)。しかしながら最も重要な問題である「何がジョセフソン接合の強さを決めているのか」という最も基本的な問題は未だに解決されていない。この問題は高温超伝導体のメカニズムと密接にかかわっており今後の研究課題である。

5.IJJ 積層接合による超伝導ギャップと凝ギャップ観測

 高温超伝導体のメカニズムを知る上で最も重要な実験結果の一つは超伝導転移温度よりも高いところに現れるいわゆる擬ギャップである。擬ギャップはこれまで、光電子分光、STM,等により超伝導ギャップに連続的につながるものと考えられてきた。しかしながらIJJを用いた実験により両者が明確に区別できることが示された(Yurgens, Suzuki, Mueller)。実際STMの実験よりもIJJの方が遙かに感度がよく、IJJが超伝導のメカニズムを知る上で強力な実験手段であることが示された。

6.ジョセフソン・ボルテックスとTHz 波発光

 IJJからの準粒子注入による光放射のゼロ磁場における観測が報告された(Iguchi)。しかしJosephson vortexの運動によりTHz帯の強力な光放射が可能であるかどうかは応用上最も重要な課題の一つである。まずコヒーレントな渦糸フローが安定であることが実験的に示された(Lee, Tachiki)。これに対しhighly underdamped caseの場合コヒーレントなフローは起こらないことが理論的に示された(Machida)。現在のところJosephson渦による光放射は実験では観測されていないがその兆候らしきものは報告された(Hirata, Ooi)。またこれとは別に磁場がゼロでもflux-antiflux相互作用による奇妙なフラックスモードがコンピューターシュミレーションにより報告された(Kleiner)。

 次の応用分野は中国・南京大学電子科学技術系 呉培享教授の要約を翻訳したものである。

1.作成プロセス

 新しい高温超伝導デバイス作成方式として新しく次のようなものが発表された。側面シャントされたメサ接合技術(Wang, Seidel)が開発された。またイオン注入(Nakajima)や集束イオンビーム(FIB)加工(Kim)による新しい積層接合法が報告された。また、メタルマスクによるメサ接合形成法(Wu)も提案された。これらの技術の多くは低温超伝導デバイスに用いられたものであるが、FIB加工のような全く新しい技術も出てきた。積層接合の接合の制御も可能となり、一層の接合もできることが示された(Irie, Wang)。微少接合面積の作成技術も向上し、0.1 mm 2のメサ(Ohya)や0.01 mm 2の積層接合(Kim)が作成されるようになった。

2.デバイス志向のいくつかの実験結果

 この2年間の具体的な応用に結びつくいくつかの実験結果が報告された。9次までのシャピロステップがShunt mesaで観測された(Wang)。またメサ接合の70GHZ波への応答の観測(Lee)や2THZ付近への応答(Kasai)も報告があった。ジョセフソン・プラズマによるTHZ帯及び高い周波数の発光では100W/cm2での出力が得られるという予言(Tachiki)があるがこれを実証する為のいくつかの報告があり、この分野の大きな発展があった。

 強磁界でのメサ接合のIV特性をシュミレーションしてTHZ波放出の可能なこと(Kleiner)やスーパーラジアント状態が実現できること(Machida)が示された。磁界中での縦プラズマの励起のいくつかのめずらしい実験結果が示された(Kadowaki)。Bi-2212中の縦プラズマ波が、単結晶上に形成されたうすい電極のNb/AlOxide/Nbジョセフソントンネル接合で観測された(Yamada)。Tl薄膜ブリッジのIV特性からプラズマモードの観測が試みられた(Chana)。プラズマ波の直接検出が広帯域受信器で成功した(I.Iguchi)。スーパーヘテロダイン方式の有用性も強調された(Hirata)。フィルター等の受動素子開発を目的とするYBCO薄膜のマイクロ波特性制御の2つの報告があった(Ohshima)、(Ong)。レーザー光のフエムト秒パルスYBCO薄膜に照射して、THz波の発生結果が報告された(Tonouchi)。

3.デバイス応用

 ミクロン・サブミクロンサイズの単結晶を用いる高速電子デバイスが提案された(Yamashita)。特に、THZ波連続発振素子と単電子対トンネルデバイスの実現可能性が強調された。Pedersenは積層接合を用いる2分の1周波数出力のパラメトリック増幅器を提案した。BarbaraはNbジョセフソン・アレイを用いて数100GHZ、数nWのコヒーレント発振を33%の効率で実現した。ChenはNbTiNトンネル接合を作成して天文観測用THZ波検出器を作成した。ミリ波、サブミリ波帯検出器としてメサ接合が良好な特性を示すことが実証された (Wu, Wang) 。

 これらの発表論文は近々別冊のPhysica C に掲載される。今回は2回目の国際シンポジウムであったため、参加者は互いに親しく国際交流をすることができた。

 最後に次回はドイツのErlangen大学のProf. P. Muellerにより、2002年6月〜7月に" Future prospect Josephson Devices " と題して開催される旨が発表された。