SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 5, Oct. 2000.

12.会議報告:
Applied Superconductivity Conference 2000


バルク材料

 バルクは3セッション(REBCO Bulk I〜III)が組まれ、他のセッションにも関連した報告が若干みられた。ここでは紙面の都合で一部しか紹介できないことをご了承願いたい。

 最近の溶融バルク体のホットな話題の一つはドイツのグループによるY系へのZn添加であろう。今回のASCでも同グループのGruss (Dresden)が、Zn置換で磁場誘起型のピン止め中心が形成され、単一試料の表面上での捕捉磁場が17 Kで11.4 T、二試料間のギャップ内では22.5 Kで14.35 Tに達したデータを紹介した。また、Wai Lo (Houston大)は、Zn置換量依存性を調べ、CuO2面内でのZnの平均間隔が6 nmに相当する置換量でゼロ磁場Jcが最大になったこと、Y211相にもZnが置換されること、Y211相の粒径は変化しないことなどを報告した。

 一方、軽希土類元素系の進展が最近著しいが、Cardwell (Cambridge大)は、Nd123の包晶温度がAuの0.005 mol%添加で28℃低下し、これにAgを5 wt%添加するとさらに17℃低下することを、そのために溶融前の試料上に無添加のNd系試料を種結晶として置く、いわゆるcold seedingが可能になると報告した。また、Au、Agの同時添加でNd422相が微細化することなどを報告した。Ikuta (Nagoya大)は20 wt%のAg2O添加によりクラックの発生を抑制して、直径30 mmのNd系c軸配向試料の作成に初めて成功したことを報告し、出発組成をBa-richにするとTc、Jcが向上すること、CeO2添加により捕捉磁場が上昇すること、77 Kでの磁場捕捉特性はSm系に匹敵するものの機械的強度がSm系に劣ることなども報告した。Kambara (Cambridge大)は酸素分圧1%雰囲気で一定過冷度の条件下でのNd系の成長は、過冷度が小さい時には非定常的であり、Nd置換量が成長とともに減少することを、ただし置換量の幅は大気中成長よりも小さいこと、一方、過冷度が15℃と大きい場合にはほぼ定常的な成長を行うことを報告した。Sakai (SRL)はprecursorを酸素雰囲気中で処理した後に低酸素分圧下で溶融成長することで、低酸素雰囲気下での成長で通常みられる空孔を除去でき、Tcが93 K の(Sm,Gd)系試料を得たと報告した。

 211相または422相を微細化することはゼロ磁場Jcの向上のために重要であるが、Wai Lo (Houston大)は噴霧状原料を集光帯に通過させて約20秒間反応させることでY211の20〜50 nmの微粒子を作成する手法を報告した。この時の反応温度は約800℃と推定されるとした。一方、Iida (SRL)はNd系溶融バルク体を種々の条件で作成し、低酸素雰囲気、相対的なBa組成の増加、PtとCeO2の同時添加がいずれもNd422の微細化に寄与し、平均粒径がサブミクロンに達したと報告した。

 また、Hari Babu (Cambridge大)はY123相のYサイトに最大5%のCa置換を行い、成長速度が上昇したこと、211粒子の粒径がサブミクロンに減少したこと、また211相にもCaが置換されることなどを報告した。Awaji (Tohoku大)は磁場中で溶融成長したY系溶融バルク体のE-J特性をYamafuji & Kissモデルで解析し、磁場印加により局所的なJcの分布の幅が狭まり、これはサブドメイン間の結合性が向上したためであると報告した。Strasik (Boeing)は、Y系のYに1%のGdまたはErを置換するとTcが上昇し、Nd、Sm、YbではTcが減少したことを、またEr置換の場合にはJcも上昇し、18 mm/hという早い成長速度でも高いJcを持つ試料が得られたと報告した。さらに、10 kWh級フライホイールを試作しており、その試験結果を10月のISSで報告する予定であると述べた。 (生田博志)

ビスマス系線材

 ビスマス系線材関連では70件を越える多くの発表があった。まずAmerican Superconductor(ASC社)とPirelli Cable and Systemは、Detroit Edisonプロジェクトのために開発中のパワーケーブルに使用されるBi-2223線材の開発状況について報告した。このプロジェクトは三相2.4kA、24kVの定格を持つ120mのケーブルを開発するもので、77Kで100A以上のIcを有するテープを187本必要とし、作製する線材の総長は25km以上に達する。線材には補強のために両面にステンレステープを貼り付けている。ケーブルは加圧液体窒素中で運転され、窒素が線材に侵入することによる特性劣化が問題となるが、これまでに150本に及ぶテープを加圧液体窒素中で試験したところ、1本がダメージを受けたが他は特性の劣化がなかったとしている。テープには窒素が入らないような工夫が凝らされている。また、百万回にも及ぶ繰り返し応力試験を行い、特性劣化の無いことも確認している。更に熱履歴の試験も行っている。以上のようにこの報告を聞いた限りでは本プロジェクトは順調に進んでいるようであった。

 Geneve大のグループは、Bi-2223層の生成について発表した。中間相であるBi-2212相の配向が重要であるが、高い配向のためには中間加工でのBi-2212相のすべりが重要で、そのためにはある程度の空隙が必要であり、最初から密度を上げたテープではBi-2212相の高い配向度は得られないと述べた。また、Bi-2223相を高温にして一旦分解させた試料を再加熱してBi-2223相を生成させる実験を行い、これより条件を整えるとBi-2223相の溶融−凝固を熱力学的に可逆に起こすことができるとし、これを利用して溶融凝固法による高Jc Bi-2223線材作製の可能性を指摘した。同様の可能性を、Max-Planckのグループも指摘した。

 Wisconsin大のグループは、ASC社で作製された単芯のBi-2223テープ(Jc=37kA/cm2, 77K)を磁気光学法(MO法)で調べた。テープ面に垂直に磁界をかけて上から見た場合は非常に均一なイメージが得られたが、面に平行に磁界をかけて横から見た場合は、Ag/Bi-2223界面では均一な像が得られてるが所々孤立した領域があり、この部分が均一な電流の流れを阻害しているとしている。またMOイメージから見積もった局所的なJc(ただしいくつかの結晶粒にまたがって流れている)は180kA/cm2と全体のJcの5倍にも及ぶとしている。

 Oxford Instrumentのグループは、Bi-2212テープについて発表し、原料粉のロットによって特性が大幅に異なるとし、ロットごとに熱処理条件を最適化する必要があると述べたが、その原因は不明としている。このような原料粉のロットによる特性のバラツキは、多くのグループが経験していると思われるが、公の席で詳しく発表されたのはこれが最初ではないかと思われる。

 以上紙数の都合で、特に印象に残っている外国からの発表について報告したが、最後に感想を述べると、線材における超伝導相の生成メカニズムや特性解析、ならびに線材の応用については着実な進歩が伺えるものの、臨界電流特性そのものを向上させるという試みは数少なかった。ビスマス系線材では高温でのJc特性の向上が必要不可欠であり、それに向けてのピン止め点の導入や異方性の制御等の研究が何にも増して重要であると筆者は考えるが、そのようなチャレンジングな研究が極めて少ないのは残念であった。(熊倉浩明)

デバイス・エレクトロニクス

 材料、エレクトロニクス、およびパワー応用等、超電導応用全体で1300件余りの発表のうち、エレクトロニクス分野の発表は485件(予稿段階、実際にはポスターでかなりの取り下げあり)であり、ほぼ1/3を占めた。これらの膨大な発表について内容を検討した上で報告するのは不可能であり、報告者が興味を持った発表とエレクトロニクス分野の大まかな研究動向を以下に紹介する。

(1) ジョセフソン接合等の素子技術

 高温超電導接合の研究開発に関して、米国では研究ファンド等がストップしている事情もあってあまり進展していない。表面改質層を用いたランプエッジ型接合の開発は日本国内がもっとも盛んである。米国の超電導素子研究者はこのタイプの接合に興味がなくなったのではなく、ランプエッジ型接合のポスター発表はすべて人気を集めていた。ドイツ、イタリア等欧州では人工バリアの高温超電導接合、バイクリスタル接合の研究開発が盛んである。ADモジュレ?タのようなSFQ回路の試作を行っているTwente大の例もあるが、p接合に特有の磁場依存性の解明やレーザ光を用いた接合のIc分布の評価などの基礎的研究に主眼が置かれている。

 一方、低温(Nb系)の方は、米国では、Hypres、TRW、およびUCB等でデジタル回路用基本プロセス技術の開発と、配線ルールや接合寸法の縮小化(2mm以下)が進められているとともに、サブミクロンサイズ(0.7-0.3mm)で高いJcをもつ接合の開発が盛んである(SUNY等)。高Jc化によりRSFQ回路の高速化と高性能化を着実に実現する予定と見られる。現在のTRWでのNb系JJのレベルは接合寸法1.75mm、1sがチップ内で1-2%、ウェハ内で5%、run-to-runで10%である。またASC98でのNb系JJ回路発表のうち、75%はHypresの2.5-3.5mmルールによって作製されたものということで、ファンドリの果たす役割は大きい。日本からも、NECのプロセスで試作した回路の報告が前回に比べ大幅に増えた。

(2) デジタル応用

 デジタル応用研究の中心は米国であるが、ADコンバータとペタフロップスコンピュータ(HTMTプロジェクト)を主な研究目標としている。SUNYはRSFQプロセッサ(FLUXチップ)の設計を進めている。チップは9万JJで構成し、データ処理を効率化するために16ビットALUとレジスタを交互にリング状に配置した。チップ内のクロック20GHz、チップ間の信号伝送9GHzを想定している。10Tflopsのコンピュータを超電導チップで作製した場合に必要とされる冷却容量(Dynamic 250W, Static 1250W)や冷媒量(ヘリウム650リットル/hr)についての推定も行っている。HTMTプロジェクトでは今年の第3期でプロセッサなどの要素技術の確立を行い、来年からの第4期で10 Tflopsのシステムの試作、実証を行う予定になっていたが、2日目にHTMTの責任者であるStirling (JPL)から、プロジェクトが第3期で終了するという"衝撃的な"報告がなされた。しかしながら、当事者の話によれば、これはプロジェクトが巨大化し過ぎたためで、プロセッサ、アーキテクチャ?、光スイッチ等の超電導関連の重要技術については別プロジェクトとして継続されるということであった。ADコンバータについてはモジュレータ、デジタルフィルタ等Hypresを中心として、前回のASCから着実な進展が見られた。

(3) SQUID応用

 SQUID技術に関してはドイツが最も進んでいる。Koch(PTB)の基調講演によれば、高温超電導SQUIDは心磁計応用として十分高感度レベルに達している(磁場分解能、1Hz-30fT/√Hz, 10Hz-12fT/√Hz)。16チャンネルSQUIDシステムで脈動に伴う磁場Bzの時間変化をビデオ化し、Bz(max),Bz(min)の位置の移り変りを視覚化するまでに至っている。磁場分布図から電流分布を再現でき、また健全な心臓と心臓病の可能性の区別を診断できる。磁場勾配の場所分布を測定すれば心臓の欠陥部分を特定でき、かつ測定の再現性が得られるので、さらに有効である。

 医療計測以外にSQUIDを用いたさまざまな測定応用例が示された。従来から実施されている鉄等磁性材料の構造評価、航空機の内部構造体の欠陥検査、ピコボルト電圧計等以外に、航空機からの海上船体の確認 (潜水艦の探知が目的)、金属の酸化や酸による腐食過程の観察、光伝導によるSiウェハ内のドーピング密度の揺らぎ評価、カーボンファイバーに応力を加えたときの強度の不均一性、磁性粒子を用いた微細有機物(蛋白質)の分離評価等である。

(4) マイクロ波応用、検出器等

 Willemsen (STI) の基調講演によれば、米国内では、無線基地局用の高温超電導フィルタを含むレシーバシステムが現状で約800台稼働中とのことであった。これはASC98時点の100台に比べて大幅に増えているが、基地局のごく一部に入っているのみである。導入数の飛躍的増大のためにはシステムの小型化、低コスト化が今後の課題である。X線検出器、ミリ波検出器では、充実した発表がなされた。特にX線検出器では、超電導膜の遷移端を用いるボロメ?タにおいてエネルギー分解能が飛躍的に向上し、多数の発表が見られた。今回量子コンピュータのセッションが新たに設けられた。低温関係企業展示で目新しい製品としては、米国クライオメック社がパルスチューブ冷凍機で、初めて二段式、冷却温度4.2K、冷却電力0.5W(投入電力5kW)仕様の製品をデモしていた。日本での販売は来年からとのことである。(田辺圭一)

次世代線材

 YBCO テープ線材に関する発表はポスターを含めて10セッション以上あり、大変盛況であった。ここではいくつかのトピックスに限定して紹介する。

 この分野での大きな進展はIBAD法に関するものであった。IBAD基板上ではYBCO膜の特性は高いが、これまで基板の製造速度の低いことが工業化の障害となっていた。この問題に対して飯島(フジクラ)は大面積IBAD装置を開発し、IBAD-YSZ層の高速成膜化に成功した。この装置によれば5.6m長のNi合金テープ上にYSZ層を10時間で成膜できる。従来装置では5.1m長YSZ/Ni合金テープの作製に180時間かかっていたことに比べれば大きな進展である。新IBAD基板上では、PLD法によって、1m長テープでIc=84A, Jc=0.76MA/cm2が得られている。これ以外にも旧IBAD装置による4.6m長テープ(Ic=35A, 0.25MA/cm2)の値も紹介された。

 IBAD法ではこれ以外にロスアラモス国立研究所(LANL)とゲッチンゲン大学のグループが精力的に研究を進めている。J.R.Groves (LANL)は高速成膜が可能な材料であるMgOを用いたIBAD-MgOテープの詳細について報告した。このバッファー層上でのPLD-YBCO膜のJcは0.22μm厚で3.9MA/cm2、および1μm厚で0.86MA/cm2であった。今後、フジクラのIBAD-YSZに比べてメリットがでるのか不明である。なお今回、LANLからは長尺の報告はなかった。一方、A. Usoskin (Zentrum fuer FunktionswerkstoffegGmbH、ゲッチンゲン大学グループ)はハイレートPLD装置(HR-PLD)の成果について報告した。この装置を用いると、9m/hの製造速度でYBCO膜の成膜ができる。同グループが開発したIBAD-YSZテープ上に成膜したYBCO膜は、0.6m長テープで0.6MA/cm2、さらに5.5m長テープで0.3MA/cm2が達成されている。このようにYBCOテープの長さの点で、ゲッチンゲングループは日本に追い付いた。彼等は2年以内にYBCO層のデポレートとして20m/h以上が可能という。

 IBAD法以外ではオークリッジ国立研究所のRABiTS法による長尺の結果が注目された。A. Goyal (ORNL)は1m長のRABiTS基板上でのJcの長さ方向分布について報告し、Jcが0.1〜0.8MA/cm2の範囲で分布していると述べた。これまでRABiTS上では局所的に高いJcが得られることは知られていたが、メートル単位での報告はなかった。現時点ではJcのばらつきは大きいものの、RABiTS法でも長尺テープが作製可能であることを示したという点で、進展といえよう。なお上記の1m長YBCOテープはRABiTS基板上にBaF2を用いたex-situ法による成果である。この方法ではプリカーサー膜をYBCO膜へと結晶化させるコンバージョン装置が必要であるが、彼等はリールツーリール長尺炉を開発して1m長テープを作製している。この時の製造速度は0.6m/hである。同じex-situ法を研究対象とするV. F. Solovyov (ブルックヘブン国立研究所)は、ex-situ法における反応機構の解析とコンバージョン装置の最適設計を進めており、均一な結晶化のためには減圧下での反応が有効であることを示した。これ以外にもISD法やSOE法、あるいはTFA法等の興味深い報告があったが紙面の都合上割愛する。(松本要)