SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 5, Oct. 2000.

10.超伝導科学技術研究会が将来計画に向けた
報告書とりまとめ


 科学技術庁傘下の未踏科学技術協会超伝導科学技術研究会(会長太刀川恭治東海大学教授)が国の研究戦略策定に向けた超伝導関連技術開発に関する報告書をまとめた。21世紀超伝導研究開発戦略SRDI 21 (Superconductivity Research and Development Initiative for the 21st Century) をまとめた。報告書は未踏科学技術協会より科学技術庁に提出され、今後、とくに同庁の研究方針の基本になっていくと思われる。

 報告書は以下に抜粋した趣意書で始まっており、具体的事例と研究計画とが各分野にわたりまとめられている。この報告書に興味のある人は、未踏科学技術協会(担当:山田耕司氏、Tel:03-3503-4681)に問い合わせるとコピーが入手できる。以下抜粋:

趣意書

 「超伝導」は、これまでの研究開発の中で、21世紀の人類社会において重要な情報、環境、エネルギー、ライフサイエンスなどの領域に革新的な変革をもたらす可能性があることが示されてきた。

その数例を挙げると、

@ 超伝導は半導体と比べて桁違いの高速性と省電力で動作する素子を可能にし、情報化社会を省エネルギー社会に導くことが出来る。すでに10万素子までの集積技術が拓かれた。

A 超伝導は、送電における電力損失を最小にし、また、遠距離直流送電は地球電力ネットワークを可能にすることで、風力・砂漠太陽光発電など多様な自然エネルギーの統合を容易にする。

B 超伝導による超強磁場の発生は、MRI(非侵襲人体断層撮影)や脳活動状況の3次元イメージングを可能にし、ライフサイエンスの進展に大きな武器を与えるとともに、超高速、クリーン、かつ、省エネルギー型の21世紀社会にとって理想的な輸送・物流手段を与える。

 20世紀は超伝導応用技術の基本実証が主であったが、21世紀初頭にはさまざまな分野に新規産業を創出し始めることになろう。

 超伝導は電気抵抗がゼロでマクロな世界に微視世界の量子力学が顔を出す極限的な世界である。それだけに、実用化されたときの変化は劇的である。列車が浮かび、永久電流で電力が貯蔵できる、ゼロ抵抗で世界の電力を連系することができる、あるいは、非接触で脳活動による微弱電流の位置を同定できる。わが国技術陣は現在までその先頭に立っており、不況の中で困難に直面しながらも、クリーンで省エネルギー、かつ、高速、超高感度といったキーワードであらわされる21世紀型の技術に挑戦し、人類がその未来を再び科学技術に託し、安全で快適な社会を実現できるレベルまでの準備をしてきた。我々はこれら超伝導の素晴らしい応用の多くが、ここ5-20年程度の取り組みにより応用段階に入ると信じる。

 わが国がこれら超伝導技術を実現し、人類が直面する環境、エネルギー等の問題に対処する技術基盤を確立することができれば、21世紀において、信頼できる先端技術の国として世界の尊敬を獲ち得るとともに、新たな産業を創出して世界経済の活性化にも貢献していくことになるであろう。そのような状況を創り出すためには、社会の発展を展望しつつ、国を中心とする、以下のような広範な取り組みが必要である。

1)超伝導情報基幹網計画(SIS計画:Superconducting Information System Project)
☆単一磁束量子(SFQ)技術による省エネ(半導体素子の千分の一)、超高速(半導体素子の千倍)素子の実現とソフトウェア無線の実現
☆インターネット時代の省エネ超高速スーパールーターの実現
☆電子商取引用の超高速暗号発生・解読超高速コンピュータの実現

2)超伝導グローバル・ライフライン構築計画(Super-GL計画:Superconducting Global Life-line Project)
☆グローバル電力ネットワーク(地球の裏側まで電力を一体化することで、昼夜・夏冬の電力変動、および、電力消費地と発電適地の乖離の問題をなくし、人類が自然エネルギーに頼れるインフラを形成する)
☆大陸横断リニアモーターカー

3)超伝導環境・資源対応計画(Super-RET計画: Superconductivity-based Resource and Environment Project)
☆磁気分離(海洋・湖沼の赤潮、アオコ浄化、都市排水処理、ごみ・産業廃棄物リサイクル、資源選鉱、地熱水処理)
☆超高感度環境モニタリング、放射線モニタリング
☆超伝導利用自然エネルギー開発

4)超伝導ライフサイエンス対応計画(Super-LS計画: Superconductivity-based Life Science Project)
☆超高感度分析技術−超強磁場NMR(タンパク質構造解析)
☆多核種MRI(代謝、遺伝子疾患早期診断)
☆脳磁場計測(脳機能解明)
☆細胞分離(がん細胞の分離、幹細胞分離)

5)超伝導基盤開発整備計画(Super-ME計画:Superconducting Materials Elaboration Project)
 以上の技術展開を支える基盤を整備強化する。
☆超伝導材料工学および超伝導応用工学の確立
☆超伝導研究用大型装置の整備(産・学・官の共用)

以上の計画は、わが国が育んできた高い技術ポテンシャルを十分に活用しつつ、産官学の連携を密にし、シーズ発掘とニーズ開拓、および、それらに係わる人の実質的交流が活発に生じるような柔軟な運営体制の下に、実施される必要がある。また、国や地方自治体、電力業界などのエンドユーザーを交えた形で、戦略的な展望を持って推進されなければならない。このための国家的な体制として以下を提案する。

1.「超伝導研究開発戦略機構(Organization for Superconductivity R & D Strategy= OSS)」
全体戦略の策定と情報流通の拠点。

2.「超伝導連繋基盤センター(Center for Cooperative Superconductivity R & D = CCS)」
産・学・官連携による超伝導実用化プロジェクト実施のための拠点。

3.「超伝導研究開発支援ネットワーク(Superconductivity R & D Supporting Network = SS-Net)」
先端IT技術で産・学・官の研究開発サイトを結び、基礎から応用への効率的展開を図る情報ネットワーク。

 本報告書は、超伝導科学技術研究会がその調査研究を通じて21世紀における我が国の超伝導研究開発のあり方を総合的観点から論じたものである。超伝導技術が真に発展し、確立されるためには、多様な視点からの議論が必要であり、本報告書がそのための一石となれば幸いである。

---------------------------------------------------------------------  特に下図に示されたSFQ(単一磁束量子)素子について、ごく最近、ジョセフソン素子に代わって登場した、超高速・省電力を同時に達成できることが実証された唯一の素子、として同報告書は注目している。

 同報告書は全体として、我が国における超伝導技術の今後の展開の中で、国の戦略としての基盤技術の育成と、産官学連繋を徹底したプロジェクト作戦による応用展開などを提案している。

(SSC)