SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.9, No.5 , Oct. 2000

1.超電導変圧器の実用性能を世界で初めて実証
_九州電力・九大ほか_


 九州電力は、九州大学、富士電機株式会社、九州変圧器株式会社、大陽東洋酸素株式会社と共同で、超電導変圧器の国内初の約200時間にわたる電力系統連系運転に成功し、電力機器としての実用性能を世界に先駆けて実証したと報告している。

 今回、系統連系運転に使用された超電導変圧器は、今年3月、福岡県産業・科学技術振興財団(ふくおかIST)がNEDOから受託した平成10年度ベンチャー企業育成型地域コンソーシアム研究開発事業の中で開発された『電圧22kV/6.9kV,容量 単相1,000kVA酸化物超電導変圧器』(世界最大規模の実系統連系酸化物超電導変圧器を開発、本誌Vol.9, No.3,p.3‐4に掲載)で、これに新規に開発された『過冷却液体窒素冷却システム』を付加している。系統連系運転は6月12〜30日に、九州電力の今宿総合試験センター(福岡市西区)で実施された。

 新たに開発された『過冷却液体窒素冷却システム』は、真空断熱されたステンレス製容器に冷凍機2台と循環ポンプを組込み、真空断熱された配管で変圧器本体と連結されている。また、変圧器本体の液体窒素搭載量330リットルに対し、液体窒素の循環量は毎分4リットルであり、装置全体では77Kで約300 Wの冷凍能力を有している。

 九州電力総合研究所超電導グループの本田和男主幹は、「今回の電力系統との連系運転にあたって、電力機器の実用化の重要な要件であるメンテナンスフリー化を目指すには、電気絶縁・冷却材である液体窒素の無補給運転を可能にする『過冷却液体窒素冷却システム』を開発する必要があった。」とコメントしている。大気圧における液体窒素は絶対温度77Kであるが、この状態で超電導線材に臨界電流以上の電流を流すと、発生した抵抗による発熱のため液体窒素の蒸発量が多く、メンテナンスフリー化が困難になるとともに、液体窒素の電気絶縁耐力が気泡の発生により半減してしまう。このため研究グループでは、液体窒素を過冷却状態(大気圧で絶対温度65K)にすることでこれらの問題を克服している。

 電力系統との連系運転試験は、超電導変圧器の励磁突入電流測定試験、負荷試験などが行われた。励磁突入電流測定試験では、超電導変圧器を電力系統に11回投入し、その投入瞬時に流れる励磁突入電流を測定している。 また、負荷試験では、超電導変圧器を電力系統に連系し、2次側にリアクトルを模擬負荷として接続、300 kVA、400 kVA、500 kVA相当の負荷で各5分間運転し、安全を確認した後、500 kVAで18時間、670 kVAで25時間、さらに500 kVAでの150時間の連続運転を行っている。また、これとは別に、電力系統とは切り離した状態で1000 kVAで10時間の運転、さらに1670 kVA相当(定格容量の1.6倍)の運転を行っている。

 系統連系運転試験の担当者である超電導グループの木村博伸研究員は、「過冷却液体窒素冷却システムは、ほぼ1ヶ月間の試験期間中、一度も液体窒素を補充することもなく、液面も安定しており、その性能と信頼性を確認することができた。また、負荷試験時の液体窒素温度は、冷却システムの出口絶対温度64Kに対して、最高でも500 kVA運転時に66.1 K、670 kVA運転時に67.1 K、1000 kVA運転時にも67.6 Kまでしか上昇せず、安定した運転を継続することができた。」とコメントしている。

 今回の電力系統との連系運転により、@150時間の連続運転を含む延べ約200時間の連系運転の結果、安定した性能を確認、A超電導変圧器を電力系統へ投入する際に、変圧器定格電流の5倍以上の励磁突入電流が流れたが、安全に運転できることを確認、B超電導変圧器の過負荷運転については、油入変圧器と同様に、定格容量の1.6倍程度までは短時間の運転が可能、C過冷却液体窒素冷却システムを開発・導入したことにより、冷却システムのメンテナンスフリー化を実現、D超電導変圧器の効率は99.4 %で、同容量の油入変圧器と比較し0.5 %程度高くなる、といった成果が得られている。

 九州電力総合研究所超電導グループ長の堤克哉氏は、「今回、電力系統との連系運転に成功した超電導変圧器は、電力用変圧器としてはいまだ小容量であるが、変圧器の標準規格(JEC)に準拠した絶縁特性や各種の過電流に対応する変圧器性能を実現している点では、超電導を応用した電力機器の実用化に向けて一歩前進したと考えられる。」と述べている。

(未来君のタマゴ)


図1 外観


(超電導変圧器)         (過冷却液体窒素供給装置)
図2 過冷却液体窒素冷却システム構成図


表1 超電導変圧器の主な仕様


表2 過冷却液体窒素供給装置の主な仕様