クラッド材はAgとNiを拡散接合後、途中アニールを加えながら圧延することによって作製している。最終的なテープ厚は100μm、幅7mmで、片面のみAgでクラッドしてあり、Agの厚みは10μm、Niの厚みは90μmである。AgとNiとの結合は極めて強固であり、基板を180度に折り曲げてもAgが剥離することはないという。クラッド材の表面ならびにAg/Ni界面はスムーズであり、Ag層の厚みもほぼ一定である。この基板上にディップコート法でBi-2212を含む懸濁液を塗布し、Bi-2212線材の標準的な熱処理法である部分溶融−徐冷熱処理を施してBi-2212テープを作製している。Bi-2212層の厚みは13μm前後。熱処理温度や冷却速度などのパラメータは純Agを使用した場合とほぼ同様である。熱処理後のテープの断面組織からわかるように(図1)、通常のAg基板を用いて作製した場合と同様に、Bi-2212超伝導層がAg層の上に形成されている。熱処理中に少量のAgが酸化物層内に溶け込むので、Ag層の厚さは熱処理前に比べて若干薄くなっているが、Ag/酸化物界面の平滑度は純Agを用いた場合と変わらない。NiはAgにほとんど固溶しないので、Ag層がバリアー材の役目を果たす。実際にこの試料断面をEDAXによって分析した結果では、Bi-2212層内のNi濃度は、分解能以下であるとしている。またAg層には、Bi、Sr、Ca、Cuなどの元素も認められない。このために得られたBi-2212層のc軸配向度や不純物相の量、あるいは不純物の分布などは、純Agを用いた場合とほとんど変わらない。したがって得られるTcやJcも純Ag基板を用いた場合とほとんど変わらず、Jcについては、4.2K、10テスラで105A/cm2以上と高い値が得られるとしている。なお、酸素がAgを突き抜けてNi基板に到達するので、数ミクロンのNiO層がAgとNiの間に形成されている。
またこのクラッド材にBi-2212層を生成させるのと同等の熱処理を施した後に、引っ張り強度を調べたところ、純Ag基材の場合の約3倍の値を示し、機械的強度の面でも優れていることがわかったとしている。 今回の開発について金材研第1グループの熊倉浩明氏は「これまでの研究でAg/Niクラッド基板を用いてBi-2212線材を作製する基礎をほぼ確立することができた。今後はAg層やNi基板の厚さを薄くしたり、その他の条件を最適化するとともに、長尺化に取り組んで行きたい」と話している。また田中貴金属工業鞄d材・加工製品事業部の嶋邦弘氏は「今のところAg/Niクラッド材を作製するのにはそれなりのコストがかかっているが、量産化が進めばコストの低減が可能になり、純Agテープよりもかなりの低コスト化が可能になると思う」と話している。
(NHK)