SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 4, Aug. 2000.

6.Ag/Niクラッド基板を用いたBi-2212テープを開発
_金材研・田中貴金属_


 金属材料技術研究所の第1研究グループ(根本善弘(筑波大院)、藤井宏樹、北口 仁、熊倉浩明、戸叶一正の各氏)は、田中貴金属工業(株)(嶋邦弘氏)と共同でAg/Niのクラッドテープ基材を使ったBi-2212テープを開発した。ビスマス系超伝導線材は特性が毎年向上してきており、その応用に期待が持たれているが、高価なAgを使用しているために線材コストの高くなる点が問題とされてきた。また、Ag基材を使ったビスマス系線材ではAgが熱処理によって完全にアニールされてしまうため、機械的強度が低い点も問題視されている。これらの問題点を解決する方法として、最近表面酸化したニッケル基板を使う方法が提案されているが(本紙Vol.8, No.6)、金材研と田中貴金属の方法は、薄いAgでクラッドしたNi基材を使うというもの。これはAg層によってNiがBi-2212層へ拡散するのを防ぐと共に、またAg層を安定化材として使おうというものである。

 クラッド材はAgとNiを拡散接合後、途中アニールを加えながら圧延することによって作製している。最終的なテープ厚は100μm、幅7mmで、片面のみAgでクラッドしてあり、Agの厚みは10μm、Niの厚みは90μmである。AgとNiとの結合は極めて強固であり、基板を180度に折り曲げてもAgが剥離することはないという。クラッド材の表面ならびにAg/Ni界面はスムーズであり、Ag層の厚みもほぼ一定である。この基板上にディップコート法でBi-2212を含む懸濁液を塗布し、Bi-2212線材の標準的な熱処理法である部分溶融−徐冷熱処理を施してBi-2212テープを作製している。Bi-2212層の厚みは13μm前後。熱処理温度や冷却速度などのパラメータは純Agを使用した場合とほぼ同様である。熱処理後のテープの断面組織からわかるように(図1)、通常のAg基板を用いて作製した場合と同様に、Bi-2212超伝導層がAg層の上に形成されている。熱処理中に少量のAgが酸化物層内に溶け込むので、Ag層の厚さは熱処理前に比べて若干薄くなっているが、Ag/酸化物界面の平滑度は純Agを用いた場合と変わらない。NiはAgにほとんど固溶しないので、Ag層がバリアー材の役目を果たす。実際にこの試料断面をEDAXによって分析した結果では、Bi-2212層内のNi濃度は、分解能以下であるとしている。またAg層には、Bi、Sr、Ca、Cuなどの元素も認められない。このために得られたBi-2212層のc軸配向度や不純物相の量、あるいは不純物の分布などは、純Agを用いた場合とほとんど変わらない。したがって得られるTcやJcも純Ag基板を用いた場合とほとんど変わらず、Jcについては、4.2K、10テスラで105A/cm2以上と高い値が得られるとしている。なお、酸素がAgを突き抜けてNi基板に到達するので、数ミクロンのNiO層がAgとNiの間に形成されている。

 またこのクラッド材にBi-2212層を生成させるのと同等の熱処理を施した後に、引っ張り強度を調べたところ、純Ag基材の場合の約3倍の値を示し、機械的強度の面でも優れていることがわかったとしている。 今回の開発について金材研第1グループの熊倉浩明氏は「これまでの研究でAg/Niクラッド基板を用いてBi-2212線材を作製する基礎をほぼ確立することができた。今後はAg層やNi基板の厚さを薄くしたり、その他の条件を最適化するとともに、長尺化に取り組んで行きたい」と話している。また田中貴金属工業鞄d材・加工製品事業部の嶋邦弘氏は「今のところAg/Niクラッド材を作製するのにはそれなりのコストがかかっているが、量産化が進めばコストの低減が可能になり、純Agテープよりもかなりの低コスト化が可能になると思う」と話している。

(NHK)


図1