SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 4, Aug. 2000.

5.24Tを発生できるNb3Al線材の開発
新熱処理法で超強磁場用線材
_金材研_


 最近の進展が著しい急熱急冷変態(RHQT)法Nb3Al線材の開発状況には目を離せないものがあり、先号でも、金材技研・日立製作所・日立電線が共同で、金属系では世界最高の22.5Tの磁場発生に成功したと報告した。今号でも金属材料技術研究所強磁場ステーションTMLのグループ(竹内孝夫,伴野信哉,福崎智数,和田仁の各氏)がRHQT法Nb3Al線材の高磁界特性を飛躍的に向上させる新技術の開発に成功したニュースを届ける。RHQT法は、Nb/Al複合多芯線を急熱急冷してbcc相のNbにAlを25at%も過飽和に固溶させ、これを800℃で2次熱処理を行ってA15型Nb3Al化合物にマッシブ変態させる製法である。結晶粒が微細なため20T以上の強磁場領域を含む全磁界領域でNb3Snに比べてJcが高いことが特徴である。しかし、 TcやBc2(4.2K)では、Nb3Alが本来有する値(18.5K, 29T)より低くなる(17.8K,26T)欠点があった。したがって、変態を経由した場合のTcやBc2を劣化させる原因を抑制できれば、高磁界でのJc特性をさらに大幅に改善することが可能である。最近、金材技研第4研究Gの菊池章弘氏は、 Al濃度が局所的に高くなることを特徴とする積層欠陥が変態を経由したA15相内に多数生成していることを報告した。竹内ユニットリーダーは「菊池氏のデータは2相分離以外に組成が変動してしまう(化学量論組成からずれる)機構を示唆しており、我々のTRUQ法の開発に重要なヒントを与えた。」と述べている。当時、竹内氏らは、通常の変態熱処理ではbcc相中の規則化反応がA15相への変態反応と競合していることを見つけ、X線回折や極点図形で解析中であった。晶癖面などの解析から、このbcc相中の規則化が、菊池氏の見つけた積層欠陥(超伝導特性の劣化)の原因に違いないと確信した。これに基づき、不規則なbcc相から直接A15相に変態させることにより、長範囲規則度は低いが化学量論比で積層欠陥フリーのNb3Alが生成できる方法を検討した。そこで通常より100〜200℃だけ高温で変態処理してbcc相の規則化の抑制を図った(図1)。準安定相であるbcc相を高温で変態処理すると、bcc相とA15相の自由エネルギー差に等価な変態熱が発生する。熱活性化により変態が瞬間的に生じるので多量の変態熱が発生し、これが試料温度を大きく上げる(変態熱アップクエンチング:TRansformation-heat based Up-Quenching)。熱源が原理的に限られているから、変態が終了すると試料温度は廻りの温度まで直ちに下がる。燃焼合成と同様にこの変態領域は伝播し、隣接する未変態(bcc)領域の不規則化を促進させるので、結局、不規則なbcc相から積層欠陥フリーのA15相が生成できる。TRUQで経験する最高温度は、電子ビーム照射法などによる高温直接拡散反応と比較して遙かに低い。そのため、変態したA15相の結晶粒の粗大化は抑制され、十分高いピン止め中心密度を確保している。電子ビーム照射などで顕在化したピーク効果は現れず、Jc-B曲線の勾配はこれまでのRHQT法と変化がない。長範囲規則度向上のためにTRUQ処理の後さらに800℃で10時間の熱処理を施すと、Tcが18.3K、Bc2(4.2K)が29TのNb3Alが得られる。これらの値は積層欠陥フリーの場合に匹敵し、Jc-B曲線はBc2(4.2K)の上昇分だけそのまま3T高磁界側にシフトする。結局、高磁界でのJcは大幅に改善する(図2)。このTRUQ法Nb3Al線材のIc(1.8K)(期待値)は、金材研が開発中の1GHz NMRマグネットの設計仕様値(251A@23.5T,1.8K)を何とかクリアしそうだ。

(善良な変態男)


図1 変態熱アップクエンチング(TRUQ法)の原理


図2 今回のTRQU法Nb3Al線材と、これまでのRHQT法、低温拡散反応法によるNb3Al線材ならびに改良型JR Nb3Sn線材との(a)Icと(b)non Cu Jcの比較