SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 4, Aug. 2000.

2.Bi系線材 日米ともに量産段階に
年産10,000kmのBi系線材製造工場の建設計画を発表
_米国ASC社_


 Superconductor Week誌(2000年5月29日号)によれば、アメリカン・スーパーコンダクター社(ASC社)は、高温超伝導(HTS)線製造専用の新工場を建設する場所を明らかにした。この新工場は、初年度に10,000 kmのHTS線を製造できるよう設計されている。新工場の面積は、355,000平方フィートであり、ボストン市の北西35マイルにあるデバンズ商業センターに建設される予定。デバンズ(Devens)商業センターは、かつて4400エーカーの軍基地であったものが、最新の工業的、総合技術的ビジネスパークに生まれ替わりつつある区域で、米国の多くの場所を慎重に検討のうえ、選択したものである。ASC社は、当建物への入居と新雇員の訓練開始を2001年夏に予定しており、2002年初めにフル生産の開始を期待している。アナリストのH. C. Wainwright氏は、新工場の全費用は65 Mドル(工場建設費が35Mドル、設備費及び設置費が30 Mドル)と見積もっているという。

 過去10年間にわたって、ASC社は研究開発と実証を目的として、1000 km以上のHTS線を製造してきた。従って、当工場はASC社が創業以来製造してきた全線材量の10倍を毎年製造できることになる。昨年度、ASC社はR&D契約を実行するため、Westborough工場の生産能力を250 km/年から500 km/年に増強した。当新工場は、次の数年間にわたる実証プロジェクト向けに予想される増大需要を満たすように設計されており、最終的にはHTSに基づく電力機器の初期的商用化のニーズを満足させるものである。この予測されるBi系線材の比較的大量の需要は、電力ケーブル、モーター及び発電機用の研究開発、実地試験あるいは他の原型開発活動において、顕著な増加が次の3〜5年内に起こるためである、とASC社はコメントしている。

 ASC社のシナリオによれば、商用化に先行する多数の長期間実施試験計画は完了していると予想される。そして、電力業界への商用的販売はBi系線材をもって始まるだろう。厚膜導体が実用できるようになれば、その段階で、電力機器用のBi系線材を第二世代のY系線材で継ぎ目なしに代替してゆき、Y系導入に伴うコスト低減によってさらに商用的販売を促進するつもりである。

 ケーブル、モーター、その他の機器用にASC社が計画している3〜5箇所の実証試験の場をもってしても、当10,000 km工場設備の生産能力は、これらの必要量をはるかに超えている。明らかにASC社は、非商用研究、原型開発、実証試験用に現在狙っている市場を超えた市場があり得ると信じており、ここ2〜3年間、それを追求する計画のようである。しかしながら、先のASC社の声明と、超伝導業界の大多数の専門家の意見は、Bi系線材はそのコスト/性能比における本質的制限に因り、けっして広範な市場における成功を達成できないことを示唆している。

 一方、ASC社のG.Yurek社長は、上記の意見に反対して、「全システムのコスト水準に関していえば、我々の第一世代線材の性能は既に銅線とコスト的に競合できる水準にあり、いくつかのケースでは、商用的なコスト/性能要求を満足している、我々の線材が価格/性能比の点でより前進するにつれて、多くの場面で銅線に打ち克つだろう」と述べた。ASC社の価格目標/性能比は、50ドル/kAmである(Yurek氏はBi系線材の可能なコスト/性能比は50ドル/kAmより低いと主張している)。また、Yurek氏は「Bi系線材は、厳密な意味で銅線の価格/性能比=25ドル/kAmに勝てないが、全システムおよび設置コストを考慮にいれるならば、ASC社製Bi系HTS線を用いたHTSシステムのコストは銅線システムより安価になり得る。例えば、増容量化のケーブル設置では、在来ケーブルによって必要な容量アップを行うと、追加的な埋設工事や、変電所設備が必要になる。一方、HTSケーブルは、既存の管路内に収納できるので、より安価な改修工事が可能となる」とコメントした。

 Superconductor Week誌編集部は、IGC-SuperPower社(IGC社のHTS関連の子会社)のP. Haldar部長に向かって、なぜ、IGC社はBi系線材の開発と製造設備に継続的にもっと投資をしないのか、と質問した。それに答えてHaldar氏は、「あらゆる会社が、Bi系線材を販売して利益をあげ得るとは考えていない。我々の焦点は高温超伝導厚膜導体のスケール・アップと製造関係に置かれる。しかし、ASC社がやっていることは非常に重要である。私は彼らに信頼を寄せている。なぜなら彼らはHTS市場の創生にむけて恐らく遠い先まで前進するからである。彼らの投資の結果、HTSの信頼性と他の核心パラメータを検証し、広範な水準において顧客の受容を獲得できるかもしれない。もちろん我々は種々のプロトタイプを作製しており、当技術の準備が整い、タイミングが適正であれば何時でも市場へ参入するだろう」とコメントした。タイミングに関して、IGC-SuperPower社は3〜5年以内に数100 m長の厚膜導体を供給できるだろう、と語った。Haldar氏は、ここ3〜5年の時間スケールで商用的販売が始まる可能性が高いというASC社の意見に同意している。

 Bi系HTS線をもって強力に商用化を推進しようとするASC社の決断は、近年市場開拓を試みているHTS技術にとって貴重な原動力となろう。IGC社や他の会社は、Bi系線材の開発に追加的な多額の投資を行わないかもしれないが、超伝導業界全体としてはASC社の第一世代線材への努力から大きな利益を受けるだろう。加えていえば、ASC社のBi系線材開発、システム実証、そして戦略的関係構築(広報関係、政府関係)における莫大な投資は、次の数年間に商業的な市場が拓け始めたときASC社に先頭の位置を保証するだろう、とSuperconductor Week誌はみている。

(こゆるぎ)