SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 4, Aug.2000.

1.Bi系線材 日米ともに量産段階に
銀被覆ビスマス2223系高温超電導線材の開発現況を公表
_住友電気工業株式会社_


 住友電気工業株式会社は、最近の銀被覆ビスマス2223系高温超電導線材の開発状況を、6月29、30日に九州大学で開催された電気学会・超電導応用電力機器、回転機合同研究会、及び 7月12日に大阪コロナホテルで開催された超伝導科学技術研究会第47回ワークショップで発表した。

 発表によると、1000m級長尺線材のIc(77K、0T)は以前の40Aレベルから最高で70Aを越えるもの(表1、図1)が得られるようになり、銀比を低減することで100A近い線材も得られるようになったとのことである。また、標準で高強度合金シースを用いることができるようになったことで、曲げなどの機械的特性に優れる低抵抗線材接続技術や、NbTiで一般的に用いられ極低温でも可撓性を有するポリビニルフォルマール(PVF)絶縁技術などこれからのマグネット応用等に有用となる技術も開発された。

 一方、同社の線材を使った各種マグネットや電流リードなどの応用製品プロトタイプはノートラブルで順調に運転を続けている。例えば、1997年9月に室温ボア50mmφに7Tの発生に成功した20K冷凍機冷却マグネットは、その後科学技術振興事業団埼玉研究室に納入され、合計約33カ月間ノートラブルで運転できており、電気化学などの分野の磁気科学実験で数々の新現象が見出されている。冷凍機冷却マグネットの技術はその後大口径化に進展があり、室温ボア200mmφを有するマグネットが高温超電導バルクの浮上実験用及び磁気分離実験用にそれぞれ超電導工学研究所、金属材料技術研究所に納入され、こちらもノートラブルで運転を続けている。また、同社の播磨研究所に設置されている小型放射光実験装置で実用化された高温超電導電流リードは、1993年12月以来約78カ月間ノートラブルで運転され、NbTi製マグネットの液体ヘリウム消費量の削減に大きく貢献している。さらに、前記PVF絶縁された線材は、世界最大規模の22kV/6.9kV、1MVA超電導変圧器(本誌Vol.9、No.3に掲載) に巻線され定格の5倍の過電流試験や50kV交流課電・100kVインパルス試験をクリアし、さらに高温超電導機器として国内初の系統連係試験に成功した。これらの実績により、開発当初心配されていたビスマス2223系高温超電導線材の信頼性は徐々に確立されつつあると言えよう。

 また、これまでの応用製品プロトタイプでは線材の使用量はせいぜい10kmであったが、次段階の実用規模の応用製品プロトタイプの開発には数十kmオーダーの線材が必要となる。住友電気工業(株)では長尺線材の量産技術開発も進められており、こちらの技術についても製造歩留りの向上などこの1年間で大きな進展があった。次段階のプロトタイプ試作計画としては、(株)東芝、住友電気工業(株)、信越半導体(株)が共同で通産省の省エネ補助金を受けて開発しているシリコン単結晶引上げ装置用高温超電導マグネット(本誌Vol.8、No.6に掲載、8インチ結晶引上げ装置に対応できる大きさ。)や、東京電力(株)と住友電気工業(株)で共同開発が進んでいる66kV/1kA、3相一括コンパクト型100m高温超電導ケーブルシステムがあり、前者で約80km、後者で約70km(各種予備実験のための事前試作用を含む)が必要とされる。これらの必要量に対しても量産技術の進展により先頃製造が完了した所である。

 ビスマス系線材の開発を推進している同社電力システム技術研究所超電導研究部の林和彦グループリーダーは、「長尺線材技術の進展により、実験室レベルでの応用開発の段階から一歩進んで、実機レベルの応用開発が可能な段階に入ってきた。今後はユーザーの方々とよく意見交換しながら、交流用の低損失線材など各応用に適した線材の開発に取り組み、ニーズに応えていきたい。」と述べている。

 さらに住友電気工業(株)では、これらの機器としての使用実績、線材の量産実績を踏まえ、ビスマス2223系高温超電導線材について要求があれば、性能・単長・価格等について個々に相談に応じていくとしている。

<編集部注>

 実質上、住友電工がわが国で初めて高温超伝導線材の市販を始めたと解釈できる。これまで、海外3社が市販を宣言したが、世界最高の品質を持つとされる住友電工の線材が市販に至ると、装置メーカーが開発計画を立てやすくなる。線材の値段は発注量にもよるが、20KでICが240A(77Kでは50A)レベル線材で、12円/Am(20Kベース)程度で販売できると同社中原恒雄特別顧問は発表の中で述べた。今後はユーザーがその使用目的を拘束されることなく、機器開発に乗り出せることを意味する。アメリカン・スーパーコンダクター社も製造能力10倍化計画を発表し、高温超伝導線材は今後価格競争時代に突入する情勢を迎えた。

(HTC)


表1 長尺銀合金被覆Bi2223線材の断面写真と諸元


表2 高Ic銀合金被覆Bi2223線材の諸元


図1 長尺銀合金被覆線材の全長Ic分布