SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 3, Jun. 2000.

9.高い捕捉磁場を有するGd系バルク超電導体を開発
−超電導工学研究所−


 超電導工学研究所第三研究部の成木紳也主任研究員らは、このほど、77 Kで2.0 Tの高い捕捉磁場を有するGd123系バルク超電導体の作製に成功した。

 123系溶融バルク体の捕捉磁場は、SmやNdなどの軽希土類元素を含む材料の開発によって、目ざましく向上し、最近ではY系の捕捉磁場をはるかに超える値に達している。このような強力な捕捉磁場の実現により、バルク体を擬似永久磁石として使用する応用分野も急速に拡大するものと期待されている。

 希土類元素としてGdを含むGd123系超電導材料については、従来から大型のバルク体が作製され、捕捉磁場が検討されてきたが、その値はY系と同等の値(直径32 mmのバルク体で約0.7 T)にとどまっていた。今回、超電導工学研のグループでは、仮焼温度を変化させることにより種々の粒径を有するGd211原料仮焼粉を作製し、これらを用いてGd211原料粉の粒径が、結晶成長後のGd系バルク体中の211相の形状にどのような影響を与えるのかを系統的に調べた。その結果、粒径の小さいGd211粉末を原料として用いる程、バルク体中の211相が微細化されることを見いだした。このような微細組織制御により、バルク体の臨界電流密度を著しく向上させることに成功し、高い捕捉磁場を有するバルク体の開発に結びつけた。現在、77Kにおける捕捉磁場は直径32 mmのバルク体で1.85 T、直径48 mmのバルク体では2.00 T(図1、バルク表面から1.2 mm上部をホール素子で走査することにより測定)に達しており、これらは、名古屋大学の水谷宇一郎教授らがSm系バルクで記録した77Kにおける世界最高の捕捉磁場(2.1T)と同程度の値である。

 開発者の成木紳也氏は「バルク体のJcは現状よりもさらに高くすることが可能となっており、大型バルクの作製により捕捉磁場の値をさらに向上できる可能性がある。Gd系超電導材料はNd系やSm系に比べるとTcがやや低いものの、微細組織が均一であり、大型化が比較的容易であるなどの優れた特徴があり、実用上有望な材料の一つになることを期待している。」と話している。

 また、村上雅人第三研究部長は「Sm系だけでなく、Gd系でも高い捕捉磁場が得られたことで、軽希土類123系材料の優位性が改めて確認できた。今後は他の系でも挑戦しながら、本格的なバルク磁石応用につなげたい。」という抱負を語っている。

(旧中山道)


図1 直径48mmのGd系バルク超電導体の捕捉磁場分布(77K)