SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 3, Jun. 2000.

7.欧州巨大加速器プロジェクトへの
超伝導線材納入一番乗り
_古河電工_


古河電工はこのほど、ヨーロッパ素粒子物理学研究の中核をなす欧州原子核研究機関(CERN:Europian Organization for Nuclear Research,所在地:スイス・ジュネーブ)が次期加速器プロジェクトとして推進している、大型ハドロン衝突加速器(LHC:Large Hadron Collider)に、同社のニオブチタン成形撚線の品質が世界で最初に認定され、納入を開始した、と発表した。

 このニオブチタン成形撚線は、LHCの主超伝導双極アウターケーブルに用いられるもので、直径0.825 mmの素線36本を撚線し、幅15.1 mm、平均厚さ1.48 mmの楔型断面形状に成形した平角撚線で、それぞれの素線は、直径6μのニオブチタフィラメント6,426本が螺旋状に無酸素銅に埋め込まれた構造となっている。今回納入したのは、品質認定用として製作した3.8 km、重量にして620 kgであり、既に量産を開始し、2002年12月までに、納入数量約600 km、重量にして約100 t規模の超伝導線材を納入することになっている。

 品質認定を受けた成形撚線の素線は、世界最高の電気的、機械的均質性を実現し、さらにこれら素線を集合し、成形するための高精度の寸法制御技術、独自の形状制御技術を開発して、今回の品質の認定と納入開始に至ったものである。品質認定までに受注後2年、正式契約後1.5年の長期間を要したが、世界に先駆けて納入開始となったことは、同社の技術開発力と生産技術水準の高さを示すものである。

 この線材が用いられるLHCは、周長27 kmの円形加速器で、陽子を反対方向に7兆電子ボルトまで加速して互いに衝突させるものであり、2005年7月に完成の予定である。これにより、素粒子の標準理論の検証を行うことになっている。このLHCの最大の特徴は、最新の超伝導技術を全面的に採用した設計にあり、数千台の超伝導磁石が用いられ、欧州のみならず、日本、米国、カナダ、ロシアなども計画に参加が決まっており、素粒子物理の全世界プロジェクトとなっている。

 日本では文部省が中心となり、CERN非加盟国の中でいち早くLHC計画への協力を表明し、建設協力資金を拠出している。CERNはこの資金協力を根拠として、主電磁石用ニオブチタン超伝導線材の一部を日本メーカーに発注することを決定し、技術力、価格競争力、生産能力が高く評価された古河電工が1998年2月に受注したもの。

 古河電工での加速器用超伝導線材の取り組みは20年以上の歴史を有し、Tevatron(米国フェルミ研究所)、HERA(ドイツDESY 研究所)、TRISTAN(日本 旧高エネルギー物理学研究所)、 RHIC(米国ブルックヘブン研究所)、 SSC (米国SSC研究所)、など、国際的なプロジェクトに参加する中で技術力を培ってきた。さらに SSC計画の中止後は、高エネルギー加速器研究機構のB−ファクトリー用超伝導線材や、ニューサンシャイン計画の一環である超伝導発電機用導体の開発に参加して技術開発を継続してきたことが、世界最高水準の性能が要求される LHC用超伝導線材を世界に先駆けて納入することに結びついたと説明されている。

 今回の成果について、古河電気工業(株)研究開発本部超電導開発部の目黒信一郎部長は、「今回の成果は、当社の超伝導線材の開発及び製造技術が世界でもトップレベルにあることを示したものであり、これまでの国内外プロジェクト関係者のご指導の賜物であり、かつ社内諸先輩の努力の結晶といえる。最近の超伝導応用は、つとに高温超伝導体に大きな期待が寄せられているが、金属系超伝導線を利用する低温超伝導応用も着実に進歩している。当社としては、今後とも、高温、低温両者にバランスのとれた研究開発に取り組んでいきたい」と述べている。

(TNT)