SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 3, Jun. 2000.

6.高温バルク超電導体を用いた回転機
最近の成果と将来への展望
_露・独の研究チーム_


 ロシアのMoscow State Aviation Institute(MAI)のL. K. Kovalevらは、ドイツのInstitut fur Physikalische Hochtechnologie( IPHT )やOswald Elektromotoren GmbHと共同でバルク超電導体を回転子に用いた回転機について様々な構成を提案し、実験と有限要素法解析の両面から検討を進めている。昨年の9月にスペインで行われた欧州超電導会議(EUCAS)で発表された彼らの最新の動向についての論文が今年5月に論文として出されたため、ここに紹介する。

 バルク超電導体の磁気ヒステリシス現象を利用したヒステリシスモータ( 図(a))については、現在までに従来機と比較しても5〜7倍の特性向上が得られているが、高速度・高出力化を目指して4kW級のモータの試験がIPHTにおいて行われた。サイズはステータ長×ロータ直径(以下、同じ)が70 mm×φ40 mmである。同期回転数は12000 rpm ( 電源周波数200 Hz )と24000 rpm( 同400 Hz )の2種類で、固定子電流を120 A程度まで流して液体窒素中で試験し、高速回転時においても3〜7倍の特性向上が得られている。

 リラクタンスモータ(図(b))に関しては0.5 kW〜20 kW級のモータ(サイズ164 mm×φ62 mm)の試験をしており、10 kW級のモータに関しては実験と解析の両面から検討を行っている。今までに力率0.7〜0.8で従来機の3〜6倍の特性向上が得られている。

 回転子のバルク超電導体に磁束をトラップさせるモータ( 図(c)、サイズ62 mm×φ80 mm)は実験的にはまだ十分な出力が得られていないものの、解析によるとトラップ磁束が0.5 T〜0.75 Tの範囲では力率0.9〜0.95を達成できるという結果が得られており、バルク超電導体の製造プロセス向上が急速に進んでいるためこれからが期待されるモータであるとしている。

 回転子にバルク超電導体と永久磁石を混合させたモータ( 図(d) 、サイズ62 mm×φ80 mm)は、従来の構成より力率の改善が期待できるとしている。解析の結果図(c)のモータと同じ0.9〜0.95程度の高力率が得られるという結果が出ており、実験においても超電導体を用いたリラクタンスモータに比べて1.5〜2倍の出力増加が得られているため研究が進めば更なる特性向上が期待できるとしている。

 現段階においても、従来機と比べて十分な性能が得られており、バルク超電導体の製造プロセス向上に伴い今後ますます性能向上が期待できるとしている。現在までに出力10〜20 kW、高効率(0.95〜0.98)、高力率(0.7〜0.8)を達成しており、今後は250 kW級リラクタンスモータを0.8以上の高力率で運転する試験を行なったり、図(c)、(d)のモータの理論的実験的考察をさらに進めていくとのことである。

 この研究に対して東京大学の大崎博之助教授は以下のようにコメントしている。

「ロシアとドイツの研究チームは10年近くバルク超電導モータの研究をしており、いろいろな方式の検討や実験、解析を行っていて注目をしている。バルク超電導体と永久磁石の組み合わせも興味深く、特性を詳細に知りたいところである。応用を考えると、冷却や軸受、電機子巻線設計などの課題もあり、どのような応用をターゲットとしているか明確にした上で評価する必要があろう。」

(電気蟻)


図 バルク超電導体を回転子に用いたモータの構成