このほど組み立て試験を行っている超伝導ウィグラーは、クライオスタット内に液体ヘリウム漬けとなっており、4.2 Kに保たれている。その外側は、断熱のため真空に保たれ、2枚の銅の熱遮蔽板で囲まれている。また、超伝導電磁石は、3つのポールで構成され、中央ポール部はさらに3つのコイル(最内部コイルがニオブ3スズ、残りはニオブチタン)が巻かれている。そして、中央部で10テスラ、外側1.9テスラとなるように設計されている。
一般に超伝導ウィグラーは、電子(または陽電子)蓄積リングの直線部に挿入する強力磁石であり、強い磁場で電子ビームの軌道を曲げることによって高エネルギーX線を発生させる装置である。 超伝導磁石の線材には、これまでは主にニオブチタンが用いられていたが、これでは8テスラを超える磁場を実現することは不可能とされていた。今回の10.3テスラを達成した要因は、中心コイルの線材にニオブチタンとニオブ3スズを用いたことで、臨界磁場を大きくしたことが大きいという。しかも、ニオブ3スズは、ニオブチタンに比べ脆いだけに、線材として安定に製作する技術を確立できたことが成果につながったとしている。
このような強磁場の超伝導ウィグラーは、電子蓄積リングに設置すると、高エネルギーのX線が得られる。特に、『Spring-8』のような高エネルギーの電子蓄積リングに設置すれば、MeV領域のX線が得られるだけに光源としての能力がさらに高まる。
前理研・現高輝度光科学研究センター・原雅弘主席研究員は「このように高いエネルギーのX線は、いろいろな分野においてきわめて利用価値が高い。重金属に照射すると対生成反応により低エネルギー高強度陽電子源が得られ、陽電子顕微鏡の開発をはじめ、ベリリウム9に照射して光核反応によって放射能のないきれいな中性子源を実現することができる。、特に高輝度陽電子源の実現が夢ではなくなる」とコメントしている。
(SPりんぐ8)
図2 10テスラ超伝導ウィグラーの軸上磁場分布