SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 3, Jun. 2000.

3.Nb3Alコイル試験に成功
_金材研・日立製作所・日立電線_


 金属材料技術研究所強磁場ステーションTMLのグループ(竹内孝夫、伴野信哉、木吉司、松本真治、和田仁の各氏)は、(株)日立製作所(相原勝蔵、和田山芳英、岡田道哉の各氏)日立電線(株)(田川浩平、中川和彦両氏)と共同で、RHQT法Nb3Al超伝導線材を用いて超強磁場を発生するコイルを開発し、強磁場ステーションに設置された大型超伝導マグネットに組み込むことにより、金属系超伝導コイルの発生磁場を従来の21.7 T(Nb3Snコイル)から22.5 Tへ更新し、RHQT法Nb3Al線材の優れた強磁場特性を実証したと発表した。

 Nb/Al複合多芯線を急熱急冷してbcc相のNbにAlが25at%も過飽和に固溶させ、これを800℃で2次熱処理を行ってA15型Nb3Al化合物に変態させる製法がRHQT(rapid heating, quenching and transformation)法だ。変態して生成するNb3Alの組成はほぼ化学量論比で、また、磁束線のピン止め中心として作用する結晶粒界の大きさが数十ナノメートルと極めて小さいことから、20 T以上の強磁場領域を含む全磁場領域でNb3Snに比べてJcが高くなるのがRHQT法Nb3Al線材の特徴だ(図1(a))。強い磁場を発生させるためには臨界電流密度が大きいことだけでなく、強大になる電磁力によってその値が劣化しないことが求められており、Nb3Alの特徴である優れた耐歪み特性は、このRHQT法Nb3Al線材にも引き継がれている(図1(b))。既報(SUPER COM Vol.8 No4, 1999.8)されているように、実用化の最大の難関であった安定化材の複合化についても、過飽和固溶体が室温で良好な成形加工性を有することを利用して、RHQ処理後にCuをクラッド加工で複合する技術が確立されている。したがって、このCu安定化・RHQT法Nb3Al線材は、従来の金属系超伝導体であるNb3Snでは到達し得ない強磁場が発生できると期待されていた。

 コイルの作製はワインド・アンド・リアクト法により行われた。すなわち、アルミナ繊維で絶縁被覆した長さが29.6 mのCu安定化・過飽和固溶体多芯線材を311ターン(12層)巻き、真空中で800 ℃×10 hrの変態熱処理を施し、その後でワックスを含浸して巻線内径が19.7mm、巻線外径が40.8 mm、巻線軸長が49.7 mmのコイルを作製した(図2)。このコイルを大型超伝導マグネットのバックアップ磁場21.2T(1.8K)の中で、179Aまで通電し、1.3 T(中心磁場22.5 T)を発生した。この合計22.5 Tの中心発生磁場は、これまでの金属系超伝導コイルによる中心発生磁場の上限で金材技研が1997年に記録した21.7Tを更新した。TMLのNb3Alの開発責任者である竹内孝夫氏ユニットリーダは、「RHQT法Nb3Al線材は,強大な電磁力が加わる次世代・核融合炉,加速器システムや永久電流モードで強磁場を必要とするNMRシステムへ応用が期待されている。今回、短尺試料の臨界電流値に達するまでコイルに通電・励磁できたことから、Cu安定化・RHQT法Nb3Al線材とそのコイル化技術の両方の健全性が確認された。今後の計画として、線材長が900m程度の実機サイズコイルを試作したい。」と語っている。

(善良な変態男)


図1 RHQT法Nb3Al線材のJcの(a)磁場依存性と(b)耐歪み特性


図2 使用した銅安定化材付きRHQT法Nb3Al線材の断面写真と、
これを巻いて作製したコイルの外観写真