SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 3, Jun. 2000.

2.世界最大規模の実系統連携酸化物超電導変圧器を開発
_九大など共同研究グループ_


 福岡県産業・科学技術振興財団(ふくおかIST)では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受け、平成10年度ベンチャー企業育成型地域コンソーシアム研究開発事業「高温酸化物超電導システムの開発」(研究代表者:九州大学超伝導科学研究センター 船木和夫教授)を実施している。この事業では、都市部地下変電所に多数設置されている配電用変圧器(20-40MVA,一次電圧66kV)を超伝導化することを当面の目標に、酸化物超電導変圧器の大電流・高電圧化技術や実用器モデルを開発している。ほぼ1年間の開発研究期間で、酸化物超電導線材を用いた大電流導体・巻線の構成技術、液体窒素を利用した冷却・電気絶縁技術、変圧器巻線用低温容器技術等の要素技術の確立や超電導変圧器の電力系統投入時の諸検討を経て、短絡電流や雷サージに耐える世界最大容量の酸化物超電導変圧器の開発に成功している。

 九州大学の研究グループは、従来から実験室レベルでの試験設備の開発研究(過冷却窒素冷却800kVA酸化物超電導変圧器の開発、本誌Vol.8, No.4,p.6に掲載)や都市部地下変電所用酸化物超電導変圧器の概略設計研究(Supercond.Sci.Technol. Vol.13, 2000, p.60-67)を実施しており、これらの成果に基づいて、この事業における開発装置の設計手法と必要な技術開発計画が立案されている。この事業で開発した高電圧型試験器の性能(中央欄)を上記の実験室レベルでの実証器の性能(左欄)や概略設計器の目標性能(右欄)と比較して表1に示す。実験室レベルでの実証器の開発では, Bi-2223テープの並列転位導体による超電導巻線の大容量化と過冷却液体窒素による超電導設備の冷却と高電圧化を主な研究課題とし,高効率の定格運転を実現している。これに対して,配電用変圧器の目標性能を実現するには,定格電圧10倍,定格電流4倍の大容量化と電力系統での接続・事故対策(励磁突流・突発短絡対策,雷インパルス電気絶縁対策)などの電力機器としてのハードルを越える必要がある。今回の事業では、実験室レベルでの実証器から配電系統での実用器への橋渡しのために、従来の超電導設備では到達していない高電圧化(定格22kV)と系統連系技術開発(定格の5倍過電流対策、100kV雷インパルス対策)を実現している。

 研究グループは、変圧器本体開発グループ(九州大学超伝導科学研究センター、富士電機、九州変圧器)、冷却・断熱容器開発グループ(九州大学伊藤研究室、福岡機器製作所、日本タングステン)、電力系統連系技術開発グループ(九州大学原研究室、富士電機、九州電機製造)で構成されており、それぞれの要素技術開発と開発器の設計・製作を行っている。開発したBi-2223多芯テープを巻線に用いた液体窒素冷却方式の単相超電導変圧器の容量は1000kVA であり、工場試験で設計通りの動作が確認されている。試作器の外観を図1に示す。変圧器の定格は一次/二次電圧が22kV/6.9kV、一次/二次電流が45.5A/145A、インピーダンス電圧(%IZ)が5%である。液体窒素冷凍機の冷却効率を1/10とすると、変圧器の効率は99.4%であり、従来の同容量の変圧器と比べて0.5%程度向上している。変圧器寸法は、高さ2.6m、幅1.5m、奥行き1.1m、重量5.1トンである。

表1左欄の実証器は定格運転性能のみが開発対象であったが、今回の試作器では変圧器の標準規格(JEC)で規定されている耐電圧性能や短絡電流等の耐過電流性能も考慮されている。具体的には、予め電気絶縁試験、短絡電流試験用の模擬コイルを製作して模擬試験を行い、150kV雷インパルス耐電圧性能、50kV短時間交流耐電圧性能、定格の5倍の耐過電流性能を実現している。さらに、試作器の工場試験でも、従来の油入変圧器と同等の100kV雷インパルス耐電圧試験と50kV短時間交流耐電圧試験を実施して良好な性能を確認している。

 船木教授は、「試作した単層変圧器は、都市部地下変電所や工場・高層ビル等の大口需要家の受電設備に設置される22kV/6.9kV-3000kVA三相変圧器の一相分と想定できる。この変圧器容量は77Kの液体窒素冷却での実績であるので、66Kの過冷却液体窒素冷却にすることにより22kV/6.9kV-5000kVAの三相器実現までの基盤が整った。」としている。九州電力の支援を得て、冷凍機冷却によるクローズドサイクル型液体窒素循環供給設備を組み込み、6月中に国内初の実系統連系試験が実施される予定である。

(バイオ)


図1 22kV/6.9kV-1000kVA液体窒素冷却酸化物超電導変圧器の外観


表1 酸化物超電導変圧器の諸元比較表