SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 3, Jun. 2000.

11.超電導高周波インターフェイス技術で
40ギガヘルツのRSFQ動作を実証
_日立製作所_


 (株)日立製作所は「超電導インターフェイス技術」を開発し、超高速で動作する磁束量子回路からの40〜50 GHzの高周波信号を直接室温に取出すことに成功した。

 日立は平成9年度より発足した、科学技術庁の科学技術振興調整費総合研究「単一磁束量子を担体とする極限情報処理機能の研究」に参加し、磁束量子回路の高速性能を追求し、実証することを第T期の課題として、研究開発を実施してきた。プロジェクトへの参加研究機関は日立を含めて、NEC、SRL、電総研、富士通、名古屋大、東大、日本女子大の8研究機関および大学である。回路にはNb系チップが用いられたが、チップはNECによってNb系標準プロセスを用いて作製された。

 磁束量子回路は信号レベルが0.1 mVと微弱であること、および極低温に冷却された治具の中に組込まれているために、超高速信号を処理できるにもかかわらず、その高周波信号を外部に取出し、室温で利用することが困難であった。今回日立の作製した磁束量子回路はリング発振器と分周回路およびインターフェイス回路から構成された。リング発振器で発生した42 GHzの高周波を分周回路で周波数を1/32に分周し、インターフェイス回路で電圧増幅することによって高周波信号を取出すことができた(図1、2)。

 磁束量子回路のキーポイントとなるインターフェイス回路はスクイドを直列に接続して、一斉にスイッチさせることによって、高周波の電圧増幅を実現した。同時に各スクイドに信号を入力させるために、超電導回路からの信号をレベルを落とすことなく分岐する操作を繰返し、スクイドの個数分の信号を同じタイミングで発生させる回路を組込んだ。入力信号は磁束量子信号であるから、ピコ秒のパルスとして回路を伝わる。外部から高周波のバイアス電源は一切用いていない。スクイドの段数は16段にして、0.1mVの信号を2mVまで増幅して出力した。分周回路を介しているために、実際に取出した信号の周波数はGHzであるが、計算機シミュレーションの結果によると、10GHzをはるかに越える高周波でも、インターフェイス回路は周波数特性を損なうことなく増幅できるとのことである。

 今回の研究開発を担当した日立製作所基礎研究所の樽谷良信氏等によれば、磁束量子回路が数十GHz〜百GHzの高周波信号を発生し、超高速データ処理能力を持っていることを、インターフェイス回路からの出力信号の周波数特性を測定することによって直接実証することができたとのことである。また、高周波発振にともなって超電導線路で検出される直流電圧成分、すなわち磁束量子の連続的な通過によって発生する電圧をリング発振器の出口で読み取った値Vと、スペクトルアナライザの測定から計測された発振周波数fの間で、V=h/2e・f(hはプランク定数、eは素電荷)の関係が成立つことを確認したことになる。さらに、今回の結果は超高速処理の可能な磁束量子デバイスの実用化につながると予想される。現在開発を進めている高速で高精度のA/D変換装置等の開発を促進するとともに、超高周波の半導体デバイス試験等、超電導インターフェイス技術によって様々な応用が進展すると期待している。

(St.Fut.HTS)


図1 超電導高周波インターフェイス回路
中心周波数 : 1 GHz、フルスケール : 1 GHz


図2 超電導高周波インターフェイス回路の
出力信号の周波数スペクトル