SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 2, April. 2000.

8.fMRIとMEGによる脳機能計測
_通信総合研究所_


 郵政省通信総合研究所の関西支所(神戸)では、機能的磁気共鳴画像装置(fMRI、図1)と脳磁波計測装置(MEG、図2)を使って、脳機能を計測する研究を行なっている。ヒトが得意な認識などの高次機能を解明することにより、人にやさしいインターフェースの開発や情報処理の新原理発見に役立つことを期待している。

 fMRIはSiemens社製のシステムであり、脳活動部位での血流量の増加にともない、酸化ヘモグロビン(反磁性)と脱酸化ヘモグロビン(常磁性)の量の変化により生じる水素原子核の横緩和時間の変化から脳活動を捉える。超伝導マグネットで1.5テスラの磁場を作り、高速撮像法(Echo Planar Imaging)により、数mm程度の分解能で、頭部全体をカバーする30枚程度のスライス画像を4〜5秒で撮像する。画像はAVS, MEDx, SPMといったソフトウエアにより解析する。MEGはBTi社(現、4-D NeuroImaging社)製の148チャネル全頭型システムであり、脳内の神経細胞の電流(錐体細胞の樹状突起内を流れるイオン電流)が作る微小な脳磁場をSQUIDにより計測する。ms程度の時間分解能と2Hz以上で10fT/√Hz以下の磁場感度を持つ。両装置は、同じ建物内に約20m離れて設置されている。

 両方の装置とも磁気を嫌うため、視覚刺激などは遠方で発生した画像をレンズやミラーを使って被験者のそばに投影するなど、磁性体や電子回路を装置のそばに近付けないための様々な工夫がこらされている。2年前に建てられた、同所脳機能研究棟では、装置周辺の建築材料の殆どを非磁性化した造りになっている。また微小な機械的振動も嫌うMEG用に、竹中工務店製のアクティブ除振装置を床に設置し、地面や建物の基礎から伝わる数Hzから数10 Hzの振動を一桁減らしている。この装置では、センサや被験者が入る数m角の磁気シールドルームを載せた約40トンのコンクリート常盤全体をエア・アクチュエータで浮かせ、常盤上の加速度計の出力を零にするようにエア・アクチュエータにフィードバックをかけている。

 地磁気の3万倍の強磁場を使用するfMRIと地磁気の1億分の1レベルの微弱磁場を計測するMEGとで磁場の強さが大きく異なるため、計測される被験者にも注意が必要で、例えば女性被験者の場合、fMRIの強磁場に入ると化粧が磁化され(茶のアイシャドーでは数100pT程度)、その後MEG計測を行なうと磁気雑音となるため、実験前に化粧をおとす必要がある。また服にわずかな磁性体が含まれる可能性もあるため、被験者は紙の服に着替える場合もある。測定中は、頭部の動き、まばたきや眼球の動きなど、測定誤差や雑音の原因となる要素をできるかぎり減らし、なおかつ単純な刺激をくり返す実験の場合には被験者が眠らないようにするなど、疲労状態に注意しながらの実験となる。なお実験内容は倫理委員会での許可が得られており、被験者からは実験前に同意書(Informed Consent)を得るなどの配慮がなされている。

 fMRIは空間分解能にすぐれ、MEGは時間分解能にすぐれており、両装置を使用することにより、脳活動についての詳細なデータを得ることが期待される。同所、知覚機構研究室の脳機能研究グループでは、これまでにも視覚的注意、言語、視覚探査、運動学習など様々な処理を行なう際の脳活動を明らかにしてきた。例えば言語では、カナ文字やこれを変形して読めなくした疑似文字など(図3)を使って処理を段階的に含む課題を実験し、刺激呈示後0.2秒までに後頭・側頭部で形態処理が、0.2から0.5秒で側頭・頭頂・前頭部などにおいて音韻ないし意味処理が行なわれるとの結果を得た。また同研究棟には大阪大学柳田敏雄教授の研究プロジェクトのメンバーも常駐し、これらの装置を使用した研究の他、近赤外光による脳機能計測の研究も行なっている。

 同研究室の宮内哲室長は、「装置の立ち上げや2年前の小金井から神戸への移動などいろいろありましたが、研究者数も増え、研究が軌道にのってきています。fMRIとMEGを脳機能解明の基礎研究に常時使用できる利点を生かして、これからも様々な実験課題を試みたい。」と語る。また、10年前に超伝導デバイスから脳の研究に移った藤巻則夫主任研究官は、「2つとも超伝導応用技術の成果です。今はこれらを使い、言語に関わる脳活動計測を行なっています。fMRI の結果を利用したMEG逆問題(註:磁場分布から脳内電流源を計算する問題、一般には唯一の解がない)なども検討しています。」と語っている。

(スーパー脳計測)


図1


図2

図3