SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 2, April. 2000.

7.TFAプロセスによるY系テープ線材で2MA/cm2を達成
_ASC社_


 米国では、線材各社が次世代線材の量産的製造プロセス開発を進めていることが報じられていたが、(本誌Vol.8, No.6 Hawsey報告)、この度American Superconductor社(ASC)はRABiTS型Ni基板上にASC社のTFA溶液法プロセスで作製した短尺YBCO厚膜導体において、2MA/cm2の臨界電流密度Jcを達成したことを明らかにした。ASC社は、Y系厚膜テープ作製のため、非真空・溶液法プロセスを開発中であり、昨秋には短尺試料でJc=0.5MA/cm2を達成していたが、今回の発表は他のRABiTS法あるいはIBAD法により達成されている高Jc水準に匹敵するもの。

 TFA(三弗化アセテート)法というのは、有機金属前駆体(MOD)を用いる液相積層の一手法であり、写真印刷業その他の工業で普及している低コストの謄写印刷術と同様の手法を援用している。この手法は、1988年初めてIBMで試みられ、そして1995年MITで実施され、単結晶酸化物基板上で最初の高性能薄膜が実証された。MITの研究者が単結晶 LaAlO3基板上に成膜した1mm厚の厚膜においてJc=1 MA/cm2の達成を報告した後、当技術はASC社へ移管された。ASC社の研究者は、SrTiO3基板を用いてもっと厚いフィルム(1MA/cm2/2mm,2.2 MA/cm2/0.8mm)の作製に成功していた。(このフィルムの膜厚は、厚膜導体の作製にとって決定的因子である)。「真空蒸着フィルムに匹敵する性能を有するYBCO厚膜を、低コストの溶液法プロセスで成膜できることを実証した事は、当プロセスを高電流線材応用に適用する上での大きな一里塚であった」とASC社は語っている。

 ASC社は、配向Ni基板上に電子ビームとマグネトロン・スパッターにより、CeO2/YSZ/CeO2バッファーを次々に蒸着する方法を採用した。ASC社の研究者は「オークリッジ国立研究所(ORNL)とASC社の両方で、基板とバッファー層を作製し、種膜層及び最終バッファー層形成段階で異なる2設備間の移送が問題にならなかったことは、当プロセスの強靭性と再現性を実証している」とコメントしている。

 ORNLは、低コスト・非真空方式の中間層形成法の試みとして、アルカリ酸化性ゾル・ゲル法によりRE2O3のエピタキシャル層形成を行い、種膜層形成用の溶液法プロセスを開発・実証した。この方法はASC社へ移管され、Ni基板へダイスを通して塗布する連続方式に発展し、よく配向した30 nm厚のGd2O3種膜層を産み出し、2つのCeO2ダイス層の一層を置換できる。これら基板の長さは、1 m以上である。これらの結果は、将来厚膜導体の全製造工程を真空槽の外へ取り出す技術的可能性を示唆するものと考えられる(他の中間層の形成も当方法で可能であるならば)。ASC社はまた、当初ORNLで開発されたRABiTS法についても、実験を試み、加工・焼鈍プロセスにより高配向Ni基板(FWHM約8゜、X線(200)成分99.5%)を作製した。これらの基板とORNL基板は交互置換的に使用され、等価の実験結果が得られた。

 EUCAS'99(1999年9月、バルセロナ)において、ASC社のA. Malozemoff主席技術担当役員は、YBCO厚膜導体のコスト/性能目標に関して「YBCO厚膜導体は10ドル/kAmを達成しなければならない。厚膜導体技術に関するこの目標の重要性は、往々にして理解されていない。YBCOの77Kにおける高い磁界性能に焦点を合わせ、BSCCOが達成できない、液体窒素で稼動するYBCOマグネットの約束された有利性を言及しがちである。しかしながら、大多数の商用的応用に対して、特に電力応用に対しては、冷媒の補充を要しない閉サイクル冷却システムが必須である。そのようなシステムは、4Kまでの温度を得るために商用的に使用されている2段式冷凍機によって実現可能である。低温超伝導体を用いて、冷媒不要のシステムも実現できる。また、簡便かつ高信頼の1段式冷凍機は、10Wの負荷で20Kまでの冷却に使用できる。Bi-2223線材は、約30K以下では、良好な磁界性能を有しているので、冷凍機冷却の高磁界マグネットは、今まで製作されてきて、約20Kで運転されている。それゆえ、高磁界マグネットとコイル応用に対して、77Kの性能を達成する技術的動因は、それだけでは非常に大きいものではない」と述べた。

 さらに続けて、.Malozemoff氏は「HTS応用の潜在的可能性の広がりにとって、大きな差異をなすのは線材コストである。Bi系銀シース線材は、最終的には10ドル/kAmに近いコスト/性能比を達成するかもしれないが、(ここでコストは直接材料費+直接労務費を意味する)、販売価格はその2倍以上であろう。そのような価格はいくつかの応用に対しては適当であるが、銅線代替の最も広い応用に対してインパクトを与える程には安くない。従来の薄膜真空蒸着プロセスにより、成膜されたYBCO導体も同じく、10ドル/kAm目標を達成するのは困難であろう」と語った。.Malozemoff氏はYBCOと中間層成膜コストを低減化することにより、この技術が10ドル/kAmの価格/性能目標を達成すると信じている。

(こゆるぎ)