SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 2, April. 2000.

6.YBCO超電導厚膜の平行付近の磁界中での
ヒステリシス磁化の起源を解明
_電子技術総合研究所_


 電子技術総合研究所の山崎裕文主任研究官、A.Rastogi博士(NEDOフェロー)らは、YBCO厚膜の磁化を磁界と膜面のなす角度θの関数として測定し、平行付近の磁界中でのヒステリシスの起源を解明した。

 最近の進展が著しいYBCO膜テープ線材の交流損失の評価のための基礎研究として、パルスレーザー蒸着法で単結晶基板上に作製したYBCO厚膜(膜厚〜1mm)のヒステリシス磁化を平行付近の磁界中において、角度θを1度ずつ変えながら測定した(図1の実線)。膜状試料ではアスペクト比(幅w /膜厚t)が大きく、形状効果によって垂直磁界中の磁化は平行磁界中の磁化の1,000倍程にも大きくなるため、H‖film(θ=0 °)付近で非常に大きな角度依存性が観測された。磁化曲線の囲む面積に対応するヒステリシス損失は、平行から3〜5度ずれると3〜10倍になる。この実験は低磁界応用(B=0.1-0.2 T膜面に平行)である超電導送電ケーブル(コンパクトケーブル)における状況に近く、磁界中の交流損失を低減するためには、テープ線材にかかる磁界の垂直成分を減少させる必要があることがわかる。

 次に、印加磁界をc軸に平行な方向の成分と、ab面に平行な方向の成分とに分解し、ab面方向の磁化Mabと膜の幅広面における電流ループに起因する磁化(c軸方向の磁化)Mcとを合成して、次式によって磁化の角度依存性M(θ)を説明することを試みた。

   M(θ)=Mab cosθ+Mc sinθ (1)

 膜状試料の大きな形状異方性によって、θが数度より大きくなると、McはMabよりも100倍以上も大きくなることから、(1)式よりMc sinθ>> Mab cosθとなってMab はM(θ)に寄与しなくなることが予想される。M(θ)= Mc sinθという関係は、これまでに薄膜でよく観察されており、Zhukovらは、臨界状態においては、θ  平行付近の磁界まで(1)式の解析が成り立つかどうかについて、実験によって調べた。印加磁界Hが膜面と角度θをなしているとき、c軸方向の磁界成分はHsinθであるので、実際にc軸方向の磁界中で±Hsinθの磁界まで磁化を測定してMcを得、また、平行磁界中の測定からMabを得た。図1に示すように、θ=1~5°においてMc sinθの値(破線)はMab cosθ? Mabを加えることを考慮すると、実測値M(θ)をよく再現し、磁化の角度依存性が(1)式で説明できることがわかった。図1の挿入図からθ=1°では、磁化曲線の傾きは可逆的なMc sinθに起因し、ヒステリシスがMabに起因することが明確になった。

 図1ではMcを推定するのに、c軸方向の磁界中で測定した磁化を用いているが、傾いた磁界中でθが大きくないときにMcと等しくなる、磁界と垂直な方向の磁化(transverse magnetization Mtrans)も測定した。

 この場合にも、図1と同様の結果が得られ、(1)式の線形磁界成分解析が成り立つことが確認された。さらにSEM観察で結晶粒界が観測される、表面がやや粗い膜については、M(θ)やMtransがc軸方向の磁界中で測定した磁化で推定したMcよりも小さくなった。これはab方向の磁界によって粒界弱結合が誘起されているためと結論され、磁化の角度依存性の測定から粒界弱結合に関する情報が得られた。

(1) Zhukov et al., Phys. Rev. B 49, 2809(1997).

(梅園)