SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 2, April. 2000.

11.ある応用超電導研究者のぼやき
Bi系線材開発はここまで進んだけど......


 今、わたくしのところにオーストラリアのEducation and Innovation CenterというところからBiテープを使ったDマグ(クライオクーラー伝導冷却方式超電導マグネット 線材じゃあるまいし。長い名前のほうがいいってことはないのに)を作ってみないか。線材は提供するという提案が来ています。ASCその他にも線材として売るぞという話がでています。Bi系線材はここまで進んだことになります。わたくしの発言としては「ここまで進んだことを認めます」といわなくちゃ北沢先生が許してくれないでしょうが。

 ここまで13年かかりました。そして今何が起きているでしょうか。辛抱しきれなくなった応用超電導サイドの体制の崩壊です。高温超電導線材ばかりではなく応用超電導全体が危機に面しています。これまで応用超電導技術開発陣を抱え込んできた企業が、それを抱えきれなくなって独自の開発部隊を解体しています。その解体作業はほぼ終わったように思います。

 どんなことにもプラスのサイドというものがあるもので、このことは超電導材料の完成を意味していると取ることもできます。線材にしたって機器にしたって企業の中にもはや試作開発部隊はいらないのです。どんな応用超電導の仕事でも設計技術と製造技術で対応できるという考え方です。じっさいリニアモーターカーだってLHDだってMRIだって技術開発あるいは研究テーマの在処は、超電導を意識すること無しに磁界あるいは装置の機能そのものに関する研究あるいは試験のフェースに入っています。標準の筒型の超電導マグネット開発の段階にあるインドの会議で「いまはもう超電導マグネットの作る高磁界をいかに研究や開発に利用するかを考える段階にあって、もはやいかに超電導マグネットをつくるか、あるいは高磁界を発生するかを考える段階ではない」とブッテきて、いま、自己嫌悪にさいなまれているところです。

 しかし、考えてみるとわれわれだって妙なところに足場を置いていると思います。高温超電導どころか超電導(といっても応用超電導ですが)の駆動力がない状態です。超電導フィーバーの惰性はそんなに長続きしないでしょう。超電導はこんなに役に立っている、ということは言えるんですが、超電導が役に立っている側の技術は世間さまでどんな役割を果たしているのでしょう。小渕首相のご容体を判断するのにエムアールエ(ア)イを使ったけど、という官房長官発表がありました。今はもうMRIといったら超電導(半分は永久磁石なんですが)と考えてもいいでしょう。こんな特殊な例をのぞけば、超電導は超電導ナントカには役に立っているのですが、その超電導ナントカは世の中には役に立っていない、つまり実用になっていないのです。それらの実用化研究は13年どころではなく20年も30年もかかっています。そして応用超電導技術としては高度に完成しているのに、リニアモーターカーは「浮き上がらない」のだそうです。

 ということで今は高温、低温の問題ではないのです。もっと高温超電導線材が成長していざお目見えダンスパーティとなったときダンスホールがなくなっているかもしれません。 蝸牛角上になにおか争う、です。材料や線材では話になりません。予算がつくような応用超電導技術の提案こそ今、必要なものなんです。問題をはぐらかしたわけではありませんが……。

(138号線)