SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 2, April.2000.

1.粒界弱結合のドーピング強化で新事実
_独アウグスブルグ大_


 高温超伝導線材作成のうえで最大の問題点は多結晶粒界で発生する弱結合である。これは粒界付近で超伝導が弱まり、粒子内で臨界電流が大きくても、粒界の存在がネックとなってしまうことである。

 実用高温超伝導線材を製造するに当たっては、弱結合をいかにして避けるかという問題が拘束条件を与えている。現在までは、粒界そのものを除いてしまう。あるいは、粒子を配向させて、小さな傾角の粒界のみにしてしまうという方法がとられており、粒界そのものを化学的に強化するという方法は取られてこなかった。もし、これが可能になれば、線材製造の困難が非常に緩和される。現在、開発が進められているYBCOテープ線材における製造法にも影響を与えそうである。

 原理的で、実用にそのまま適用できるということではないが、同じ傾角を有する粒界でもドーピングによって臨界電流が顕著に向上することが独 University of Augsburg, Institute of Physics のJochen Mannhart 教授らによって原理的に示された。すなわち、臨界温度を下げずに、粒界部分のみのキャリア濃度を高めることにより臨界電流の向上を認めたもので、今後の、粒界に対する考え方に一石を投じるものと思われる。

 研究のあらましは以下のようである。通常はキャリア濃度を過剰にすると臨界温度が降下してしまう。彼らはそこで粒界のみにキャリアをドープすることを企図した。粒子内へのドープを避けるために、粒界部での原子の拡散速度が大きいことを利用することで、粒界部のみにドーパント拡散を行ったものである。

 具体的には臨界温度の高いYBCOバイクリスタル薄膜24度[001]傾角粒界をPLD法(パルスト・レーザー・デポジション)でSrTiO3基板上に作成し(ヒーター温度760℃)、その上に臨界温度は低いがCaをドープしたキャリア濃度の高いY0.7Ca0.3Ba2Cu3Oy薄膜を重ねて堆積させる。こうすることで、下地の薄膜の粒界にCaが拡散し、粒界部でのみキャリア濃度が高くなり、臨界温度は変わらない。液体窒素温度(77 K)で臨界電流が顕著に上昇することが認められた。また、液体ヘリウム温度でも大きな効果を認めた。特に層を多層とし、その厚みを最適化すると液体窒素温度でのJcが106/Acm2にも達した。これは一般粒界を含む薄膜での記録値である。測定はすべて薄膜の粒界部にブリッジを作製して通電法(5mV基準)によって行われた。

 論文はまだ、提出されていないが、その前触れとなる論文はA. Schmehl et al. Europhys. Lett. 47(1999)110で見ることができる。Mannhart 教授は「宿命的と思われた高温超電導体の粒界結合の問題がこれで解決できそうである。この結果に非常に興奮している」と述べている。 彼らの研究結果は、粒界部のみのドーピングを行うことができれば、粒界の傾角を変えなくても臨界電流が77 Kでも向上することを示した点で、化学的な粒界修飾に期待を抱かせるものといえよう。また、気相からのテープ線材製造において、臨界温度の高い薄膜とオーバードープ薄膜を交互積層するといった方法として朗報をもたらす可能性がある。

(SSC)