SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 2-e, April. 2000.

1.スーパーコム企画対談
「高温超伝導メカニズムの論点は何か?」後半

前半はVol.8,No.5(1999.11通巻41)に掲載済み
(訂正分 Vol.8,No.6 1999.12 通巻42)


磁気的量子臨界点での超伝導の議論が続く__
d波やp波超伝導では、本質的に試料が清浄でなければ、不純物効果によって超伝導が観測されないという議論を受けて。

 

T: もちろん、試料がきれいであれば大丈夫です。ロンザリッチたちが見た超伝導はなぜ見えているかというと、全部圧力によって誘起したからです。ストイキオメトリの物質から始めて、もともとドハース・ファン・アルフェン効果が見えるようなきれいな試料で圧力をかけて観測している。

I: ネール温度TNが100度のオーダーのものでは、そんなに違っていないということですよね?

T: ファクターがどれくらいかにもよると思いますが、、、、超伝導転移温度TCが10倍低くなっていれば、コヒーレンス長も10倍長くなっていると思います。

I: なぜTCが10倍も違っているのかがわからないです。

T: それは、磁気的なゆらぎが一桁違っているから、、、いや、一桁も違わないかな?

I: TiとCuで一桁も違いますか? そうするとTNがどうして同程度になるのですか?

T: TNは二次元だから、cuprateの場合、いわゆるシステムが特徴づけるエネルギースケールだけで決まっていないところがあるからだと思います。だからTNで比較するのはフェアではないかもしれない。

I: Cuの系でもいろいろなジオメトリをもつ物質が他にもあると思いますが、、、それによって顕著に違っているのですよね?

T: そういえば、昔に「Metallic But Superconducting」という有名な言葉で表現された銅酸化物がありましたけれど、J(スピン間の反強磁性相互作用)は同じ位かもしれないですね。

U: Jはそんなに高いのですか?

T: 実はみんなが同じだろうと思っているだけかもしれない。でも、局所的な構造は同じだから、絶縁体では少なくとも同じJをもつと思います。確かにそういうものでは超伝導は出ないですね。

I: あと、もうひとつ。詳細だろうけど重要だと思えるのは、TCが反強磁性(AF)の転移に対して相図上で、こういう風にかぶっているときは、確かに反強磁性の揺らぎが効いているとは思えるので理解しやすい。

T: (相図が)こんなのもありますね。

I: ただ、High TCの場合、AFが近づくにしたがって、明らかにTCが減るわけですね?

U: それはたぶん二つの場合を一緒に議論しているわけで、ヘビーフェルミオンの場合、フェルミ面が非常に複雑なので、いい金属のままでAFの量子臨界点を超えることができるのですが、High TC cuprateの場合、電子構造が非常に単純なので磁気的な量子臨界点が必然的に金属-絶縁体転移の近傍に存在するわけです。それが物事を複雑にしています。その分だけ、物理としては面白い面があるとは思いますが、、、

T: 次元性についてはどうですか?

U: 次元性ももちろん重要です。

K: Iさんのおっしゃったように、High TCの場合には仮に擬ギャップが現れるところが超伝導だとしたならば、それはおかしくありませんか?

I: その場合だといいのかもしれないですけど、そうすると、スピンの揺らぎから出発した場合、擬ギャップをどう理解するのか、という問題になると思います。それが一番、今困難な問題だと思う。

T: UさんはそれがFuture problemであるとおっしゃっています。

U: 私は、普通の単純な金属の中にAFの量子臨界点がありえる場合と、金属-絶縁体転移の近傍にある場合の多分その差でしょう、と思っています。

I: その場合、擬ギャップの本質は何ですか?

U: 実際に取り組んでいるわけではないので、わからないですが、金属性が弱くなってくると、AF揺らぎから、短距離のシングレット相関みたいなものにスピンの揺らぎの性格が変わってくるのではないかと思っています。これは非常に難しい問題です。

K: その場合には、やはりAF相関よりもシングレットが基本ですか?

I: いいえ。例えば一次元のAFハイゼンベルグスピンを考えてもわかるように、スピンの揺らぎとスピンが縮むという効果が両方同時に起こっているわけです。1次元の例でわかるようにモット絶縁体に近づくからといって必ずしも擬ギャップが生ずるわけではない。1次元よりは2次元の方が次元が高いから、シングレット形成の傾向は弱まり、反強磁性相関が強まると考える方が自然なので、擬ギャップの形成には何か2次元に特別な機構がなければならない。

K: Iさんの場合には、仮に擬ギャップをTCであると考えると、それはペアでなくてはならないのですか?

I: 広い意味での超伝導の揺らぎが生じはじめていると考えています。

K: その時には、ペアよりも長距離秩序であってはならないわけですね。

I: もちろんです。実験的にも長距離秩序はないですよね?

K: いいえ。実験的には、例えば中性子で見ると、コヒーレンス長はどんどん伸びていくように見えます。

I: 何の相関のことを言っているのですか?

K: スピンの相関長です。

I: もちろんスピンの相関は伸びてきます。

K: それは構わないですか?

I: はい。AF臨界点に連続的に近づいていると考えているわけですから。

K: スピン相関長は絶縁体側に近づいていけば伸びていっても構わないということですね。それは擬ギャップの中にそういうものがあるわけですね。

I: はい。そこで重要なのは、一見、擬ギャップの中に入るとAF相関が抑えられるように見えるということです。それが擬ギャップの一つの特徴です。それを私はどう解釈するかと申しますと、擬ギャップが仮に広い意味の超伝導のゆらぎだとすると、超伝導の揺らぎが生じるとスピンの揺らぎが抑えられると思っているわけです。それは単純にはスピンの揺らぎが超伝導を引き起こすことと矛盾することになります。

K: Iさんの場合、擬ギャップを早く言えば「preformed Cooper pair」ということですね。

I: simple mindで考えれば、広い意味でそういうことになります。

K: そうすると、そこで生じているギャップの大きさは、TCのところで超伝導が起こっても根本的に変化はないですか?

I: ないと思います。連続的に擬ギャップのところから始まって、TCのところではただ、だらだらとなるだけです。

K: そのとき、TCというのは何なのですか?

I: 長距離秩序が出るところです。

K: そのとき、なぜそのようなはっきりとしたラインになるのですか?

I: 高温側でアンプリチュードは育っているけれども位相がコヒーレントになっていない。

K: しかし、実際にはそれが相転移点としてはっきりとして現れてきますが、「位相がつながるようになる」ことで、はっきりとした相転移を示すのですか?

I: それは、電気抵抗が0になる、ならないということではっきりと差が出ると思います。マイスナー効果も。

K: しかし、そこで起こっていることは何ですか?

I: 長距離秩序があるかないか、です。

K: 確かに、それは判別しようと思ったらその通りですが、そこでは本質的な変化は何も起こらないということですよね?

I: 例えば、全く別の例で言うならば、ヘリウム4が超流動になるときは、アンプリチュードは十分育っているわけです。しかし、超流動転移までは明確な相転移を示さない。

K: なるほど、それと似ているということですか?

I: いいえ。それと一緒にするとは言いませんが、極端にはそういう場合もあるということが言いたいのです。

T: CDWもそうですよね?

I: はい。CDWでもそういう場合に属しています。

T: 平均場近似でのTCと実際のTCは10倍くらい違うのが普通で、アンプリチュードは十分育っているのだろうと解釈するのがそれですね。

K: もしIさんのおっしゃったことが本当だとすると、超伝導体中にボルテックスが存在しているときに、ボルテックスのなかにはクーパー対は中心部に存在できないのですか?つまり、ボルテックスのど真ん中には擬ギャップは開いてはいないのでしょうか?

I: ボルテックスのど真ん中にはクーパー対は存在しないのか?ということをおっしゃっているのですか?

K: はい。その通りです。

I: 本当のど真ん中はそうかもしれません。でも、周辺に行くにしたがって、連続的に増えていくでしょう。

K: つまり、ボルテックスの中心の電子の励起スペクトルを測ると、I流に解釈すれば、そこには電子のクーパー対がいないわけだから、擬ギャップができていないということになりますね?

I: そうでしょう。

K: そうすると、擬ギャップのない励起スペクトルが観測されなければならないことになりますね?

I: しかし、ボルテックスが存在するところは空間的に限られているわけですから、ギャップがないという意味がどういうことかわからない。つまり、有限の系になっています。ですから必然的に離散準位になります。

K: その意味で局所状態は発達するかもしれない。でも電子としてはnormal stateに戻りますよね?擬ギャップを引き起こすような変な系ではない。

I: ただ、その電子は束縛状態しか作りようがないわけです。無限の系ではないので連続状態は作れないです。

T: ただ、d波だから。

I: そういう意味での染み出しは起こっています。しかし、これはデリケートな問題で、あるとすれば、一次元的に連続状態はあるかもしれないですね。

T: STMで見えていますね。いろいろ解釈の問題はありますが、、、

I: 連続状態であると断定できるかどうかはまた別問題です。

T: 束縛状態らしきものがあるということだけは確かだと思います。

S: 擬ギャップも同じ対称性をもっていますか?

I: 超伝導の揺らぎであるならば、同じ対称性だと思っています。

S: 擬ギャップの対称性がなにか実験的に違うとか同じであるとかは、例えば、一つの測定手段で調べる必要はありますね。

I: そうです。すでにARPESは、d波だと言っているようなものだと思っています。

S: ARPESだけですよね?あれが対称性を決める決定打になるかどうかはわからないですが、確かにフェルミ面はある一部から欠けていくという意味では同じ傾向です。

I: あとは、、、ジョセフソンジャンクションを作るわけにはいかないから、、、、

T: k空間で見えるものは他にありますか?

I: 今考えているところで、、、

T: NMRで、ある仮定をおけば、できませんか?

U: 例えば、今、スピンの揺らぎで考えていくと、スピンの揺らぎの性格がモット絶縁体の近傍になると変わっていって、シングレット的な性格になります。とすると、クーパー対を誘引するものは、性格は変わって行くけれども広い意味のスピン揺らぎということになります。そこでわからないのは、それと超伝導揺らぎは対称性に違いがあるわけではなくてクロスオーバー的になるはずで、なぜ超伝導揺らぎというものを独立の自由度としてアンダードープ側だけに取り入れるのかということです。ロジカルな構造として、例えば、超伝導揺らぎならば、なぜオーバードープでその超伝導揺らぎが問題にならないのでしょうか?

I:絶縁体への転移に近づくに従って、ペアリング引力が強まると考えれば不思議はありません。

U: スピンの揺らぎでは、概念的にはそこのところはシンプルになっています。スピン揺らぎというものがあって、そういう状況に応じて変わっている。連続的につながっていますから、それを超伝導揺らぎとして記述することもおそらく可能でしょう。ただ、本来同じもののはずなのに、独立の自由度として入れるのは釈然としない。

K: キャリアの数が変化する、というのはだめですか?

U: しかし、Iさんが議論しているのは、超伝導の引力チャンネルをもとにした揺らぎとシステムになにか関係がまずありき、と仮定していると思うのですが、その原因がどこからきているのかがわからないのと、、、、

I: 特定の論文やいろいろな人の主張を関連づけて議論されているような気がしますが、、、、

U: そうではなくて、そこのところを概念的にどのようにしているのかがわからないだけです。

I: 一般的には、位相空間にAFの長距離秩序に関係した揺らぎを示した鞍点があります。それから、そこのまわりの揺らぎをずっと取り入れていくと、超伝導の揺らぎの鞍点まで辿り着けます。ですけど、ここには、また別のミニマムがあります。ただし、この2つのゆらぎは拮抗しています。このときに、スピンの揺らぎから初めてこの先までずっと冪をとっていくと、原理的には記述できるはずです。これはスピンゆらぎではなくて、電荷ゆらぎから出発しても原理的には同じことです。しかし、2つミニマムがあるときには、確かにオ−バーカウントになるのですが、両方取り入れるということは、それなりに有効な方法です。この場合、スピンゆらぎが超伝導揺らぎを引き起こしているとは限らない。

U: プラグマティックな方法でそうする、だから、それで擬ギャップの領域のある種の記述を与える、というのはそれはそれでわかるのです。また、ある点における擬ギャップがある場合の現象論としてはわかるし評価します。ただ、全体の現象の理解の中で、擬ギャップをどういうふうに位置づけるかという視点には、そのままでは到達していないです。

I: そうですね。この時点で引力の起源を問わなければ現象論であるのは間違いない。

U: だから、そういうところが私にはわからない。ただ、スピンの揺らぎで私の感じていることは、先ほども申しましたが、擬ギャップが全体のperspectiveの中に入ると思っています。

I: それで、先ほどの擬ギャップの話に戻りますけど、スピンの揺らぎから出発して超伝導の引力も出して、つまりスピンの揺らぎだけで超伝導をすべて説明しようとすると、実は擬ギャップという現象はそれに一見矛盾するように見えるのです、と言いました。つまり、超伝導のゆらぎがスピンを抑えているように見えるわけですから、普通に考えれば、スピンの揺らぎも超伝導を抑えるはずです。これはストライプが超伝導を抑えるのと同じ意味です。

U: これは微妙な問題ですね。

I: そうです。微妙な問題です。そうだとすると、超伝導の揺らぎを超伝導の現象論としてはじめから与えて議論をする根拠は何だったかと言うと、超伝導の揺らぎは何か別の原因から実は起きている、それはよくわからないから放っておいて、まず、現象論として取り扱う。

U: いえいえ。Iさんのおっしゃりたいことはわかってます。この点における擬ギャップの現象論を、超伝導揺らぎをダブルミニマム、つまり独立な事象としてやりました。それはわかるんです。

K: U流に言うと、擬ギャップのところはTCではない? つまり、クーパー対は出来ていないと考えているのですか?

U: それはわからない。

I: スピン揺らぎだけから始めて擬ギャップを説明しようと思ったことは私も実はあります。それは非常に困難です。

U: 難しいことは私も「よーく」わかっております。(笑)

T: Iさんが問題にしているのは、一般に擬ギャップが起きると、スピン相関は弱められるということですね。

I: ということは、普通はその逆も真実なはずです。

U: それはむずかしい。

T: 本当にそれは"逆も真なり"ですか?

I: ふつうはそうです。

T: 自明なことでしょうか?

I: つまり、両方のゆらぎは互いに斥力的、ということを表しているわけです。

U: 普通はそうですね。普通の単純なモデルで超伝導を扱うと、超伝導のカップリングコンスタントとスピンゆらぎは互いに斥力的であることは間違いない。

I: 普通は超伝導の長距離秩序が生じると、スピンの相関は抑えられると思っていますね。普通は相容れないと思っています。ところがペアリングフォースの起源だけは、スピンの揺らぎが引力的に作用していなければならないとなると、それは単純ではない。それを、スピン揺らぎの理論から出発して、それだけから「擬ギャップ」を実現することは私には無理であった、ということです。

U: これはfuture problemですから。(笑)

K: 実験的には、トンネルスペクトルから見る限り、どうやらアンダードープにいくにしたがって、ギャップの幅は大きくなっているように見えます。

T: やや大きくなっているようには見えますが、これは特定のグループの結果を見ておっしゃっていませんか?

K: アルゴンヌとか、、、

U: どこかで止まらなければならないですよね?

T: そうです。

U: だからそれから物理を議論しようとするには、AFに近づいていくときにどうなるかというのが大事です。

I: 本当は減らなくてはならないので、実験はたぶん見ていないだけとしか思えない。

T: あの手の仕事は、表面の問題でBi系しかされていない。Bi系は普通に作るとオーバードープに近いところができてしまう。アンダードープ領域はあまり得意ではないですね。それを無理してアンダードープにして測定している。肝心の反強磁性に隣接した領域ではまともな試料を作ることができていない。それで、ほとんど実験はなされていないですね。Shenのところは、絶縁体のところでモットギャップはd波の対称性だ、と言っています。そこからどう近づいていくかというのが重要だと思うのですが、材料としてその領域を埋めるものがないのです。

K: T君はまだアンダードープ側の擬ギャップあるいは超伝導ギャップの大きさが系統的に大きくなっているとは信じていないのですか?

T: そうなっているのかもしれませんが、定量的なレベルでは良く分かってはいないと思います。2Δ/kBT*=一定という議論は少しバイアスがかかっているように感じます。(笑)

K: まあ、あれは強引かも、ね、、、

K: そうすると、擬ギャップが見えるようになるところでは、いろいろなところに響きますね。例えば、異方性が変わるとか、電荷の閉じ込めが起こるとか。

U: ある点で擬ギャップが出ているのを超伝導ゆらぎで理解しようというのは、それはそれで現象論としてわかるのだけれども、全体を見渡したときに超伝導ゆらぎであるならば、おなじTCなのにアンダードープとオーバードープでそんなに性質が違うのか、という理解はまだ与えられていないわけです。

K: でも、キャリア数がアンダードープとオーバードープでとても違いますね。

U: キャリア数は所詮ハーフフィリングであり、フェルミ面が大きいわけですから、キャリア量の影響は小さな変化でしょう。

K: しかし、キャリアを何として理解するかによりますね。

U: 私の基本は大きなフェルミ面であると思ってますから。

K: ただ、アンダードープ側はホールとして考えたら、すごく少なくなってしまいますね。

U: キャリアがホールであると考えるのは、たぶん正しくないのではないかと思っています。

T: これは微妙な議論で、固体物理では、常に自由電子に置き換えないと直感的に理解できないので、m*とかnとかの言葉で語らなくてはいけない。しかし、実際見ている量は、スペクトラルウェイトを例にとっても決して単純ではないのです。

U: キャリア数に焼き直すというのは、そんなに正しい見方ではないと思います。

T: いわゆるフェルミ面のようなものに囲まれている面積ということであれば、きちんと定義できるかもしれませんが。

K: これは難しい問題ですね。例えばアンダードープ側に行くと、超伝導の凝縮エネルギーは小さくなるわけですけど、ギャップだけは大きくなっていくのです。ギャップだけは大きくなるので、ここでものすごくキャリアが減ると考えないとどうにもならないのです。つまり、クーパー対の数はものすごく少ないはずです。

U: まさに凝縮エネルギーは小さいのではないでしょうか?小さいということが本当であって、それをキャリアに焼き直すところに飛躍がある。

K: しかし、ギャップというのがクーパー対の形成エネルギーだとすると、このエネルギーにキャリア数をかけたものが、凝縮エネルギーになりますね?

U: その通りです。

K: ギャップがアンダードープに行くにつれて育っていくから、我々がナイーブに考えると、キャリア数が非常に減っていると考えないと理解できないのです。どう考えればいいのですか?

S: ギャップが大きくなることは確定してないですよね?

K: ギャップが大きくなることが正しいとみなせば、どうでしょう?いろいろな方たちが測っているトンネルスペクトル、例えばブレイクジャンクションのデータをみても、アンダードープ側にいくにつれギャップが大きくなる、ということで、一致してきていると思います。

T: あれは結構バイアスがかかっているような気がしてならないです。

K: 宮川さんがアルゴンヌに行って測定したデータは、そういうバイアスはかからずにやっていると思う。

S: キャリア数だけ見るのであれば、μSRでいいのではないですか?

K: μSRでは減っていますね。

S: はい。減っています。ドーピングに対してリニアに減っています。

I: リニアというより2乗だと思いますが、、、

S: 2乗ですか?

I: 超流動密度は良く見れば、ドーピングを減らすとリニアよりも顕著に抑えられるように見えます。

T: 凝縮エネルギーというのは、準粒子の状態密度とΔ2(Δ:超伝導ギャップ)の積ですね。電子比熱からみると、状態密度は減っているわけですから、そのことをキャリア数が減ったと言えるかどうかですね。

I: でも、超流動密度は明らかに減っています。

T: ただ、実はアンダードープではかなり不純物の効果が支配的になってきますよね?

I: はい。それはあります。

T: 残留抵抗もユニタリーリミット近くになっているので、ミュオンで見ているのは何かということには気をつけねばならない、、、、

I: ただ、普通に考えてみても、ドーピングを減らせば、不純物はなくても超流動密度は連続的にゼロに向かわなければおかしい。それはキャリア数が少ないことをまったく意味しない。 K: ペア数で言えば?

I: ペア数も減っていることを意味しない。超流動密度は減っています。

K: それはどういうことを意味するのですか?キャリアの中に対にならないものがあるということですか?

I: 別の言い方をすれば、有効質量が増えたと思っています。単純に言えば、n/m*しか測りませんから。

T: 超伝導が壊れたときには対密度はゼロになっていますけど、不連続になってはいけないのですか?

I: いいえ。なってもいいと思います。

T: 相互作用が正から負に変わるところだったら、その変わるところまで、対密度は一定ですね?だから、これがゼロに必ずしも向かう必然性はまったくないですね。

I: はい。必然性はないですが、だんだん減っているように見えるということは、金属-絶縁体転移のプロキシミティーがあると考えないと説明がつかないということです。

T: 系が汚くなれば、どんどん対破壊によって、超流動密度が減っていくというのはいけないのですか?

I: ただ、どうして、ドーピングを減らすとランダムネスが増えるのか? むしろ、減るべきではないのか?

T: それはわからない。実験的には確かにランダムネスの効果が抑制されていないように見えていますね?

I: それはなぜかというと、モット絶縁体に近づいているからであって、それ以外に考えようがない。連続的に超流動密度が減っていくのは、自然にモット絶縁体に向かうからで、ただ、ランダムネスのために少しその減り方が速いんだと思います。

K: そうすると、アンダードープ領域で全体としてのキャリア数は減っていないというかの議論を実験的に確かめる手段はありますか?私のナイーブな目からすると、アンダードープ領域はキャリアがどんどん減っているようにいろいろな実験で見えるのです。

T: 超伝導で見ているわけですね? 超伝導で見ているというのはあくまで対密度ですから、不純物があったら実際に超伝導に寄与する対密度はどんどん減っていくわけです。決してノーマルの電子数ではないわけで、あくまでもnsなのです。

K: そうすると残りのキャリアはどうなってしまうのでしょうか?

T: いるはずです。

K: 超伝導にならずにいるということ?

T: 寄与できていないということです。

I: 重くなっていると思えば良いのではないでしょうか?

T: 超伝導の現象論の教科書を見れば、磁場侵入長がdirty limitの場合にはi/lでスケールされます。それはどういうことを意味しているかというと、もともとはちょうどプラズマ周波数に対応するドゥルーデウェイトがあって、清浄極限では、それがすべてω=0にデルタ関数的にコンデンスするのですが、dirty limitではそれがブロードになって、ギャップより下のところしかコンデンスしないということです。

K: 例えば比熱で見ると、オーバードープ側に行くと超伝導転移点がシャープになっていくのですが、アンダードープ側に行くとTCのところでだんだん曖昧になってきます。これはリーズナブルな結果ですか?何も不思議ではない?キャリア数が減っていると解釈すれば理解しやすいと思うのですが、、、、

U: Iさんが主張されているように、超伝導揺らぎは擬ギャップの領域で存在するので、比熱もその影響はあるのでしょう。

I: 揺らぎの効果が大きくなれば、自然にブロードになると思います。

K: アンダードープになればなるほど、揺らぎの効果が大きくなるのですよね?

I: はい。

K: 実験もそのように見えています。

U: 擬ギャップがあるということと、ほぼコンシステントな実験事実と言っていいと思います。

K: キャリア数が減っていると言わなくても、全然構わないのですね。それはホール係数から見たらどうでしょうか?

I: ホール係数については議論しない方がいいと思います。(笑)

K: そう思われるのは、ホール係数については議論されたくない、という気持ちでおっしゃっているのですか?

I: いいえ。そういうことではありません。かなり複雑のようなので、、、、

U: ホール係数は非常に難しい量ですね。

T: 最近、一生懸命計算されていらっしゃいますね。

I: 例えば、キャリアが少ないと思っているのに、高温側でどうしてホール係数が小さいのか、ということを説明できるだろうか?と考えると、説明できない。

U: ホール係数は難しい量でどう考えていいかわからなかったのですが、最近なんとかとっかかりはできたかな、という印象があります。

 

K: 光反射からアンダードープのキャリア数はどう見えるのですか?

S: キャリア数は出ません。ωpしかわからないです。

K: それは、キャリア数があまり変化しなくなる?

S: キャリア数をどのように定義するかにもよります。また、フェルミ面をどう考えるかにもよります。大きなフェルミ面を考える限りではキャリア数はほとんど変化していない。先ほど議論した対密度はアンダードープもオーバードープも同じように減っているわけですが。

 

K: 光学スペクトルで一時期in-gap stateとか、、、

U: あれはどうなったのでしょうか?実験的には、、、、

K: 実験的には、今でもZhang-Rice stateということで思っているはずです。d-p模型から前川さんたちが計算してその存在を指摘していますね。

T: d-pでなくてもハバード模型からでも出てくるのではないでしょうか?

I:モットギャップを変えるような操作を、バンド幅を変えるようにしてみると、ギャップは縮んでいるように見えるのだけれども、光電子分光では少しもそれが見えないです。

T:表面の問題で、コヒーレントとインコヒーレントのスペクトルが見えなくなったという話も聞きましたが...

I:一般に、いくつもの物質で測定されていますが、光電子分光で見えているギャップの大きさは変わっているように見えない。コヒーレントピークと称するものはできています。

I:YBa2Cu3O7-δ(Y1237)を見ていると、人によってデータが違うと思うのですが、光学伝導度にin-gap stateのようなピークがあるわけではなくて、ずっとだらだらしたような状態ですね。

S:ドープされたところですか?

I:はい。

S:でも、アンダードープ領域のところにちょっといれると、ちょっとずつ間のところにもやもやと出てきますね。でも、一気にいれると、こんな格好にはなっていないですね。確かに、あのスペクトルの格好は、La2-xSrxCuO4(LSCO)に特徴的ですね。BiとかYの場合では、分離して解析するのは非常に難しいです。だから、one-componentで解析するしかないですね。 I:だから、そんなに普遍的なものとは思えないです。LSCOが汚いというのと関係があるのでしょうか?

T:しかし、そのスペクトルがDrude型ではないことは確かですし、温度変化する周波数領域とそうでない領域があることは確かです。

I:確かにそうですが、in-gap stateがあるということとは別問題です。

T: Bi系の場合、本当の意味で、わずかだけドープした領域の実験は意外とされていないですね。

S: Bi系ではそうでしょうね。Y系の中間的な組成だと、変な格好のDrudeになるわけで、そういう意味では真ん中に山のようなスペクトルは現れます。

T: Y系で超伝導転移温度TCが出るアンダードープ領域はかなり実験されているのですが、しかしTCの出ない絶縁体にわずかだけドープしたような領域は難しいです。

S:アンダードープ領域の(超伝導転移温度が)60KのYBCOでも、確かに変な格好をしてますね。

K:あの領域は酸素の秩序化とか起こるから、そう簡単ではないですね。もっと他の系でうまく出るような物質を使ってやらなければならないですね。

 

T:今までは擬ギャップ自身に話題が集中していましたが、最近、それが絶縁体にどうつながっていくかという議論が始まりましたから今後そういう実験が増えていくでしょうね。

K:あの領域は実験的にはこれからですよね?

T:これからです。

K:今まで、難しかったし、あまり面白いと思っていませんでしたから。

T:それは理論の方々がいろいろ指摘し始めたからと思います。

I:あと、低エネルギー領域もちゃんと実験的に明らかにしてもらわないと...

K:実験家から言えば、低エネルギー領域はそんなに簡単なものではないです。

I:それは良く分かっているのですが...(笑)

K:これは測定の精度の問題ですからね。

I:安易な方に流れずに、ちゃんとやってほしいですね。

K:光電子分光であれば分解能を上げる必要があるし、トンネルスペクトルであれば温度を下げて測定するとかしなければならない。

I:私は、光学伝導度の低エネルギー側の引き込みのことを言っています。

S:シンクロトロンを使って測定する方法がありますが、日本ではされていないですね。

U:とても難しいですね。

K:それはできますか?

S:難しいですが、SPring8ならできます。でもあまりデータを見ませんね。

K:測定しに行けばいいのでは?

S:光源だけでは駄目で、その周辺の分光の機器の精度が追いつかなくてはならないのです。

T:マイクロ波でカバーするというのはいかがでしょう?

S:間が開いています。(マイクロ波測定で可能な周波数は)discreteですね。

T:ロシア製の装置ではかなり周波数を変えられると聞いています。

S:最大が100GHzですよね?

I:バーゾフに聞きましたが、5meVのところでやっていると言っていましたよ。

S:あまり精度はないと思います。

T: THzでやればいけるはずです。

S:でもデータは出てきていないです。

T:これから出てくるはずです

K:ということは、光はこれからは波長の長い方をちゃんとやるべきだ、ということですね。

I:その通りです。

 

K: やっぱり、実験家による急所を突く実験というのがありますね。例えば角度分解光電子分光の分解能のよい角度分解をしっかりやってきっちりした実験結果が出てくると、その他のあいまいな実験よりも当然ものすごくインパクトがありますね。そういう意味でこれからどのような実験があると思いますか?例えば、私は、分解能の良い中性子、あるいはサンプルの良い中性子実験もその中の一つだと思います。理論家からみて、NMRについては望みはありますか?

U: NMRは低周波の極限では非常に精密な実験ですね。

S:ただ、NMRについてはもうやり尽くされた感じはしますね。

U: NMRと中性子の結果については、実験結果の質が全然違うレベルのものが同時に出て議論されているところがありますね。

K:確かに違いますが、ただ、中性子の場合、方向、つまり、q依存が出てきますね。

U:原理的には中性子実験から出てくる情報量は多いとは思います。ただ、質が...

S:エラーバーが大きいですね。

T: NMRの結果と中性子の結果の接続は最近うまくいってないですね。本当はつながっているはずなのですが、最近は、特にYBCOあたりで高エネルギー側ばかりで、低エネルギー領域をしっかりとっていないから、つながっているのかどうかわからない。

U:中性子の方は少し荒っぽくなっているのかな?

T:マシンタイムが細切れになっているのが原因かもしれないですね。

K:中性子がこれ以上分解能が進んでいく兆候はありますか?

S:サンプルのボリュームを増やそうと思えば頑張れますけど、ひたすら作るというのはちょっと...

K: SRLは巨大なYBCOでいろいろなドーピング量をもつサンプルを作って、それを使えばいいですね。

 

K:その他に決め手の研究というのはありますか?

T:私はノイズで電荷を見ることに興味をもってます。量子ホール系で見ていたりしていますが、あの方法をHigh-TC物質で見ることができないか、と常に考えています。あれもかなりマニアックで、測定精度の究極を極める実験です。

S:トンネル分光はどうですか?

K:極低温でかなり良いのが出てくれば面白いなと思っています。もう2、3年すれば変わってくるかもしれません。

S:光電子分光の試料は全部BiやTl系ですね。

K:今、LSCOでもされています。藤森研で。

S:ただし、どれくらいintrinsicなデータを見ているかわかりません。LSCOの表面は危ないです。どんな落とし穴があるかわからない。遠赤外領域で見ていたってサンプル依存があって危ないです。どうやって測定しているのか不思議なくらいです。

U:我々理論家は何を信用していいのか、わからなくなってきました。(笑)

S:今ある最高の試料を使って測っているわけですから、とりあえずfinal resultとして出すのは仕方がないです。しかし、他の物質も測ってみて、コンシステントに考えられるかどうかということをしっかり押さえないと駄目ですね。そういう意味ではYBCOのデータは絶対なくてはならないはずですけれど、光電子分光では測定されてないですよね。

K:バルクのスピンを見るという意味では、まず中性子があって、EELSも透過型で見ることができますね。

T: EELSは分解能が悪いですね。overallの電子構造を決めるのには良いテクニックですが、フェルミ液体とかが関係する低エネルギー励起を見るのには向かないですね。

 

K:今日、議論したいことはほぼ終わったのですが、コールドスポットとかホットスポットが今話題になっていますね。例えば、UさんやIさんから見てどう思いますか?

U:準粒子間の散乱を考えてみると、幾何学に応じて散乱の強いところとそうでないところがあるわけです。散乱の効く場所とそうでない場所があり、それがコールドスポットとホットスポットであるわけです。ホール係数などの輸送特性に、実はこれらが思いのほか影響を及ぼしています。準粒子のそれぞれの個性を無視せずに、きちんと取り入れていくと、実は不思議だと思われていた現象をある程度説明できます。それが最近のホール係数に関する理論の発展であり、面間のc軸伝導にも関与していると思っています。

S:その考えを使うと、c軸伝導が半導体的になるという現象は、絶対零度ではどうなるのでしょうか?

U:最終的にはフェルミ液体になると思います。

S:金属にならなければならないということですね?

U:中間の温度領域を見ると、ずっと上がっていって途中で下がっても、そのふるまいは全然困らないわけです。

S:観測にかかっていないだけで、ということですか?

U:詳細に眺めれば、です。

I:擬ギャップができている場合は、何とも言えないと思います。

S:しかし、今の場合、擬ギャップがk空間の特定の場所にできていて...

I:例えば、(p,0)に擬ギャップができていて、c軸方向のチャンネルが(p,0)にしかオーバーラップがない場合には...

S: (p,0)だけにしかない、ということが絶対零度までもっていってありえるのですか?それでc軸伝導は絶縁体のままで、面内は金属であるということが説明できるのですか?

I:そうですけど、その場合、擬ギャップがどのくらいの範囲で開くかということになるわけで、実際はほとんど開いていて、(p/2, p/2)のところだけ開いていないということですから、(p/2,p/2)のところだけオーバーラップがないということは、対称性の問題からいくらでも起こりうるわけです。

U:本当に最後まで上がり続けるかという微妙な問題がいくつかあると思います。そういう場合が作れないということはないと思いますけれど。

I:こんなにデリケートな問題になると、現実はその前にc軸伝導は不純物で局在してしまっているということになると思います。

U:仮にhypotheticalな理論的に考えたときにどうかという問題があって、低温に向けてずっと上がって、やがて下がっていくのであるが、不純物の効果で現実はこの様にみえている。

S:実験的にはそのようには見えていないです。

U:下がるところはもっと低いエネルギースケールで起こっていて...

S:それは一つの説明ですよね?

U:はい。

S:でも、実験的には誰もそれは見ていない。

U:もちろん。

I:でも、むしろ、ギャップがどんどん開いて大きくなっていくわけですからね。温度を下げていくと擬ギャップがどんどん開いていくわけで、c軸方向は絶縁体になってもよいわけです。

S:それでフェルミ液体?

I:フェルミ液体ではありません。(p/2, p/2)のところ以外はギャップがあるわけですから、フェルミ面はないです。

S:そうすると、フェルミ液体で考える限りでは、やっぱり説明できないわけですね。

I:はい。

S: c軸伝導の半導体的ふるまいは非フェルミ液体の実験的証拠ということ?

I: そのようなことにはならないと思います。

K:そのときは非フェルミ液体の定義にもよると思いますよ。

I:擬ギャップが開いているところがあれば、非フェルミ液体であるのはどうしようもない。

U:ここで、完全にギャップが開いているnormal stateがあるか、ということが気になるわけです。例えば、擬ギャップ的なものが開いているのであればいいのですが。

K:本当にいいのですか?

U:擬ギャップ的なものであれば、アクセプトできます。

K:しかしギャップが開いてしまえばフェルミ面は破壊されてしまって、なくなっているわけですね?

U:本当のギャップかどうかは微妙な問題です。

T:ギャップか擬ギャップかということです。

U:例えば、一体のspectral intensityをとったときにそこにギャップ的なものが見えるということは十分ありえると思います。そのときに電気抵抗がc軸方向に沿って実験データの範囲で上がっていることを説明する理論をきちんと構成することは、努力すればできると思います。その挙げ句に本当にc軸方向の電気抵抗が上がりっぱなしでいいのか、という問題については、私にはよくわからないです。少しでもトランスファーがあって、ハーフフィリングからずらしているときに、上がりっぱなしでいいのかということに関しては、どうも違うような気がしています。

I:それを上げている擬ギャップの起源は何ですか?

T:それは擬ギャップの起源とは関係ないのではないですか?

I:関係あります。もし、クーパー対の前兆だとして、仮に超伝導にはならなかったとします。それはもうボゾン的なものですから、トランスレーションシンメトリがあるので、その粒子は動くしかないのです。結局は超伝導、超流動にならざるを得ないわけですけど。有限温度でインコヒーレントなのは構わないのですが、最終的にc軸方向もコヒーレントにならないといけないです。しかしボゾンとなれば普通の金属とは違う。

U:それならいいのです。だから現象論的には最終的にはc軸も金属にならないと私は気持ちが悪いです。そうならないと、その理論はどこかおかしいということになりますね。

T:実験的には300mKくらいまで測らないとだめですか?

U:そのようなシナリオはありえると思います。例えば、hexagonalな格子で見ると、片側が金属的で片側が半導体的なふるまいを示すのは普通にありますからね。

I:今のは磁場で超伝導を、抑えたときの話ですか?

T:はい。

I:面内にかけると金属的で、面間にかけると絶縁体ですか?

T:そうです。

U:量的な問題で解決するのかどうかわからないけれども、理論的にできることとしては、次のような事が考えられます。仮に量的な問題であるならば、いきなりHigh-TCにいかなくても、ある異方的な結晶構造を考えます。ある方向に対しては十分広い範囲で絶縁体で、最後は金属的になるけれども別な方向を見ていると片側がずっと金属的な場合にそういうものがあるということを理論的に例を出して議論することは可能だと思います。理論的にはそういうところから始めて、Tさんの「300mKですか?」の発言に対してそこまで対応できる理論をつくるのは難しいと思いますが、もう少し大きなエネルギースケールでそういうことが起こっていることをまず示す。ヘビーフェルミオンにそのような例がいっぱいありますので、今述べたシナリオが幾何学的な構造だけでなくてさらにヴァーテックス補正があるとそれが強められるとか、そういう一般的な性質を見ていくことでだんだんc軸の伝導の問題などを攻めていけると考えています。

T:実験で気になっていることは、二次元性の非常に強いSr2RuO4の場合、c軸抵抗は高温では半導体的な温度依存性を示しますが、金属的な温度依存性に温度を下げるとともに移行していきます。それに伴って光学スペクトルも急激に変化します。High-TCの場合、決してこういうふるまいを示さず、金属か半導体か必ずどっちか一方なのです。半導体的なのがあって金属的なのがあって、途中にクロスオーバーを示すのがあってもいいのではないか、と思うのですがないのです。

U:実験的にそういうのを作れば面白いのではないですか?

T:作れれば、U先生を喜ばすということになりますね。(笑)

U:私を喜ばすというわけではなくて、物事の理解が自然になります。

T:そういうのがあったなら、特徴的な温度スケールが変わっているのかな、と思うのですが、そういうのがまったくないのです。むしろ、1か0かという印象なのです。今までのデータを集めれば、必ず1か0で整理できるはずです。

K: T研で出したYBa2Cu4O8(Y1248)で磁場をかけてc軸伝導をスイッチするのがありましたね。

T:あれだけは困りますけど...

K:: あれはどういう意味をもっているのですか?

T:あのc軸伝導の中にCuO2面の寄与を含んでいるとするならば、U先生のおっしゃっていることは正しいということになるんですけれど、ただ、この場合私はチェーンの伝導だと思っています。

S:チェーンだけが独立にあるっているのもよくわからない。

U:私もよくわからないです。チェーンがCuO2面を突き抜けていく説明は実に不思議ですね。

T:そういう風におっしゃる方と、「当然ではないか」とおっしゃる方がいて、私もよくわからないのです。

U:あのときはそう思ったのでしょう。

T:あの後、Andersonに「独立に決まっているじゃないか」、といわれました。(笑)

S: プレーンはプレーンで独立で良いわけですね。

T:私は今の時点では一次元の物理として展開させようとしていて、さらに摂動として2次元がどういう役割を果たしているか、これは高温超伝導にかかわる問題にからんできます。

K: Sさんは今c軸の伝導に関してはもう特に問題はなくなったと思いますか?

S:まだわからないと思っています。normal stateのインコヒーレントなc軸方向の輸送特性の起源が解決しているとは思っていません。もし、解決したとしても、normal stateの問題がどう解決するかによって、たぶんTC以下の考え方も変わってくるのではないかと思います。今、TC以下の議論はないですが、超伝導パラメターは通常のBCSの場合、normal stateのパラメターとカップルしているわけですけど、もし単純につなげて考えると、まだ理解できないのです。Andersonの電荷のconfinementだったら超伝導になればそれが融けるはずで、でも実験的には融けているようにみえないのです。

K:超伝導のときの異方性パラメターとnormal stateのときの異方性パラメターは一致しているかどうかについてはどうですか?

 

S:それを実験的に無理矢理つなげているのは、c軸方向の磁場侵入長lとTC直上の直流電気伝導度とのスケールです。あれは、実験的に確立しているかのように言われていますが、ただ、これを支持する理論のモデルが提唱されていないのです。

U:違わないとおかしいのではないのでしょうか?

K:その異方性というのは、アンダードープ領域に行くにつれて急速に強まります。それがちょうど凝縮エネルギーが減少するのと同じように起こります。もしかしたら、異方性と凝縮エネルギーは同じルーツではないかと仮定することも可能であると思っています。どうしてかというと、アンダードープ領域にいくにつれて、凝縮エネルギーが急激に減るというのは、どうも面間部分の超伝導になっているところが減っていってしまうように見えているからです。

I:ペアリングの起源が2次元面内のペアリングにあれば、問題ないのでは?

K:この場合、凝縮エネルギーはアンダードープになろうとなるまいと変わらないはずですね。

I:いいえ。そうすれば、面内でペアを作って、面間方向には飛べなくなっていきます。つまり、異方性は増大します。

K:ノーマルで面内ペアを作ることによって、積極的なconfinementが起こっているということですね。

I:超伝導のペアリングを原因としたconfinementが起きているわけです。スピン-電荷分離によるそれとは違うことを言っています。はじめからあるのではなくて、ペアリングの揺らぎが面内が起源であるために...

K:面内が起源であるために、超伝導のペアが飛べないということをおっしゃっているのですか?

I:そうです。超伝導のペアを壊さないと飛べないということです。

K:これは擬ギャップ状態での話ですね。

I:そうです。

K:そういうことがありえるのですか?

I:そう思っています。confinementが擬ギャップの領域だけ生じているのではないか、ということで、それが本当かどうかをY1248で確かめられるかと思ったのですが、そう単純ではなかったということです。

K: しかし、超伝導の状態での異方性のパラメター、例えばlやコヒーレンス長xの異方性など調べることは可能ですから、評価できるはずですね。

I:それが擬ギャップ状態になると急に増大するかどうか、ですね。一般には、おおざっぱに言ってc軸方向が絶縁体的になり、面内がちょっと電気抵抗が下がり始める温度が大体一致していて、それが擬ギャップと一致しているわけですから、今の話と矛盾しない。ただ、どこまで実験的にそれが究められるかですね。

U:これは、非常に一般的な現象のように思えます。例えば、singlet相関というものが発達するということは、移る前の始状態としてsinglet相関が発達した状態があって、次の面に移ったときにまた揃え直さなくてはならない。つまり、始状態と終状態に多体相関が入ると一般にオーバーラップが小さくなる。それをどう読むかというのは、例えば、超伝導揺らぎでオーバーラップが小さくなっているとか、あるいはsinglet相関が発達して小さくなっているとか、結局のところ、名前の付け方だけの問題であって、一般には多電子系の始状態と終状態がほとんど直交していると必ずそういうことが起こります。

I:それが超伝導の揺らぎによって引き起こされていると思うのか、何も考えずにスピン-電荷分離があるから面内にconfineされていると思うのかはまったく違う見方です。

K:スピン-電荷分離で起きた異方性というのは、超伝導の状態になれば解けてしまうわけですから、超伝導状態で異方性パラメターはnormal stateのそれとは一致してはいけない、ということになりますね。

U:ただ、私の場合、そもそもスピン-電荷分離という概念の有効性がわからないですね。絶対零度を見てもどこにも見られないわけです。また、あの理論の高温のリミットはスピン-電荷分離でなくてはならないのですが、ハバードモデルでも何でも高温展開の良い領域ですから、現実の系での高温の極限は電子であるはずで、この概念は人間の想像にしかない極限です。相図のどこをみても、基底状態にはないし、高温極限に現実にはあってはならないものが存在しているということになる。あれは一体どの極限で考えているのかわからないです。なぜ実験家はそういうものに基づいて物理を議論しているのかが理解できないのです。物理の概念というのは、ある極限にいくとそれが正しくなる場合があって、今のシステムはそこからどれくらい離れているかであって、それが現実を理解する通常の方法だと思います。スピン-電荷分離に関しては、正しい極限がどこにも見当たらないです。

I:その過激な発言は置いておくとして、擬ギャップでない領域で、c軸伝導がはっきりconfineされている例はあるのでしょうか?

S:擬ギャップを実験的にどのようにして定義するかだと思いますが... 擬ギャップを見ました、というときに何をもって見たというか、ですね。例えば、抵抗が急激に下がりました、磁化率が下がりましたとか...

K:では、定義せずに「あの領域」で、ということにすればどうでしょう?

S:それでは、実験と突き合わすことができないので駄目です。例えば、Y1237はオーバードープになりにくい物質なのですが、TCが93Kのものがわずかにオーバードープ側に(TCが)87Kまで下がりました。そこまでは良いのですが、その87Kの試料で擬ギャップを観測しましたという例はありますか?私は聞いたことはないのですが…。 一般的な相図を書けば、ちょっとオーバードープ側にずれたとしても開いていても構いませんよ、という言い方はできるかもしれません。しかし、slightly overdopeの領域で擬ギャップを観測しているのはBi系だけです。実験的にslightly overdopeのY1237での同様の領域で擬ギャップを観測した例は何一つないのです。けれども、抵抗の異方性は十分にありますし…・。

I:抵抗の異方性は関係ないです。片側が金属で、もう片側がconfineされて絶縁体的なふるまいかどうかです。

S: c軸の電気抵抗は金属ですが、これはチェーンの効果であって、私はプレーンはconfineされていると思います。これはT研のHusseyさんのY1248での実験ですね。ところが、光で見てみると、光はwPとダンピングを分けることができるところが直流と違うところで、光学伝導度でダンピングだけを見積もってみると、w=0までc軸のダンピングは他の軸よりも一桁大きいのです。それは、非常に異方的な散乱で…・。

I:しかし、異方性の強い金属であればそれは起きることですね。

S:一桁も緩和時間 t が違っている例はありますか?

T:ナイーブに考えてもずいぶん異方性が強くなっているという意味でのconfinementの使い方とT=0である方向に伝導度がゼロであるという使い方の2つがあって、I先生の定義は実は後者だけなのです。

S:私は、起源が一緒であると思っています。温度依存性が低温に向って上がるかどうかというのは、実験では見かけであって、High-TCでは常に金属的な成分と上がっていく成分が混ざっているわけです。高温では金属であるわけですから。

T:あれは金属であると思っていませんけど。

S:温度依存性で見れば、です。

I:ただ、単純に混ざっているのであれば、金属のチャンネルを通じて、普通は低温でも金属のままなのでは?

U:だから、Sさんの意見は、実際上は低温でも金属にみえる、ということですね。

I:つまり、それだと証拠にならないです。片側金属で片側絶縁体が見える領域が擬ギャップ領域以外でみえるか、というのが問題ですから。

S:絶縁体でなければならないのですか?

I:少なくとも温度が下がれば抵抗値が増大するような振舞いのことを言っています。

K:擬ギャップのない物質なのだから、金属のままになっていて良いのでは、ということですね。

U:むしろ金属であろうと考えるのが自然でしょう、と言っているわけですね。

S:金属であってもそのような変な金属があっても良いわけですか?例えば、残留抵抗は面内はゼロで、c軸はmWcmオーダーです。このような状況はconfinementとは言わないのでしょうか?

T:Iさんは、c軸抵抗がT=0で有限にとどまっていればよくて、むしろ発散されたら困るのではないですか?

I:そうです。

K: 残留抵抗が面内のときゼロで、面間のとき非常に高いのなら、金属のシートと絶縁体のシートが重なっている状況になっているのではないですか?

S:そうですね。だからconfinementだ、と言っているわけです。

K:いいえ。私はそれをconfinementとは呼びたくはないですね。

S:例えば、c軸の伝導から平均自由行程を見積もると、c軸長よりも短い。つまり、インコヒーレントな伝導です。

K:しかし、これを非常に低温にもっていったら金属になるでしょう。トンネル確率はどんなに離れていても有限であるわけですから…。 そこまで温度を下げたら、もうc軸は金属です。高温ではもちろん半導体的挙動はあるかもしれない。普通の金属でも絶縁体とのサンドイッチ状態を作れば、そういう性質は出てきます。

S: High-TC系ではないのに、サンドイッチはどうして簡単に導入できるのでしょうか?ジョセフソンのような積層を考えること自体、それがconfinementのモデルではないのでしょうか?

K:では、そのconfinementの種類が2つあると考えて、まず、ただ単に普通に理解できる金属と、普通に理解できる絶縁体を積み重ねただけでいいのか?を考えます。良いとしたら、今はそれをconfinementと呼ぶのはやめましょう、ということにします。confinementと呼ぶ場合には、金属自身が何らかの形で積極的にその中に電荷を閉じ込めていて、トンネルできない状況が出現している、それが、擬ギャップの領域では起こっているわけです。前者の場合にはconfinementとは呼ばないようにしようということです。

S:それは何と呼ぶのですか?

K:それは…・。 (笑)

S:そういう意味では完全なconfinementでないのはわかります。gradualにいろいろなものがクロスオーバー的に相図上を移っているのがHigh-TC系ですから、その中間的な状況がそれだと思います。つまり、slightly overdoped YBCOでは完全にはconfinementは融けていないのです。

I:普通のフェルミ液体と区別できる相があると主張するためには、片側がいつも絶縁体であることが言えないといけないですね。

S: YBCOで、何らかの形で超伝導を壊して低温まで測れればいいわけですね。

T:超伝導を壊すとまた別のものを見ているかもしれないですね。

S:実験的には確かめられないかもしれません。

T:あるいは超伝導が出ていないではないか、と言われるかもしれません。

I:面内と面間のふるまいが全く違うことがわかれば、それは非常に変な金属ですね。

S:面内が金属で面間がインコヒーレントの場合は、普通の金属の範疇に入りますか?

I:その場合、面内もインコヒーレントだと思います。面内がコヒーレントである保証はどこにもないです。

T:面間がインコヒーレントであれば、面内もインコヒーレントのはずで、実験的に面内が金属的に見えても、それは見せ掛けだということですね。

I:そうです。

S:しかし、温度依存性は金属的なのですが、実際、見積もるパラメターがインコヒーレントなのです。

I:そのときは面内もインコヒーレントだと思います。

T:本当にそのようになるのですか?それでは、普通の金属のシートを置いて、絶縁体で挟んだならどうなるのでしょう?面内はコヒーレントですね?

I: ある温度領域では、ですけど。

K:面間はインコヒーレントですね?

I:そういう温度領域を作ることができます。

K:半導体的に熱励起されたキャリアでいくような温度領域ですね。

T:それはあくまで有限温度での話です。

K:そうですね。

T:T=0では、これらが周期的につながって、これが周期ポテンシャルの恐いところで…。

K:だけど、きわめて低温にもっていけば、必ず今度はトンネルで飛ぶコヒーレントな伝導がc軸にも現れるだけのことで…。

T:それはconfinementとは呼ばないと思います。

K:それに反するようなデータが出ているのでしょうか?

T:バンド計算をどこまで信用するか難しい問題ですし、異方性をバンド計算が定量的に評価できるかどうかは難しい問題ですけれども、バンド計算が指摘する異方性のパラメターよりも10倍以上大きい。

I:バンド計算がちゃんと(p,0)のところを表せないために、そこのホッピングが非常に過大評価されてしまいます。

T:フラットなところですか?

I:はい。フラットなところはダンピングが大きいので、そこのところを過大評価してしまうので、異方性を少なく見積もってしまうわけです。だから、異方性が28倍違っても不思議はないですね。

K:とすると、charge confinementを積極的に説明できるのはスピン-電荷分離と、クーパー対の揺らぎが面内に限られるような起源のときですね。

I:それは擬ギャップの領域だけ見えているはずです。

K:擬ギャップのところで異方性がおかしくなって、だけど、超伝導のところではその異方性は同じですか?

I:超伝導になってしまえば、両側がコヒーレントになります。

K:超伝導状態の異方性と擬ギャップ状態のそれは、まったく独立ですね?

I:基本的には違いますね。

K:同じである理由はないですね。そこを問題にしたいのは、超伝導での異方性が測定されるようになってきて、normal stateでの異方性とあんまり差はないのです。つまり、重要な差があると報告した実験例はない。

I:異方性というのは、何から決めているのですか?

S:抵抗比です。rc(面間抵抗率)とra(面内抵抗率)の比からです。

I:超伝導状態ではゼロですね。

S:超伝導状態では磁場侵入長あるいはコヒーレンス長からです。

I:それが擬ギャップ領域と変化がない、というのは不思議な気がします。擬ギャップ領域では、異方性はどんどん拡大している領域で...

K:拡大していると言っても、超伝導転移直上でとるとそれほど大きな差ではないので…。

I:TCのところで、そんなに大きな変化はないだろう、ということはそれはそれで予測できますね。

K:ある場合もあるのですが、TCの直上でとりあえずrcとraを調べます。その比を見ると、だいたい、超伝導状態のlの異方性と同じくらいになっているのです。

I:lは非常に低温での値ですか?

K:はい、そうです。T=0でestimateした値です。だから、もうちょっと考えなくてはならないことがあるのではないかと思います。

I:…。

S:とても不思議ですね。

I:しかし、それは少し変ですね。

S:変ですけど、データは一人歩きしていますからね。

I:ものすごい勢いで異方性が大きくなって...

S: log-logプロットです。

T: TCのところの値はけっこう変なんですね。松田さんが最近されている実験で、ジョセフソンプラズマから見た電気抵抗の値はTC以下でそんなに小さくない。普通のジョセフソンカップリングではnormal stateの電気抵抗はリンクしていますけれども、高温超伝導体では全然リンクしていないから一体normal stateの抵抗とはなんぞや?ということになってしまうのです。

S: normal stateの抵抗と超伝導パラメターのリンクする余地がない状況です。

I:松田さんのデータはリンクしていないのですね。

T:していないです。

I:矛盾しているのですね。

T:そうです。この結果と松田さんのデータは一致していないです。

I:ちょっとあんまり深刻に考える気にならなくなってきました。(笑)

K:ただ、ピニングの臨界電流とピニングの強さを測ると、あるいは異方性係数、つまりrcとraの比とスケールするものが超伝導状態で結構存在します。例えば、ボルテックスの一次の相転移ですが、この一次の相転移線はどの物質をとっても異方性係数と良く相関するのです。これは、やっぱり、超伝導パラメターの異方性とノーマルの異方性が非常に良くスケールします。早く言えば、異方性係数がわかればボルテックス・メルティングの起こる磁場と温度の関係を予言できます。

S: HC2ですね。HC2はコヒーレンス長で決まっていますから、コヒーレンス長の比はvf(フェルミ速度)の比で決まっているわけですね。とすると、普通の金属では、有効質量の比になり、抵抗の比になってつながっているわけですね。

K:そうです。ただし、この場合、Hc2そのものではないですが、普通の金属と同じように超伝導とノーマルとの異方性が対応していると言いたいのです。

S: TCのところでconfinementに関する異方性を決めているメカニズムが変わるものであれば、変化しなくてはならないのですが、あんまり変わっているように見えないわけですね。

K:そうです。

S:超伝導パラメターの異方性についても十分理解に苦しむくらい大きな量ですね。

K:normal stateと超伝導の異方性の対応を否定している積極的な実験は今のところないですね。Sさんは、それについて疑ってはいるけれども、積極的には反対していない?

S:私は、むしろconfinementは xC を非常に短くするのに直結すると思っています。ただ、rcはconfinementだけで決まっていなくていろいろな要素が絡んでいますから、rcと結び付ける理由はないです。

K:Sさんは違っていると思っているわけですね?超伝導パラメターと常伝導の異方性係数は違っているはずであると?

S: rcのconfinementとそうでない部分を分離できれば、違っていると思います。

I:ペアが面内にできていて、c軸方向はジョセフソンカップリングでしか超伝導になっていなければ、異方性はいくらでも大きくなります。

S:そのとき異方性は何で決まりますか?

I:ジョセフソンカップリングがいかに弱いか、です。

S:その弱さは何で決まっていますか?それが、normal stateのときの電気抵抗に何か反映されているのかどうかについては?

U:元を正せば、ホッピングの行列要素で決まっているわけですから、抵抗そのものですね。

I:そのものではなくて、トランスファーの2乗です。ただ、松田さんの議論は(p,0)と(p/2,p/2)で役割が違っているということですね。そうなると関係は単純ではない。

 

その後、ここかしこで個別の議論が始まってしまい、収録不可能。結局、議論はとても終わりそうになく、そのまま、某飲み屋での懇親会へと場所が変わる。この座談会ではRVB派と目されるN氏が都合で急に参加できなくなったため、いずれ本誌において、この記事を見たN氏の意見を伺いたいと考えている。

また、上記の座談会に対しての意見をお寄せ頂ければ、スペースの許す限り掲載したいと考えている。ただし、なるべく端的な意見として、お纏め下さい。送付先は事務局:konodos@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp