SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 1, Feb. 2000.

9.Bi系高温超伝導線材の価格と将来見通しを公表
_アメリカンスーパーコンダクター社_


 最近、American Superconductor Corp.(ASC) のL.Masur氏(計画部長)が、自社のBi-2223線材技術の顕著な進展と線材価格及びコスト性能比の将来見通しを発表したことがあきらかになった。

 図に示されるように、ASC社は17 kmの長尺線材製造において、素線の平均エンジニアリング臨界電流密度JeとしてJe=14 kA/cm2(最高16 kA ,最低12 kA)を達成したと、報告している。これらの値はASC社の目標値10kA/cm2を十分上回り、多くの応用に対する技術的要求を満たすものであるが、経済的観点からすれば、さらに高いJeが要請されるだろう。ASC社製線材の性能は、この1年間の最適化努力によって8 kA/cm2から14 kA/cm2に向上した。L.Masur氏によればASC社の長尺線材のこのような性能は、他社線材の公表値に比べ、2倍高い値である。同氏はまた、ASC社はBi系テープの機械的強度を改善するユニークな方法を見出したとも語っている。

 酸化物分散によりAg母材を強化する方法に加えて、テープの両側を35ミクロン厚のステンレス鋼により補強するものである。この工程によってJeは33%減少するが、テープは77Kで400Mパスカルの引張応力と0.5%の引張歪みに耐えることができる。これらのテープでは、150Mパスカルに達する印加横方向圧縮応力によるIc劣化は5%より小さいという。

 また、同社は現在の生産能力200 km/年と、現在の性能レベルに基づいて線材価格情報を明らかにした。全量25 kmのBi系線材の価格は、現在kAm(77K, 自己磁場)あたり300ドルである。L.Masur氏によれば、将来における線材コストを低減する主な方法は、製造量を増すことである。同社のコストモデルでは、今日の10倍の製造量(2000 km/年)にすると、線材コストは50ドル/kAmに低減する。もし、27 Kおよび1T(c軸に垂直)で動作させるのであれば、このような線材量の製造コストは25ドル/kAmになるだろう。同社の主席技術官のA. Molozemoff氏は、「50ドル/kAmの価格が妥当である応用分野は、かなり存在するが、もっとも広範な応用分野を考えると、Bi系線材技術をさらに発展させる必要がある。あるいは、次世代線材技術に期待をかけるかである」とコメントした。

 線材価格情報を開示するというASC社の決断に関して、同氏は「我々の現在の方針は、線材を売り、全体として市場を活性化させることである。ここで報告した価格及び機能を達成するBi系線材の潜在能力に疑問符が投げかけられた、2000年までに達成するという意味からでなく、将来の何時においても問題となるからである。その故に、超伝導応用分野に刺激を与えようと決心したのである。今回の件は、今後起きることの始まりである」と語った。線材コストの開示と、線材の潜在的購買層への門戸開放とは、高温超伝導電力応用機器の市場を開拓しようとするASC社の方針変更の表われと言えよう。同社は、その戦略構想の発表において、今後同社は単に線材を販売するのではなく、むしろ付加価値が高く、エンジニヤリングを盛り込んだ高温超伝導製品を機器製造者へ提供したい、と語っている。

(こゆるぎ)