SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 1, Feb. 2000.

7.気相法による超電導線材の多段高速合成技術を開発
_中部電力・フジクラ_


 中部電力(株)と(株)フジクラは、このほど、気相合成手法における重要な検討課題であった線材作製速度の高速化に関して、多段合成手法および多層積層技術を開発することで、ケーブルを始めとする超電導電力機器の実用化に向けた基本技術を大きく前進させることに成功した。

 気相法による線材作製は、10p程度の結晶成長領域中を基材移動させながら基材表面に連続的に結晶を成長させることで行われているが、単に基材移動速度を高速化した場合では、結晶成長領域を移動する時間が短くなるため、超電導層の厚さが薄くなり十分な通電電流値を確保できなくなってしまう。したがって、これまでに報告されている線材作製速度は〜1m/h程度であり、今後実用レベルの作製速度(〜10m/h)を実現するためには、設備の大型化あるいは複数化が必要であった。一方、化学気相蒸着(CVD)法は、気相法の中でも高い真空度を必要としないプロセスであるため、設備がシンプルでスケールアップコストが安価な特徴を有している。本法において線材作製速度の高速化を図るためには、原料の供給量を増やして絶対的な結晶成長速度を上げる、または結晶成長領域を複数化して相対的に基材移動速度を上げることが必要であるが、いずれもパーツ単位のスケールアップにより対応が可能である。そこで今回、もっとも効果的に合成速度を向上でき、かつ実用レベルの合成速度達成を期待できる手段として、後者の相対的速度向上に関するリアクタの多段化に取り組んだ。

 図1はトリプルCVD装置の概略を、図2、図3は本装置により3m/hの合成速度で3層積層合成した11m-YBCOテープ線材の外観と断面微細組織を示している。今回の結果から、3回に分けて積層合成した超電導層の積層界面は連続的であり、本法により良好な結晶性を有するテープ線材を連続的に作製できることが確認された。また、今回は無配向のAgテープを基材としているため図2試料のJcは3×104A/cm2(77K、0T)に留まっているが、11m全長にわたり均一な特性を有しており、今後は、2軸配向した基材を導入することによる高Jc化が期待される。尾鍋和憲氏(フジクラ、材料技術研究所金属材料開発部係長)によれば、「トリプルCVD装置の開発では、3段のリアクタ内部におけるガス流れを制御し、相互の干渉を小さくすることが重要であり、そのようなリアクタを設計する上で、ガス流れをグリセリン液体で置き換える流体シミュレーションが非常に役立ちました。また、多層積層膜の合成に関しては、3つの結晶成長領域それぞれで異相成長のない最適な合成条件を見いだすことが重要でした。今後は、本手法を発展させて実用レベルの長尺化・高Jc化・高Ic化に取り組む予定です。」とのことである。

 今回開発の成果は、リアクタを3段化したトリプルCVD装置による多段合成手法を導入するとともに、3回に分けて合成した超電導層の積層界面を制御し一体化させる多層積層技術を開発したことであり、従来の3倍の合成速度(3m/h)での線材作製に成功した。本法では、リアクタの段数を増やすほど、線材作製速度の高速化をはかることが可能であり、気相法において実用レベルの線材作製速度(〜10m/h)で長尺線材を作製する見通しが得られた。フジクラの齊藤 隆氏(材料技術研究所主管部長)によれば、「今回の成果は、中部電力(株)と(株)フジクラで共同参加する通産省工業技術院ニューサンシャイン計画における、(財)国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)からの受託による超電導応用基盤技術研究開発に反映させ、最終目標であるkm級線材の開発を目指します。」とのことである。

(FSCD)


図1


図2

図3 三層積層YBCO/Agテープ線材の断面微細組織