SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 1, Feb. 2000.

6.Y系超伝導線材の長尺化・低コスト化に有望な新手法
_超電導工学研究所・古河電工_


 Y系超伝導線材の実現において大きな課題となっていた2軸配向基板テープの製造プロセスにおいて、基板の長尺化・低コスト化に有望な方法が超電導工学研究所と古河電工の共同で開発された。

 これはSOE法(Surface-Oxidation Epitaxy:表面酸化エピタキシー)と呼ばれる方法で、この基板上で最近、実用的な値である臨界電流密度Jc=0.3〜0.5 MA/cm2(77 K,自己磁界)が得られるようになってきている。この手法を最適化することによって1MA/cm2を越えるJcも可能であると考えられている。新しい成果はPhysica Cの最新号に掲載される。

 SOE法ではニッケルテープを表面酸化して、テープ表面に2軸配向したニッケル酸化物(NiO)を形成する。この上にYBCO等の超電導膜をエピタキシャル成長させることによって高いJcが得られる。SOE法そのものは、すでに1997年に超電導工学研究所と古河電工の共同で開発されている。

 SOE法の最大の特徴は2軸配向したNiO層を形成する技術にある。そのためには圧延加工されたニッケルテープに熱処理を加えて、金属組織を2軸配向化させる。このテープを表面酸化させると、テープ表面にNiOが形成されるが、このときNiOが金属基板表面に対してエピタキシャルに成長する条件を選ぶことでNiOを2軸配向化させることができる。NiO層はYBCO膜と下地のニッケルテープとの反応抑制に利用されるとともに、2軸配向性を有しているため、この上に2軸配向したYBCO膜を成膜することができて高Jcが実現できる。

 これまで開発されてきた2軸配向基板テープ作製の代表的な手法としてはIBAD(イオンビームアシステッドデポジション)法とRABiTS(ローリングアシステッドバイアクチャリーテクスチャードサブストレート)法がある。これらは気相法を用いた薄膜法で金属テープ上に2軸配向した酸化物層を形成させるのが特徴である。IBAD法ではハステロイ/YSZ/Y2O3の組み合わせ、RABiTS法ではニッケル/CeO2/YSZ/CeO2等の組み合わせが一般的である。これらの基板上ではすでに1MA/cm2を越えるJcが実現している。

 SOE法ではYBCO膜の作製に適した2軸配向酸化物層を、金属表面の酸化処理で実現する。この点は大変ユニークであり、基板の長尺化・低コスト化に有効である。2軸配向したニッケルテープは電気炉中で大量に作製できるので、1000 m級のテープ作製も容易である。このテープに表面酸化処理を施すことによって、2軸配向制御されたNiO酸化物層を有する長尺基板テープが一息に作製できる。1000 m級の2軸配向酸化物基板テープの作製も近い将来実現の可能性がでてきた。

 現時点ではNiO上で高い臨界電流密度を実現するにはNiO上に薄いMgO層やCeO2層等をコートしておく必要がある(図参照)。これらの酸化物キャップ層のコートはNiO表面の平坦化や粒界を伝わってやってくるニッケル原子の拡散の抑制に効果があると考えられている。しかしキャップ層のコートによってSOE法の優位性が失われることはないと考えられる。というのもキャップ層の厚さは数10 nmときわめて薄くて十分であり、高速の成膜が可能であるからである。

 SOE法の発明者で現在、古河電工でSOE法の長尺化を進めている松本 要主席研究員は、「現在の作製条件でも10 m級のSOE基板テープが作れる。SOE法による長尺基板テープ上にMOD法やLPE法等の非真空プロセスでYBCO膜を成膜できれば低コストのY系超伝導線材が実現できるだろう。また電子ビーム蒸着法のような大量生産に適した手法の活用も有望である。SOE法の特徴を生かせれば実用的なY系超伝導線材の実現に早く到達できるのではないか。」と述べている。

(臨海音頭)