水谷教授らは彼らのグループで開発したAg添加Sm123系超電導バルク体を冷凍機で35Kまで冷却し7.2テスラの磁場で着磁することにより、その表面で6.7テスラ、真空容器の外の自由空間で3.2テスラの磁場を発生させた。着磁された超電導体はその中心軸上に鋭く絞られた強力な磁場を発生するので、超電導永久磁石を着磁すべきNd-Fe-B板上で走査させることによりその着磁を試みた。図には50mm×50mm×5mmのNd-Fe-B板上を10mmピッチで走査して得られた捕捉磁場分布を示す。捕捉磁場は走査方向に直角で板の中心を通る線に沿ってホール素子を用いて測定した。中央の値が低いのは板の形状による反磁場効果のためである。走査したことによる捕捉磁場の乱れは見られない。また、着磁された板の表と裏で分布に差はない。さらに、3テスラの均一磁場で着磁した場合の結果とも有意な差がないことから超電導永久磁石を走査させることでNd-Fe-B板が完全着磁出来たことがわかる。
Nd-Fe-B永久磁石は現在広く使われているが、例えば医療機関で使われているMRI(磁気共鳴診断装置)の場合、すでに磁石になったものを並べるため、磁石間の反発力に打ち勝つべく特殊な装置と多大な労力を使って製造されている。
今回開発された方法ならば、着磁前の材料を並べた後に超電導永久磁石を走査させて着磁出来るので労力の大幅な節減につながると考えられる。現在5mm厚については完全着磁を確認しているが、さらに肉厚のNd-Fe-B板になるとその裏側まで完全に着磁することがむずかしくなるため、超電導永久磁石の捕捉磁場をさらに増加することが必要である。
水谷教授は、「今回の成功は優れた超電導材料の開発とともに、それを冷凍機、真空系と組み合わせてシステム化出来たことによる」と述べ、さらに、「超電導永久磁石システムはピンポイント状に絞られた3テスラを越える磁場を空間に発生するので、MRI以外の用途にも有望であり、鋭い磁場勾配を必要とする装置への応用が進行中である」と結んでいる。
(葵)