これら一連の試験の目的は実機と同等のコイル構造、冷却システムそして支持構造を有する伝導冷却型高温超電導コイル(写真1)を製作・試験することによって、実機コイルの電気設計、熱設計、機械設計の妥当性を確認することである。また純銀シース線および合金シース線で製作したパンケーキコイルの性能評価を通して、各コイルの製造上の問題点を抽出することも目的の一つに上げている。
今回の試験は製作した各パンケーキコイルの電磁力(フープ力)に対する機械的強度が十分であることを確認するために実施されたものである。実機コイルで加わるフープ応力を摸擬するため、上述した4枚のパンケーキコイルを直列に接続し、実機コイルの定格電流(20 A)の約2倍(380 A)の過電流を流すことで、実機コイルで生じるフープ応力(約46 MPa)を発生させている。この通電電流での発生磁場はコイル中心で0.54 T、巻線部の最大経験磁界で1.54 Tである。各コイルは実機相当のフープ応力を印加した前後でその通電特性に相違がないことから、今回の試験でコイルの機械的な健全性が確認された。これにより合金シースパンケーキはもちろんのこと純銀シースパンケーキも機械的に十分な強度を有することが実証され、実機コイルを製作するに当ってのハードルがまた一つクリアされたことになる。
今回新たに製作された2つのパンケーキコイルに用いられた6本の合金シース線(厚さ0.25 mm、幅4 mm)は住友電気工業(株)が製作したもので、単長800 m、臨界電流40〜50A at 77 Kの性能を有しており、これは純銀シース線と比較しても遜色ないものである。さらに、シース材を合金化したことにより線材の機械強度が大幅に向上し非常に扱い易いものになっている。コイル開発を担当した東芝電力システム社の小野通隆氏によれば、プロジェクトが始まった当初は機械的に脆弱な純銀シース線が主流であったため、コイルの設計・製作において多くのエネルギーが歪対策に注がれ半田上げなどの作業にも厳密な管理が必要であったが、合金化された強化線を用いる場合にはコイル製作に際してのリスクが飛躍的に低減され、安心してコイルを製作できる、と語っている。
また、今回の試験に用いられた小型GM(Gifford-McMahon)冷凍機は実機の高温超電導マグネット用に新たに開発されたものであり、高効率でしかも20 Kレベルでの冷凍能力が大きいことが特色となっている。開発された冷凍機は3.3 kWのコンプレッサーを用いて、1段ステージ60 W、2段ステージ20 Wの熱負荷に対し、それぞれ73 K、18 Kという性能を有している。冷凍機の開発を担当した東芝電力・産業システム技術開発センターの大谷安見氏は圧縮比の最適化により、20 Kでの効率の向上を図ったとコメントしている。
(低温常伝導vs高温超電導)
図1 世界の伝導冷却型高温超電導コイル開発現状