本書はA5版326ページの超伝導物質と材料全体を概観する書であり、第1章で超伝導材料が備えるべき必要な要件が解説され、その応用例が示されている。
第2章では、これまでどのような超伝導物質が発見されてきたのかを種々の元素、合金、金属間化合物、酸化物、有機物、フラーレンから有機超伝導体に至るまで、物質群ごとにまとめ、その構造と電子的性質の特徴を述べている。
第3章では実用ないし実用に近い超伝導線材について、MbTi系、A15化合物、シェブレル化合物、Y123系、Bi2212、Bi2223、Tl1223のそれぞれの線材について、線材の作製方法、微細組織とその制御法、ピン止め中心、臨界電流の特徴、交流損失、機械的性質、多芯線の効用、シース材料などについて要点の解説がなされている。
第4章ではバルク実用材料として単結晶および半溶融凝固材料、焼結体材料としてのY123、Bi2212、Bi2223系材料についてそのプロセスを紹介し、電流リード、磁気シールドなどの応用について述べている。
第5章は薄膜応用に関する章で、ジョセフソン効果などの基本についての紹介と、金属系および酸化物系超伝導薄膜のプロセスについて基板材料から雰囲気の制御まで、そして、薄膜超伝導材料の応用について紹介している。
本書はこれ1冊で、超伝導材料の全体像を掴むことができるという点で類書を見ないといえるだろう。また、学生のために各章に演習問題が付されて理解を促進するように工夫されている点で、教科書としても工夫され、超伝導材料科学の立場に徹して書かれている。
著者の長村光造氏は 京都大学工学部において永年金属から高温超伝導まで幅広く超伝導材料の研究に携わってこられており、材料間の比較検討はまさに書かれるべき人によって書かれた書という印象を受ける。(KAY)