SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 1, Feb. 2000.

10.パルス管冷凍機冷却式9 T超電導マグネットの開発
_米国クライオマグネティクス社_


 1999年11月1日付のSuperconductor Week誌によるとクライオマグネティクス社(米)はパルス管冷凍機を用いた冷凍機冷却式9 T超電導マグネットシステムを試作した。超電導マグネットをパルス管冷凍機で冷却し運転したのはこれが世界最初である。このシステムは、クライオメック社(米)のC.Wang博士によって開発された二段式パルス管冷凍機(型式:PT405、本誌Vol.8、No.3、June 1999に既報)を使って、中間温度シールドとBi-2223高温超伝導体電流リードを50 Kに、NbTi マグネットを4 Kに冷却している。C.Wang博士はかってギーセン大学(独)で4 Kパルス管冷凍機の開発を行い、超電導マグネットの冷却試験にも成功している。クライオメック社に移った後、4Kパルス管冷凍機の高性能化を実現した。

 本超電導マグネットシステムの大きさは外径17インチ、長さ12インチ、室温ボア径32 mmで、冷凍機はシステムの上部から垂直に取り付けられている。磁場の均一性は直径10 mmの容積で0.1 %である。 室温からおよそ14時間でクールダウンし、1時間以内にマグネットを励磁できる。9.2 Tでマグネットをクエンチ後、3時間以内に運転温度に復帰した。システムに使った高温超伝導リードはクライオマグネティックス社が開発した。

 4K-GM(ギホード・マクマホン)冷凍機を使った実用的な冷凍機冷却式超電導マグネットシステムは1992年に東北大学金属材料研究所と住友重機械工業が共同で実現した後、多くの報告がある。国内ではすでに住友重機械工業、神戸製鋼所、大陽東洋酸素、日本オートマティックから商品化され、液体ヘリウムの取り扱い経験のないユーザーでも手軽に使える超電導マグネットとして広範囲に利用されている。需要は中心磁場5 T程度の汎用機と10から15 Tの高磁場用のものとが多いようだ。各社とも磁場や室温ボア径の大きさ、マグネットの形状等で10種類程度のシステムを標準化している。システムを回転式架台に取り付け、マグネットの配置を垂直と水平に切り替えて使用可能なものもある。開発の経過は「伝導冷却型超電導マグネット特集」(低温工学Vol.34、No.5 1999)に詳しく解説されている。

 4 Kパルス管冷凍機を使った超電導マグネットシステムの利点は低振動である。パルス管冷凍機は可動の低温部品を持っていないので、可動ディスプレーサを使う4K-GM冷凍機に比べ格段に振動が小さくなる。従来の冷凍機を利用できなかった振動に敏感な実験にはパルス管冷凍機冷却型超電導マグネットを使用することができるだろう。欠点はまだ冷凍出力が0.5 Wと小さく冷却できる超電導マグネットの大きさが限られること、また一般にパルス管冷凍機は取り付け方向によって性能が変わるためマグネットの設置方向を変える用途には使えないであろう。

 4Kパルス管冷凍機は日本大学が最初に実現した後、国内ではアイシン精機も試作に成功している。海外では中国、ドイツ、オランダで熱心に開発を続けているが、商品化は米国が先行した。50 K以上で利用する一段式パルス管冷凍機の実用化・商品化は日本が先行し岩谷産業とアイシン精機がいち早く製品化を行い、ダイキン工業も近々製品化を計画中といわれる。パルス管冷凍機の用途は電子顕微鏡に取り付けられる元素分析器などの半導体素子冷却、NMR容器の液体窒素蒸発防止、赤外天体望遠鏡用CCDの冷却など、特に振動を嫌う用途に採用が進んでいる。一方、移動体通信用超電導フィルターの冷却など振動をそれほど問題にしない用途では既存のGM冷凍機やスターリング冷凍機との競合に苦戦しているようだ。

 岩谷産業滋賀技術センターの西谷富雄課長代理によると、パルス管冷凍機はパルス管の内部で対流を生じるため性能が設置方向に依存し、取り付け方向が制限されるものもある。岩谷産業が商品化しているパルス管冷凍機を例に取ると表のように、低温部を下向きに設置する垂直方向でのみ使えるもの、垂直・水平で性能の差が無いものがあり、用途によって使い分けられているという。

(近江富士)