SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 9, No. 1, Feb.2000.

1.世界最高の高分解能NMRマグネット
−金材研、神戸製鋼が900MHz超級NMRマグネットを開発−


 金属材料技術研究所強磁場ステーション(TML)は(株)神戸製鋼所と共同で、世界で初めて900MHz超級の溶液NMR用超伝導マグネット開発に成功した。

 TML和田仁総合研究官のグループは、科学技術庁の超伝導材料研究マルチコアプロジェクト第U期の一環として、1 GHz級NMRマグネットの開発を行ってきた(本誌Vol.8, No.1, 1999通巻37号参照)。 これはNbTi及びNb3Snの金属系超伝導線材を使用する外層マグネットにBi系酸化物線材で作製した内層マグネットを組み込んで、プロトンの核磁気共鳴周波数1GHzに相当する磁場23.5 Tを発生するNMRマグネットを開発する計画で、2002年3月の完成を予定している。

 金属系外層マグネットについては(株)神戸製鋼所との共同開発を行ってきたが、このたび、内層マグネットをNb3Sn線材によって作製した形で、21.17 Tの磁場を永久電流モードで発生することに成功した。これはプロトンの共鳴周波数902 MHzに対応する。これまでに開発されたNMRマグネットは800 MHzが最高であり、この度の成果は世界に先駆けて900 MHzを超えるNMRマグネットを開発したことになる。

 製作したマグネットは外径約1.3 m、高さ約1.6 mの大きさで、最も磁場の強いコイル部分には強磁場特性の優れた15%スズ濃度Ti添加Nb3Sn線材を、最も電磁力が強大となる部分には機械的強度の優れたTa補強Ti添加Nb3Sn線材を使用している。マグネットは写真に示す外径約1.9 m、高さ3.6 mのクライオスタットに入れられており、総重量は約13トン。加圧超流動ヘリウムによって超伝導コイルは1.8 K以下まで冷却され、直径54 mmの室温ボア中に21.2 Tを発生した後、21.17 Tで永久電流モードの運転に移行した。このマグネットは920 MHzまで発生できる能力があり、今後、磁場の時間的安定度の確認、均一度の調整を行いながら、さらに高い磁場における永久電流モード運転を目指す。

 共同でマグネットの開発に当たったTMLの木吉司ユニットリーダーと神戸製鋼所の林征治超電導プロジェクトリーダーは、「タンパク質の基本構造の解明にはより高い磁場のNMRマグネットが求められており、例えば理化学研究所ゲノム科学総合研究センターでは、900 MHz級のNMRマグネットが複数台設置される予定である。本成果がこのような生命科学の分野での成果につながることを期待しながら、今後の開発を続けて行きたい。」と語っている。

(ピカチュウのパパ)


写真:開発した900 MHzNMRマグネット。

最終目標である1GHzがマーキングされている