SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 6, Dec. 1999.


8. 送電ケーブル向け
Bi2223銀合金シースツイスト線材の交流損失低減
−東電・古河電工−


 NbTi線などの金属系超電導線または導体の交流損失レベルを下げるためには、「フィラメントを細くする」、「ツイストピッチを短くする」、「抵抗率の大きなマトリックスを使用する」という答えが返ってくる。高温超電導線材の場合でも同じことが言えるのか(できるのか)という問いに対して、一つの答えとなる報告が、10月に盛岡で行われたISS'99で、東京電力と古河電工のグループからなされた。

 今回開発された高温超電導線は、Bi2223フィラメントが銀シースに埋め込まれた銀シース多芯テープ線材のフィラメントがツイストされて、更にマトリックスの一部をAgMg合金としたものである。従来から、数mm厚さの細いBi2223フィラメントが銀シースの中に多数本埋め込まれた多芯構造のBi銀シース線材はあったが、フィラメントはツイストがされていなかった。このような線材では、交流磁界に対して、純銀シースの抵抗が低いために、フィラメントは一つの束として振る舞い(磁気的に結合して)、大きなヒステリシス損失が発生していた。今回開発された線材は、ツイストピッチ10 mmと短いピッチでツイストされ、さらにシースの一部にAgMg合金を使用することで、従来の純銀シーステープ線と比較して交流損失が1/3まで低減された。しかも機械的強さは2倍に改善されている。また、この線を使用して超電導送電ケーブル用のスパイラル導体を試作し、導体としての交流損失も測定された。その結果、ツイストを行っていない線を用いた導体より交流損失が半分まで低減したと報告していた。線材開発を担当した古河電工の三村正直主任研究員は、「当初ツイストしただけでは交流損失を低減することはできなかったが、作製条件を最適化することにより線材全断面積当たりの臨界電流密度(Je)を下げずに交流損失を低減することができた。」と述べている。

 東京電力と古河電工は、高温超電導送電ケーブルの開発を進めているが、地中送電設備建設のコストダウンと都市地下空間の有効活用のために、150 mmφ管路に収納可能なコンパクトで経済的な超電導ケーブルを開発目標としている。コンパクト化・送電効率アップのためには、交流損失の低減が必須で導体1本当たり1W/mが目標とされ、交流損失低減の研究が進められている。同グループでケーブルの設計を担当している古河電工の向山晋一主任研究員は、「超電導送電ケーブルにおいては高温超電導線のJcを高めていくことは必須事項だが,交流応用を考えた場合,交流損失も同時に小さいというバランスが取れた線材が必要と考えている。今回のツイスト線材は、手法こそ金属系線材の極細多芯線と同じであるが、脆弱な酸化物でできた高温超電導線でこのようなツイストができ、予想通り交流損失が低減したということは、地味ではあるが大きな成果だと考えている。」と述べている。

(「安全荷重+5kg」)

図1 フィラメントツイスト線

図2 フィラメントツイスト線を用いた導体

図3 一部シースをAgMg合金化された
Bi2223フィラメントツイスト線材の外部磁化損失